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264  作者: Nora_
7/10

07

「来たと思ったら今度は私のベッドで夜まで爆睡ってどういうことよ」

「あはは……気持ちよさそうに寝ていますね」

「もう十九時になりそうなところなんだけど?」

「そうですね」


 私もそろそろ帰らなければならない。

 でも、もっと早めに解散になると思っていたからこれはかなり嬉しかった。

 丹下さんが寝ていたということはその……彼女を独占できていたことになるわけだから……。


「クリスマスの夜にこれってどうなの……?」

「さや……が嫌ではないなら泊めてあげてください」

「え、嫌よ、泊めるならあんたを泊めるわ」


 お、起きてもらわなければっ。

 それで丹下さんを送ったそのままで帰るのだ。

 クリスマスの夜に好きな人と二人きりなんて耐えられるわけがない。

 しかも今日は少し変でいまみたいなことを平気で言ってきたりするから危険なのだ。


「ふっ、分かったよ、私は空気を読んで帰るよ」

「い、一緒に帰りましょうっ」

「いいのかい? そうか、それならそういうことで終わりにしよう」


 違うキャラを演じるの……疲れないのかな?

 と、とにかく、言い争いにもならずに玄関まで戻ってくることができた。

 ここで靴を履いて「今日はありがとうございました」と挨拶を済ますことができれば完璧だ。


「なんか心配になるから私もいくわ」

「そうかい? ふふ、ありがたいね」

「あんたそれやめて」

「さやさやが来てくれて嬉しー」

「それもやめろ」


 まだ外で別れられた方がいいか。

 間に扉があると別れるときに寂しくなる。

 結局、別れることになるのは確定しているけどそれだけで違う。


「ふぁ……今日は寝すぎちゃった」

「本当よ、十四時ぐらいからずっと寝るってどうなの?」

「それだけ二人の近くにいられると落ち着くんだよ」

「はいはい」


 寒い。

 とはいえ、雪が降るような場所ではないことが救いだ。


「あーもう家かー」

「ま、風邪を引かないようにしなさい」

「うん、ありがとね。こづえさんも、ね?」

「はい、今日はありがとうございました」


 明日になったらお店にいって手袋を買ってこよう、まだまだ寒い時間は続くから無駄にはならない。


「で、あんたどうすんの?」

「今日は帰ります、これ以上甘えてしまったら駄目だと思うので」

「甘えていいよ……って言ったら?」


 ……これだったら扉さんになんとかしてもらった方がよかったのかもしれない。

 く、クリスマスだからだろうか?


「あっ、き、着替えがないので」

「それなら取りにいけばいいじゃない」

「お、お昼にあんなに食べたのにお腹が空いてしまっているんです」

「それならなにか食べにいく? どうせ外にいるんだから少し伸びてもそう変わらないわよ」


 こ、これだと彼女が私と過ごしたがっているように見えてしまうっ。


「泊めたり泊まったりはこれまでしたことがなかったけどさ、そろそろいいでしょ?」

「わ、分かりました、それなら取ってきます! さや……はお家で待っていてください!」


 冷えた体には丁度よかった。

 急いでいるのと、温めるために走っていたらすぐにお家に着いた。

 着替えや歯磨きセットをかき集めてリュックにバンと!

 それで出ていこうとしたときにそういえばと菓子パンの存在を思い出してそれも入れておいた。


「いってきます!」


 もう寒くなんかなかった。

 よく冷たいと言われる手もいまなら温かいと思う。

 走って走って、彼女のお家が見えてきたところで緩めて。


「着きました――って、ええ!?」


 玄関前で座っていて尻もちをつきそうになった。

 私が暗闇を恐れるヒロインみたいな属性を持っていたらそのことといきなり人が現れたことになって間違いなく悲鳴を上げている。


「……あんたうるさい」

「ど、どうして中で待っていなかったんですか!」

「別にいいじゃん、どうせあんたを迎えるためにここに来なきゃいけないんだから……」


 は、早くお家の中に入れないと。

 なのにいまに限って素直に言うことを聞いてくれない彼女がいる。


「なんで一人でいったの」

「それはここに戻らなければいけないからです、さや……が無駄なことをする必要はないんですよ」

「別に無駄とは思わないけど、あといちいち名前を呼んだ後に間を作るのやめてくれない?」

「お、おお、少しずつ戻ってきましたね」

「はあ……? はぁ……もう中に入りましょ」


 そう、それがいい。

 走った私と違ってとても冷えているだろうから彼女にはお布団の中に入ってもらう。

 そうしたら顔ごと隠してしまったけど温まるならそれでいい。


「つか夜ご飯は? 私、お腹が空いたんだけど」

「あ、菓子パンを持ってきました」


 じゃじゃーんと! うん、二個入っているから二人で食べることができる。


「それはあんたが食べなさい、私は下で少し探してくるわ」

「お店にいきますか?」

「んー今日だけで結構お金を使っているからやめておくわ。見つけたら飲み物を持ってくるから食べていてもいいし、待つなら本でも読んでのんびりしてくれればいいわ」


 しまった、これならなにか買ってくるべきだった。

 さやのお部屋に一人でいてもなにができるわけでもないし、寂しいだけだ。

 一人で先に食べたらお腹は満たされるけど一緒に食べられた方がいいから待っておく。

 それでも入口近くのところで寝転ばせてもらうことに。


「にゃ~」

「あ、サヤさん、こんばんは」


 はは、「こいつまた来たのか」とか思われていないだろうか。

 こちらをじっと見てきていたから抱き上げると「にゃ~」と再度鳴く。

 今日のさやはこの子みたいに甘えん坊のように感じる。

 これがアニメの世界とかなら実は入れ替わっていた~なんてこともあるかもしれないけどここは現実だ、そんなことはありえない。

 あと、私がいると片方ずつ来るところは今回も変わっていないようだ。


「よろしくお願いします」


 このお家では先輩だから改めて挨拶をしておく。

 サヤさんはあまり分かっていなさそうだった。




「んがっ……あれ……?」


 もう真っ暗だ。

 体を起こしてスマホで確認をしてみると現在時刻は二十三時十二分、なんとも言えない時間だった。

 その光を頼りにベッドも確かめてみると、


「あれ」


 さやは寝ていなかった。

 お部屋中を探してみてもいない、だけど勝手に移動するわけにもいかない。

 というか私もよく、寝られたものだと笑いたくなる。

 だってお布団とかも借りていないうえにサヤさん達がいつでも入ってこられるようにと扉が開けっ放しだったからだ。

 普通は冷えて「はっくしゅ!」などと寒さに負けて飛び起きているところだと思うけどいままでなにも問題がなかった――うん、それは問題ない。

 問題があるとすればお風呂に入っていないことと、歯を磨いていないということ。

 このまま寝るわけにもいかないから一応、着替えなんかも持って一階にいってみることにした。


「「あ」」


 な、何故かあと一階まであと一段というところにさやが座っていて固まる。


「あんた起きたのね」

「は、はい。あの、洗面所を借りてもいいですか?」

「お風呂に入ったりしたいんでしょ、いってきなさい」


 しまった、なんでシャンプーとかを持ってこなかったのか!

 二人でいっておけばこんなことにはならなかったのかな……。

 とりあえずは歯を磨かせてもらっていると「先に入らないのね」とさやが。


「き、来てくれたんですね」

「ま、初めてだから色々と教えてあげないといけないでしょ」


 何種類もあるわけではなくて一つずつだったから苦労はしなさそうだ。


「あ、あの、出ていかない……んですか?」

「ここにいたい」

「そ、それならせめて脱いで入ってからにしてくれませんと……」

「同性同士なんだから別にいいでしょ」


 分かった、これは夢だ!

 夢なら問題ないと片付けて、かといって見ることができても全然嬉しくない体だろうからこそこそ脱いで浴室へ入らせてもらった。

 それで洗わせてもらっている最中になにか違和感があって気になった。

 なんだろう、お家の浴室とはなにかが露骨に違う。


「こづえ」

「あ、は、はい」

「あんたなにも掛けずに寝るのはやめなさいよ、あと温めておいたからすぐに入れるわよ」

「もっともです、気を付けます」


 うん、夢なわけがないよね。

 あと、本当にいましてくれたみたいにお湯が温かくてひえ!? とはならなかった。


「あの、なにか違う感じがしたんですけど……どうしてですかね?」

「は? そんな曖昧な言い方をされても分からないんだけど」

「私のお家の浴室と違うんですよ」

「そうなの……? んー床暖房で温かくなっているのは――」

「あっ、それです! お湯でなんとか対処しなくても温かいんです!」


 なんてことだ……。

 ただ床が暖かいというだけでここまで違うとは。

 これなら十五分ぐらいまで縮まったお風呂から出る時間最速記録も更に更新できるかもしれない。


「もう出ますね」

「うん、廊下で待っているわ」


 扉を開けられたりしなくてよかったぁ……。

 風邪を引かないようにちゃんとタオルで――これも借り物か……。

 ちゃ、ちゃんと拭いて、ちゃんと着て廊下に出ると「部屋に戻りましょ」と、しかも今回は私の手を掴んでさやは歩き出した。


「あ、布団か……もう面倒くさいからあんたもベッドで寝なさい」

「わ、分かりました」


 お部屋に入るとすぐに誘われたのでベッドに寝転ばせてもらう。

 コヅエさんとサヤさんはベッドには乗ってこないで床でそのまま寝るみたいだ。

「電気を消すわよ」と彼女が消したことですぐに先程みたいに真っ黒になった。


「こづえ、こっち向いて」

「は、はい」

「もうこのまま抱きしめて寝るわ」


 そんな抱き枕とかではないのだから――ではない。

 いい意味であっても破壊マシーンになるのはやめてほしかった。




「ほほーまさかこんなところが見られるなんてねー」

「……おはようございます」


 やっと朝がきた、ついでに丹下さんもきた。

 器用に抱きしめながら寝ているから動けはしないものの、二人きりの状態よりは遥かにいい。


「おはよう!――もしかして寝られなかった?」

「はい……全然駄目でした」

「はははっ、こづえさんは乙女だねー」


 丹下さんも好きな人に抱きしめられながら寝ることになったら……寝られるか。

 逆に物凄く甘えて離さない側なのが彼女なのかもしれない。


「やいやいっ、そろそろ起きたらどうだい!」

「う」

「う?」


 なんか嫌な予感がする。


「うっさいわよボケー!」

「ぎゃふぁん!?」


 あ、もしかしたら起きていたのかな?

 それならそれでよく続けられていたなというのが正直なところだ。

 昨日だけのものかもしれないからしっかり覚えておこう。


「ははは……いい一撃だった……ぜ」

「はあ……なんであんたがいんのよ」

「お母様が入れてくれたんだ!」


 そういえば私はまだまともにさやのお母さんと話したことがない、出ていく前にしっかりと話しておいた方がいい気が……。


「ま、それはそうでしょうけど――ふぁ……顔でも洗ってくるわ、こづえもいきましょ」

「はい」


 起きたらすぐに歯を磨いきたい人間なので歯ブラシも忘れない。

 それで昨日のように借りてシャコシャコ磨いていると「昨日はありがとね」と急にお礼を言われてしまった。

 口内が忙しかったからすぐには答えられなかったけど、


「泊めてくれてありがとうございました」


 すぐに返すことができた。


「さや――」

「なにも言わないで」


 温かい。

 彼女の体温に触れているとずっとこのままでいたくなる。

 私もぎゅっと抱きしめ返したり……はできなかったからそっと触れるだけにしておくしかない。


「よし、朝ご飯でも作るわ、だってあんたなにも食べていないでしょ?」

「そういえばそうでした、私もお手伝いしますよ」

「うん」


 それこそ他のカップルさん達よりもそれっぽいことができてしまっている気がする。

 でも、彼女が触れてくるからとこのまま曖昧なままにしておくのは不味いことも分かる。


「あ、私はお母さんが作ってくれたご飯を食べたから大丈夫だよ」

「って、それなら私の分ってなかったの?」

「てへ」

「あんたまさか……食べたってこと!? この馬鹿!」

「待って待ってっ、そもそもないと思っていたからこそこづえさんと一緒にご飯を作ろうとしていたんでしょっ?」


 確かに丹下さんの言いたいことも分かる。


「私の分があったらそれをこづえに食べてもらったのに」

「ごめんなさい!」

「まあいいわ。結局最初の通り、ただ作ればいいんだからね」


 卵が多くあるということで二つも目玉焼きを貰うことになってしまった、ちゃんとサラダもあって朝から豪華だ。

 ただ、このセットを二つも丹下さんは食べてしまったことになるからよくお腹が持つな、というところ。


「ベーコンもあるわよ」

「ごくり」

「あんたどれだけ食いしん坊なのよ。まあ……別に食べられるなら食べればいいけど」

「え、なんか優しくて怖い……」

「元々あんたに厳しくしたことなんてなかったでしょ」


 それはそうだ、丹下さんにだけ意地悪をする子ではない。

 言い方を変えると私だけを優先するようなことはない、はずだったのに昨日から変だ。

 今日もしてきたということはクリスマスの雰囲気にやられているというわけでもないし……自惚れのようにしか感じないけどあれが彼女のしたいことだった……?


「目玉焼きはもう六つ目でベーコンも六枚目だけど美味しー」

「あんたよく太らないわね」

「私、いくら食べてもお肉がつかないんだ、だから中学生のときは苦労したよ」

「こいつ……言ってみたいことをさらっと……」

「いいことじゃないよ」


 食べ終えたら流石に解散にしてもらって走ったり、手袋を買いにいかないと。

 急だけど急にそうしたい気持ちが強くなってしまったので仕方がないと片付けつつ、結局彼女だけが作ってくれた朝ご飯を食べさせてもらったのだった。

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