06
十二月二十五日になった、それはつまりクリスマスがきたということになる。
二十三日から冬休みが始まったことであまり実感が湧かないけど間違いない。
「よ、今日も来たわよー」
入れないように頼んでいるわけではないから両親のどちらかが彼女をお家の中に入れてしまうのはいい、ただ両親がいる時間に合わせて来ているわけだから相当早い時間に来ていることが問題だ。
だってお家には私もいるのだから起きてからでも遅くはない。
「結局こうして九時半頃に顔を出すならそれに合わせればいいと思います」
この時間、両親はもうお仕事にいっているからいない。
なにをしているのかは分からないものの、下とかで時間をつぶしていることは確定している。
用があるならすぐに来ないのも謎だった。
こういうときに遠慮をしないで来るのが彼女だろう。
「嫌よ、あんたって休みの日は十時頃まで寝ていることがあるから駄目なのよ」
「それなら連絡をするとか……」
意地を張ったところで冷えてしまうだけなのに。
「さ、あんたは準備を済ませて、またあの公園にいくわよ」
「コヅエさんとサヤさんも運動しないといけないですからね」
「あ、今日は丹下も呼んで遊びにいきたいってだけ、公園は集合場所として利用するだけね」
せっかくお友達になれたのだから三人でお出かけできるのはありがたい。
あとは一応、負けないためにも二人で盛り上がってくれることが大事だった。
どのぐらいの時間まで外にいるつもりなのかは分からないけど私は金魚のフンみたいに付いていくだけだ。
「ま、その前にコヅエ達を見たいとかで私の家にいかないといけないんだけどね」
「それなら最初から矢原さんのお家で集合すればよかったような……」
「うるさいうるさい、いいから早く済ませて」
お化粧とかはしないからそう時間もかからなかった。
そういえばと彼女の顔を見つめていると「見すぎ」と言われて謝る。
「で?」
「ああ、矢原さんってお化粧とかしないんですか?」
「禁止とされているのにするわけがないでしょ、そもそも興味がないわ」
「偉そうですが矢原さんはそのままでいいと思います、十分魅力的ですからね」
清潔にしているつもりだから私もこのままでいい。
「あ、おーい!」
はは、大きな声だ。
隣を歩いていた彼女は「高校二年生にもなって大声を出すなんて恥ずかしい存在ね」と少し冷たかった。
でも、どちらかが誘って受け入れ、こうして集まっているわけだから素直ではない。
「遅いよさやさや」
「それはやめて。じゃ、私の家に――」
「このままレッツゴー!」
あれ、彼女のお家とは反対方向に向かって歩いているけどいいのかな?
彼女も同じように感じたようで「あんたコヅエ達に会わなくていいの?」と聞いていた。
「それは解散になる前でいいよ、いまは猫ちゃん達よりも垂見さんや矢原さんと出かけることだよ」
「あんたがいいならいいけどね」
私も、最後まで合わせるだけだ。
「今日はね、三人で歌を歌いにいきたい!」
「あんたそういうのは先に言いなさいよ、それなりにお金を持ってきておいてよかったわ」
「ふふふ、垂見さんがどんな感じで歌うのか、興味があるなー」
歌か……自信ないなあ。
家族の前でも歌うことが恥ずかしい私が最後まで乗り切れるのだろうか……。
音楽のテストのときも多分、周りの子が聴こえないぐらいの声量だったし……。
あとはカラオケ屋さん自体にいったことがなかったから緊張し始める。
「あーなんか慣れていなさそうだからゆっくりやってあげてちょうだい」
「嫌がることはしないよ、だから垂見さんが歌わないことを選んでも尊重するよ」
「や、それはもったいなくない?」
「でも、いま矢原さんが言っていたように私が急に言い出したことだからね」
「あんたが言うのは微妙だけど……まあ、そうね」
いやっ、ここで歌わなかったら私はずっと変われないままだ。
なにも告白をするとかでもないのだ、変な歌声になってしまっても二人なら笑ってくるようなことはないだろう。
お店に着いたらそうしない内に決められた個室に移動する。
「一番に歌わせてほしいの」
「おお、やる気満々だね?」
「ちょ、あんたいいの? マジで無理する必要はないから」
「いえ、歌わせてください」
なんてことはない、機械での予約だって教えてもらえば簡単にできた。
あとはマイクのスイッチを入れて、しっかり焦らずに音に合わせて歌うだけ!
「きーみーひゃっ」
「ぶふっ――あっ、なんでもないなんでもない」
……シュシュンと縮んであとは今回も音楽のときのテストみたいになった。
マイクを握ったら別人のように歌える、うん、全くそんなことはなかった。
迷惑にならないように隅の方に移動して座っておく。
「わ、わー! パチパチパチー!」
「あんたそういうの一番最悪だから」
「いやあの……マイク越しでもほとんど聴こえなくて……」
「ま、歌おうとしたことはいいことでしょ、少し休んでいなさい。飲み物を飲んだり、アイスとを食べたりするといいわ」
や、優しいのがいまは逆効果でしかない。
冗談でもなんでもなく涙が出そうになるのをなんとか抑えることしかできなかった。
「これをあげるから元気を出して垂見さん」
「なにそれ」
「え、ひよこのぬいぐるみだけど」
「聞いてもアレね……ギュッと掴めばストレス発散はできるかしら……?」
えっと、手首から肘ぐらいまでの大きさのぬいぐるみだった。
か、可愛いけどそこそこ大きい、これからまだまだ見て回ることを考えると大変なような……。
大きいリュックなんかは背負ってきていないので持ちながら回るというのも、うん。
「そっか、ストレス発散がしたいよね。それなら矢原さんを抱きしめるといいよ」
「はあ? そんなのしても少し温かくなるだけでしょ」
「でも、なにか満たされると思わない?」
「話が変わってきているじゃない。いいから最初の通り、なにか食べられるところを探しましょ」
もう大人になるところまできている幼くもない人間がひよこのぬいぐるみを持ってお店に入ってくる。
私だったら失礼だとは分かっていても何回も見てしまいそうだ。
つまり、今回は見られる側ということで……。
「牛丼、ハンバーガー、カレー、唐揚げ――んー飲食店はいっぱいあるけどどうする?」
「唐揚げ定食もいいし、カレーも――ごくり」
「あんたは?」
「ほとんどいったことがないのでどこでも新鮮な気持ちを味わえます」
いやもうどうでもいい、向こうも私なんかどうでもいい。
それよりもお昼ご飯だ、彼女達の選択次第で変わっていくけどどれも美味しいことには変わらない。
お休みなのをいいことに牛丼とかなら大盛りを頼んでしまったりもありだ。
「クリスマスだから唐揚げ、つまりチキンを食べるのはどうかな!」
「ま、いいか。いきましょ」
「うんっ、垂見さん早く!」
「そ、そんなに急がなくてもなくなりませんよ」
店内だってそこまで混んでいないからゆっくりできそうだ。
「暖かいわね」
「はい」
温かい物を食べていたら汗をかきそうなぐらいには暖房が効いていた。
汗をかきたくないので気を付けないと、冬なのに臭っていたら人として死んでしまう。
「あ、なにも考えずにあんたの隣に座っちゃったけど大丈夫?」
「はい、矢原さんの隣に座れて嬉しいです」
「じゃ、なにを頼むのか決めて注文しましょ」
あれ……? なんか視線を感じる。
どこから? と考えて探していると目の前の丹下さんと目が合った。
にやりとあまりよくない笑みを浮かべてから「矢原さんが隣に座ってくれてよかったね」と。
「でも、私も『丹下さんの隣に座れて嬉しいです』って言ってもらいたいなー」
「こ、今度……」
「あ、こづえさんって名前で呼んでいい?」
「ど、どうぞ」
きゅ、急すぎる。
「こづえって呼び捨てにするのは矢原さんのためにやめておくね」
「は、はい」
「それだと私がこいつのことを名前で呼ぶのが確定しているみたいじゃない」
「しないの?」
「しないわよ」
早く唐揚げ定食が運ばれてきてほしい。
結局、欲張らずに唐揚げが三つだけの物にした。
紹介されている写真的にそれだけでも満足できそうだったからだ。
「あれ? だけど確かー」
「コヅエさんとサヤさんのことは名前で呼んでいます」
「ぷふ、確かカタカナでサヤなんだよね? へーそうなんだー?」
はは、私以外のときでは名前で呼べないと言っていたのに丹下さんには教えているからやっぱり面白い。
なんだかんだ言いつつも仲良くしたい気持ちが伝わってくる。
「あんたのその顔、くっそむかつくわね」
「やーこわーい」
「はあ……あとなんかキャラが変わったわよね」
「そう? 私なんか最初からこうだったと思うけど」
唐揚げがきた。
ちなみに私と丹下さんが三つの物で、彼女は五つの物を頼んでいた。
丹下さんの胃の許容量がどれぐらいのものか分からないため、なるべく食べられる子であってほしいと思う。
もし「食べてちょうだい」となったときにせっかくのいい思い出が悪い思い出となってしまうからだ。
もっとも、無駄な心配でしかなかったわけだけど。
「ふぅ、物足りないわねー」
「えぇ、五つも食べてその感想なの?」
「美味しいからこそよ。でも、ここで追い唐揚げをするよりもクレープとかを食べた方が女子って感じがするからやめておくわ」
クレープ! お金はまだある。
幸い、お腹もまだ余裕がある状態なので一つ食べられる。
「あんたなんかメラメラしてない?」
「クレープっ、食べてみたいです!」
「おー! いこー!」
今日の私は無敵だ。
それに今日はクリスマス、一年に一回はこんな日があってもいい!
「うぷ……こ、ここからは口をつけていないので食べてください」
「はあ……あんたもったいないことをするんじゃないわよ」
さ、流石に唐揚げとクレープの組み合わせは私には強すぎた。
さっきまでまだ大丈夫という感じだったのに一気にやられた。
違う場所に繋がる穴があいていて、まるでそこからなにかが運ばれてきて圧迫されているように感じる。
実際は許容量をしっかり把握できていなかっただけでしかないから……とにかく私が残念なだけでしかない。
「ぷふふ、それでもどこかにはこづえさんの口が触れていますよね? 間接キスじゃありませんか?」
「そんなのどうでもいいわよ」
「じゃあはい、あーん」
「あんたのはいらない、好きな味じゃないし」
「ぐはあーふふ、なんてね」
丹下さんは大人の対応ができてすごい。
私も見習わなければならなかった。
「こいつ重い……」
「私がお家まで運びましょうか?」
「いいわよ、つか無理でしょ」
荷物を持ってあげることぐらいが私にできることか。
なんとも言えない時間に彼女のお家に向かって歩いているところだ。
「こづえ」
「コヅエさん達に会えるの私も嬉しいです」
「そ、そうじゃなくて……あんたの名前よ」
「はい、こづえですね」
垂水こづえだ。
「でもさ、私ってあんたって呼ぶからあんまり意味なくない?」
「あっ、いま名前で呼んでくれていたんですね。ご、ごめんなさい」
この前の私のようにテンションが上がってしまっているのかもしれない。
上手くコントロールできなくて、勢いだけで行動してしまうときが彼女にもあると。
「私はともかく、あんたは好きに呼べばいいわ」
「いいんですか? 暴走しているとかではありませんよね?」
「なんだと思ってんのよ……いいからほら」
「さ、さやさん!」
だ、駄目だ、今日は彼女が止めてくれないからこういうことになる。
「紛らわしいからさやって呼び捨てでいいわ、それともサヤのことをサヤって呼ぶ?」
「さ、さやさんのことをさやって呼べた方がいいです」
ああ……ごちゃごちゃしている。
「はい」
「さ、さや」
「呼び捨てにされてもむかついたりはしないのね、意外だわ」
にやにやされないように急ごう。
矢原家に着くと彼女は丹下さんをソファに寝かせて「こっちに来て」と誘ってきた。
リビングにいたくないというか他のところに用があるのか歩いていくだけだ。
「あ、コヅエ達を探しに来ただけよ? 別にあんたとなにかしようとしているわけじゃないわ」
「わ、分かっていますよ?」
そういえばリビングにはいなかったか。
そうなると彼女のお部屋かな。
実際、この前いったときもそうやって二匹仲良く寝ていたから。
一箇所だけ物凄く日当たりのいい場所があって暖かそうだった。
「あ」
「わぷ――ど、どうしたんですか?」
振り返ってこちらをじっと見てくる彼女……。
「少しじっとしてて」
なにかついていて取ってくれるのかと思って待っていたら顔を抱きしめられた。
「え!?!?」といつも以上に驚いていると「よし、いくわよ」とそれだけで。
「ね、熱が出ているとかではないですよねっ?」
「確かめてみればいいじゃない」
あれ、普通だ。
しかももうどうでもいいのか見つけたコヅエさん達を撫でて優しそうな顔をしているだけだった。
「今日、夢を見てね。それで私は夢の中であんたの顔、頭? を抱きしめていたの。いまのそれは試してみたってわけ、夢とは少し違っていたけどね」
「夢のときはどうだったんですか?」
「夢の中の私はイライラをなんとかするために抱きしめただけ――あ、いや、抱きしめたは違うか。むかついて潰したかった……? のかもしれないわね」
驚きから立ち直り、今度は喜びが出てきたところでこれは厳しい。
発散云々とはそこからきていたのかと、親密度が足りていなかったら私の頭は潰されていたのではないかと……。
「いまは――盗み聞きなんて趣味が悪いわよ」
「ありゃ、バレちゃったかー」
い、いたのか丹下さん!
「それで? いまはどうなの?」
「んー顔を抱きしめてもなあって感じ?」
「確かにっ、抱きしめるなら真正面からガバッといった方がいいよね」
「まあ、そうね」
違う意味で怖い。
今回ばかりはなんとかしてもらうために猫さんパワーに頼るしかなかった。




