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264  作者: Nora_
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05

「おかしいねえ、矢原さんが全く来ないねえ」


 当然、あの子の存在ごと消えてしまったわけではなくてここには来ていないだけだ。

 馬鹿な私はあの日の翌日に慌てて確かめにいった、そうしたら普通に登校してきていてあのお気に入りの子と話していたから安心できた。

 ただ、一緒にいないことが当たり前になっているのであの夢は間違っていなかったことになる。

 喧嘩別れをして~とかよりも虚しい最後だったかもしれない。


「もう冬休みになっちゃうよ、このまま新年を迎えたらおしまいだよ」


 そっちの方が現実的すぎるのがなんとも……。

 でも、あそこで敬語をやめておけばなんて考えにはならない。

 これであの子とか他の子に集中してくれるというのならいいことではないだろうか。

 強がりと取られてしまってもいい、なにかが漏れ出てしまう前にある意味最強の行動だった。


「そのくせ、私がいっても普通に相手をしてくれるんだよね」


 彼女にも同様の対応をしていないのであれば問題ない。

 コヅエさんや黒さんに挨拶をしておくべきだったけどそれはできなくなってしまったから長く生きますようにと勝手に願っておこう。


「喧嘩なら仲直りしてね」


 まるで自分のことのように寂しそうな顔を見せてから歩いていった。

 動く気が全くないのでそれからは張り付いているだけの一日となった。

 今回の件で学べたことは正夢というのはあるということ。

 そういう夢を見たその日に関係を切られるなんてあまりないことではないだろうか。


「垂水さん、一緒に帰ろー」

「はい」


 それで昇降口まで移動した際に矢原さんとあの子を発見した。

 こちらを見てすぐに興味も持たずに歩いていくかと思えばそうではなく、「こいつと話したいことがあるんだけどいい?」と丹下さんに頼んでいる。


「いいよ、だけど独占は駄目だからね?」

「すぐに終わるわよ」


 本人も喋っているところも久しぶりに見たというわけでもないのに久しぶり感がすごい。


「私、怒っているからね?」

「そうなんですか?」


 少し離れたところで唐突に切り出されたそれにはなんとか反応することができた。

 だけど必死に敬語状態からなんとかしようとしても無駄になるだけだ。


「だってあんた、あの日に先に帰ってしまったじゃない」

「え? あ、敬語をやめなかったことで怒っていたのでは……」


 長時間固まらずにすぐ反応できているだけでも褒めたいぐらいだった。


「は? あ、確かにやめてほしかったけどあんたはずっとそうなんだからそのことでいかなくしたりはしないわよ。私はあんたが勝手に先に帰ったから怒ってんの、なのにあんたは全く謝罪をしに来ない。なによこれって話よね」

「で、でも、トイレから出たら矢原さんはもういませんでしたよ?」

「私もトイレにいっていたんだけど」


 えぇ……それなら個室からでも話しかけてくれればよかったのに……。


「必要だったのは話し合い、そういうことだよね」

「あんた来てたの。それで私は今回の件で一つ分かったことがあるわ、なんで私ばっかりがいくことになっているのかってことよ」


 言い訳をさせてもらうとこれでも矢原さんのところにいっていたのだ、いく度にお友達と楽しそうに盛り上がっていて近づけなかったというだけのことでね。

 このまま終わりでもいいとか考えていた私だけどこの間にも実はお散歩ついでに確かめたりとかも……してしまっていた。


「んー? 来ていなかったからこんなことになっているのに私ばっかり、とは?」

「や、普通友達ならこいつの方から私の方へ来てもおかしくないでしょ、どうせあんたのところにはこいつ来てんでしょ?」

「え、垂見さんが来てくれたことなんてないけど」

「は? はあ……あんた全て人任せなのはどうかと思うわよ」


 もう一つ言い訳をさせてもらうとあの日、トイレから出た後十分ぐらいはあそこで待っていたのだ。

 だから彼女の発言通り、トイレに入っていたとしてもそれで対応できたはずなのだ。


「それよりあの子は矢原さんのことを待っているけどいいの?」


 壁に背を預けて天井……でも見ているのかな。

 まあ、あの子からは彼女と一緒に帰りたいという気持ちしか伝わってこないからこんなことで時間を貰っているわけにはいかない。


「んー帰りたいけどそれどころじゃないのよ」

「じゃあもうみんなで帰ろう」

「嫌よ、あいつとこいつは関係ないんだから」

「関係も、ないよね」

「あんた上手いこと言えたつもりなの? それよりこいつをどうするのかよ」


 むかつくとかそういうこともないから謝罪をして終わりにしてしまおう。


「んーじゃあ矢原さんが面倒くさいから垂見さんが謝って終わりにしよう。そうすればアホなことをやめて矢原さんはまた一緒にいてくれるようになるよ」

「あ、アホって……誰だってなにも言わずに先に帰られたらむかつくでしょ」

「ちゃんと言ったの? ちゃんと聞いたの?」

「あんたねえ――」

「先に帰ってごめんなさい」


 構ってもらおうとすることもなく彼女の背中を押してあの子の方へ。

 去り際、ペコリとお辞儀をしてから靴に履き替えて外に出た。


「矢原さんと違って垂見さんは大人だね」

「そういうのは……」

「ごめん、やめるよ。だけど返す必要はあったの? それこそ少し離れたことで他の誰よりも矢原さんといたかったのは垂見さんでしょ?」

「これでいいんですよ」


 仲直り的なことができたからとまた前みたいに戻したりはしない。

 これが正しい距離感だから維持するだけだった。




「そういえばあんたがどうしてもいった方がいいって言うから遊びにいったのよ」

「楽しかったですか?」

「ま、普通に楽しかったわ、結構お金を使っちゃったけどね」

「それならよかったですね」


 楽しかったですかって楽しかったに決まっている。

 私とよりもずっと前から一緒にいる子とお出かけしたら明日も会えるのに別れることが寂しく感じるぐらいだろう。


「コヅエと黒もまた会いたがっているから来なさいよ」

「ごめんなさい、今日はやめておきます」

「それ、もう二回目なんだけど?」


 同じ日に二回言われたからで忘れっぽいからではない。

 家事について結構いい加減になってしまっていたからちゃんとやりたいのだ。

 だから受け入れるにしてもご飯を作り終えた後とか、お掃除をした後とかになる。


「なによ、あんたもやっぱり怒っていたということ?」

「いえ、全くそんなことはありませんよ」

「私、しつこかったものね」

「すぐにやめてくれましたよ?」

「はあ……普通に対応してくるから調子が狂うわ」


 これについては少し前までの私がおかしかっただけになる。

 いくら自分に甘いといっても限度がある、なまじ受け入れられてしまうから調子に乗ってしまっていたのだ。


「なら私からいくのは?」

「それは構いません」

「なら放課後になったらあんたの家にいくわ」


 上がることにならなければそれでいい。

 あと一時間だけなので切り替えてしっかり集中した。

 逃げるつもりもないのに疑われたら嫌なので矢原さんの教室にいくことにする。


「あんた自分から来るなんて偉いじゃない」

「挨拶は済ませましたか?」

「うん、だから帰りましょ」


 最近は乱れることもなく常にフラットな感じでいられている。

 このままなにもないまま冬休みに突入できたらいいお休みになると思う。

 冬休みはしっかり家事をして、空いた時間には走りにいこうと決めていた。

 実は体重計が壊れたのかと思っていたけど壊れていなくて真の――ぐは。


「あ、ごめん。だけど丹下が追っかけてきていたから逃げる必要があったのよ」

「三人で仲良くしたいです」


 体重なんかよりもやばい状態になるところだった。

 私は事あるごとに引っ張られていて伸びてしまいそうだ。

 いい方向に傾くように引っ張ってくれている面もあるから悪いことばかりではないものの、そこそこダメージが大きいことが気になる。


「あれ、ここって……」

「あ、あんたを無理やり家に連れていこうとしたとかじゃないからね?」

「はは、そんなに来てほしいんですか?」

「来てほしい」


 こ、ここで負けたら駄目だ。

 私のお家にいくという約束だったので腕を優しく掴んで歩きだす。


「ちぇ、上手くいくと思ったのに」

「あの子のことを出していたら私は言うことを聞いていました」

「あっ、失敗したわ……やたらと気にしているものね」

「矢原さんの気になる子だからですよ」


 お家に着いたら先に飲み物なんかを出してから必要なことをやり始めた。

 冬なら常温で置いておける時間に余裕があるのがいい。

 本当はもっと合わせてあげるべきだとは分かっていても私にもしたいことがあるからこれで許してもらうしかない。


「あんたが黙っていても気まずくないのよね」

「あの子のときもそうですよね?」

「いや、言うことを聞かないと拗ねてスマホ大好きさんになるから気まずいときがあるのよ。でも、あんたのときは違うから」


 それは私が単にスマホを弄らないからではないだろうか。


「それに情緒不安定じゃないから警戒しなくていいのが大きいわよね」

「自分で言うのもおかしいですがあの子と違って急に変なことも言います」

「それって抱きしめたいとかそういうの? 唐突に『男の子と仲良くしよう』とか言ってくるあいつより遥かにマシよ」

「それって複雑……ですよね」


 私で言えば彼女から「丹下と仲良くしなさい」と言われるようなもの――って、それは悪いことではないか。

 信じてもらえないかもしれないけど彼女といられない寂しさをなんとかするために丹下さんといるわけではないのだから。


「そりゃそうよ、だって全く興味もないのに何回もそんなことを繰り返してくるんだから。こいつ私のことちゃんと見てんの? と言葉で突き刺したくなるわ」

「我慢できていることが偉いです」

「あんたもそうってこと? あれから徹底しているものね」


 あ、あれから二十四時間も経過していないのに徹底しているとは……。


「あんたさ、私にぐらいは遠慮をしたりするのはやめなさいよ」

「私が本気を出したら休まる時間なんてなくなりますよ」

「ほう、いいじゃない、いまからでもやってみなさいよ」


 私が本気を出したらご飯なんて三十分もかからずに作ることができる。

 私が本気を出したら三時間ぐらいお昼寝をしても夜にしっかり寝ることができる。

 私が本気を出したらお風呂からも――うん、最強なのはお風呂だ、ではない。


「矢原さんも食べていきませんか? そのために多く作ったんです」

「それは食べさせてもらうわ。だけど言ったからにはちゃんと守ること、いい?」


 それならお風呂から五分ぐらいで出られるようになったら動こう。

 いまの最速は二十二分なので縮めるためにはまだまだ時間が必要だった。




 そもそも冬休みがくることでなんとか回避できると思ったのに、


「今日も寒いわねー」


 冬休みになってから毎日来る矢原さん。

 一緒になったからとチクチク言葉で刺してくることもなく、コヅエさんや黒さんとの話をしてくれたり、あの子との話をしてくれたりとあくまで普通だから困る。

「はあ……普通に対応してくるから調子が狂うわ」と言っていた彼女の気持ちがいまならよく分かる。


「つかさ、昨日の夜送られてきたメッセージの『(;・∀・)』これってどういう意味? 喜んでいるのか困っているのかはっきりしなさいよ」

「矢原さんと一緒にいられて喜びつつも困っているんです」

「喜んでいるのになんで困るのよ」


 切り替えられているつもりだったのに全くそうではないから。

 いつ引っ張り戻されてもおかしくはない、これならお家に来ることも許すべきではなかったと後悔しているけどもう遅い。


「あと寝る直前に送らなければならないルールでもあんの? あれだと無視されているように感じるし、話したくてもあんたが寝てしまって話せないじゃない」

「か、会話が続いてしまったら困るんですよ」


 毎日そんなことになったら乙女みたいに遅い時間まで待ちかねない。

 真っ暗な部屋でスマホを見つめて、ただ目と心が疲れていくだけなのにやめられずに期待してしまいそうだ。


「だからなんでよ、あんた私のことが嫌いなの?」

「そんなわけがないです!」

「お、落ち着いて」


 自分勝手だけど今回ばかりは彼女を責めたかった。

 せめてなにか言ってからトイレに入ってくれていたら少しの間、すれ違いになってしまうこともなかったのに……。


「あんたって滅多に出していかない分、大爆発するときがあるわよね」

「……感情のコントロールが上手くできないんです」


 一緒にいたくないのに帰ってほしくないという矛盾しているそれも疲れる。

 だからそういう意味で好きになってしまうのは駄目だったのだ。

 好きになっていいのは相手のことをちゃんと振り向かせられる人だけ、私にはまだ早いとかではなくてそもそも、うん。


「あーこういうときこそコヅエとかを抱いていれば落ち着けるんじゃない?」

「コヅエさんと黒さんが一緒にいたがっているのは矢原さんです、帰ってあげて――」

「いいからいくわよ!」


 彼女の「いいからいくわよ!」は最強カードすぎる。

 私なんて引っ張ってしまえばなんとかなると考えているようだけど正解だ。

 掴まれてしまえば振り払うことなんかできない。


「コヅエー連れてきたわよー」

「な~」


 拾ったときの大きさが元々大きかったから特別変わっていて驚く、なんてこともなかった。


「しゃーないわね、それじゃああんたは黒のことをサヤって呼べばいいじゃない」

「……黒さんは黒さんですよ」

「や、それだと名前をつけてあげていないみたいで微妙でしょ? それになんだかんだで私達もこの二匹と同じような近さでいるでしょ? だから……コヅエとサヤで……」

「そ、そもそも黒さんは女の子なんですか?」

「そうよ?」


 あぅ……。

 一気に悪くなったと思ったら一気に私にとって都合のいい展開になるのは極端すぎではないだろうか。

 なんでこんなに何回も試されなければならないのか。

 でも、意地を張っているのは私の方だから強くも言えない。


「な~」

「黒さんこんにちは」

「サヤよサヤ。はぁ……自分の名前をつけているなんて絶対に引かれるからあんたの前以外では名前を呼べないわ」


 よ、呼ぶしかないのか――って、これが理想だったのになにを臆しているのか。

 飼い主である彼女がそう決めたのだから問題ない、それより黒さんと呼び続ける方が問題だ。


「サヤさん!」

「な、なによ……」

「あ、ね、猫の方のサヤさんに……」

「この馬鹿! 紛らわしいのよ!」


 えぇ……。

 理不尽だとは感じつつもやっぱりそのことについては強く言えなかった。

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