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264  作者: Nora_
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04

「はぁ……はぁ……」


 矢原さんが去っていく夢を見て飛び起きることになった。

 呼吸だけではなく心臓も慌てている、汗も少しかいていて気持ちが悪い……かも?

 あんな夢を見ることになるぐらいなら風邪でひっくり返っていた方がマシと言いたい。


「あ、矢原さんから……」


 コヅエさんと黒さんが仲良く寝ているところの写真を送ってきてくれたみたいだ。

 時間が時間だけど『可愛いですね』とメッセージを送ってスマホの電源を落とす。

 本当なら会って自分を安心させたかった。

 でも、もう二時を過ぎているのにそんなことは頼めないからお布団の中にこもることでなんとか――しようとしたときのことだった。


「あんたなんて時間に返してきているのよ」

「えっと……二時、ですね」

「偶然、私がまだ起きていたからよかったけど寝ているときだったら大爆発していたわよ」


 彼女には申し訳ないけど声を聞けたことは大きい。

 だからなるべく喋らないようにして待っていると「今日は眠気がやってこないのよね」と彼女は言う。


「朝になったら学校にいかなきゃいけないのにこれだと不味いわ」

「コヅエさんと黒さんを抱いて寝るのはどうでしょう?」

「もうここにいて夜行性のくせに寝ているのよ、ご主人様はこうして寝られていないのにね」


 どうすれば寝られるようになるのか。

 以前、彼女のお部屋に入らせてもらったときにお布団が沢山あることは分かっているのでそれが足りていないなんてこともないし……。


「しゃーない、いまから歩いてこようかしら」

「えっ、危ないですよ!」

「うるさ……」

「あっ、ごめんなさい……」


 とはいえ、意見は変わっていない。

 女の子なのにこんな時間に出歩くなんて絶対にしない方がいい。

 もしどうしても出たいということなら私を呼んでほしかった。

 なにかがあったときに盾にぐらいはなれるだろう。


「じゃああんた来なさいよ」

「いいんですか!?」

「あんたなんでそんなに興奮してんの?」

「いえっ、それならいまからいきます!」


 どうせ寝転んでいても今度はこちらが寝られなくなるだけだ。

 それなら彼女と過ごした方がいい、あと一緒にいれば外にいって危ないことに巻き込まれることもなくなる。

 まあ、一番危ないのは私なので彼女からしたら一緒にいない方がいいのかもしれないけど……。


「はぁ……はぁ……つ、着きました」

「いま開けるわ」


 お友達に誘われたからでもこんな時間に誰かのお家にいくのは非常識でしかない。

 そして冬の夜の冷気に触れたことで悪い意味で落ち着いてしまい……上がらせてもらって彼女のお部屋に入れた後でも縮まっていることしかできなかった。


「な~」

「コヅエさんごめんなさい」


 黒さんはちゃんと寝ていてくれて助かる。


「あんたに来てもらったのはいいけどやることとかないわね」

「矢原さんは寝てください」

「じゃ、少し試してみるか」


 いま点けてもらったばかりだけど電気も消してもらって彼女には寝てもらう。

 私の方にはコヅエさんが来てくれて、今日も足の上で丸まってくれているから温かくていい。

 実は座ったままで寝られるのもあった。

 だから温かさと彼女の側にいられることの幸せなそれに身を任せたら目を開けたときにはもう七時だった。

 このときに面白かったのはコヅエさんから黒さんに変わっていたことだ。


「矢原さん起きてください」

「……一時間ぐらい経過した?」

「いえ、もう七時です、そろそろ準備しないといけません」

「マジ……?」


 私は一回帰らないと。

 あとは欲望に任せて朝ご飯作りをサボったわけだからそのことで両親に謝罪をしなければならない。


「あんた……」

「はい」

「いや。あんたは早く帰えらないと」

「はい、それではまた後で会いましょう」


 今日はお弁当なんかも作らなくていいか。

 座った状態でも寝られるというだけでもちろん、ベッドに寝転んだ休んだときよりは体力が回復していないから席で大人しくしておけばいい。

 最近はあの子も来てくれるし、ないだろうけど私のことを探すことにならなくていいだろう。

 お家に着いたばかりなのにお家からすぐに出ていかなければならないのは少し変な感じがする。

 そこまで急がなくても遅れたりもしないのに引き続き走って学校に向かっていると「ストーップ!」と。

 今日は朝から会えた形になる。


「おはようございます」

「うん、垂見さんおはよう! だけど朝からそんなに走って日直とか?」

「いえ、なんとなく走っていただけです」


 なにかがあったわけでもないのに落ち着かなかったのかもしれない。

 あ、学校でも矢原さんと会うことであれは夢なのだとしっかり区別をつけたかったのかもしれない?


「それならいまからは歩いて登校しよう。大丈夫だよ、私はいつもこの時間に登校していてね? ゆっくり歩いても十分間に合うから」

「分かりました」

「それよりさー矢原さんと一緒に登校するわけじゃないんだね?」

「はい、そういう話はありませんね」


 お家と高校の場所的に容易にできることだけど「は? そんなの嫌よ」と言われるところも容易に想像できてしまうので出さないでいる。


「ふーん、垂見さんは矢原さんが好きなんだから甘えればいいのに」

「朝からは顔を見たくないかもしれませんから……」

「ふふ、否定しなかったね? やっぱり垂見さんは矢原さんが好きなんだ」


 ま、まあ……その通りなのに必死に否定しても仕方がないから……。

 ただこのことは他言無用でと頼んでおいた。


「うん、垂見さんとの約束なら守るよ」

「ありがとうございます。えっと、なにかで困ったら言ってくださいね」

「それなら垂見さんが矢原さんにばかり構っていて寂しい」

「き、来てくれればちゃんと相手をさせてもらいますから……」

「はははっ、ありがとう」


 今度と先延ばしにしていないでいい加減、本人に聞いてしまおう。

 私の歩幅が小さくなったことで少し前になってしまったから袖を掴んで止める。


「お? どうしたの?」

「みょ、名字か名前だけでも教えてください!」


 あ、これだと気になる子を見つけて必死になっているみたいだ。


「ああ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったね。私はね、丹下たんげつばさだよ!」

「垂水こづえです、改めてよろしくお願いします」


 あんな夢を見たぐらいなのにこんなに幸せでいいのかな。

 一人ほわほわな状態で歩いていたらぐいっと引っ張られたうえにそのまま自由に歩かれてしまう。


「あ、矢原さんだったんですね」


 そう分かった時点で怖さなんかなにもなかった。

 依然として引っ張られていても安心して足を動かしていると「だから私以外だったら怖いでしょ」ともっともなことをぶつけらえて笑った。


「遠くから見ただけでもあんたが浮かれているのが分かったわ、あいつとなんの話をしたの?」

「名字と名前を教えてもらえたからです」

「は? それだけであんなにウキウキになんの?」

「はい、なります」


 単純な人間だからそうなってしまう。

 あ、物凄く「なんだこいつ……」と言いたげな顔で見られている気がする。

 でも、喜べることは恥ずかしいことではないから違うところを見たりはしなかった。

 少なくとも好きな人にご飯粒がついているところを見られてしまったり……するよりはね。


「ある意味、幸せかもね」

「幸せです」

「一応聞いておくと私といるときも?」

「当たり前です」

「そ。ま、聞きたいことも聞けたからもういくわ」


 私も教室にいかないと。

 少し離れてしまったけど遅刻してしまうなんてことにはならなかった。




「はぁ……冬が全く終わらないわね」


 残念ながら昨日、十二月になったばかりだ。

 私としては一日ずつしっかり前に進んでくれていて助かっている。

 当たり前と言われたらそれまでだけど死なずに元気なままでいられているからだ。


「コヅエや黒もたまにプルプル震えているし、早く終わってほしいんだけどね」

「だけど一番寒い二月に矢原さんのお誕生日がありますよね?」

「誕生日? あんなのただ迎えられたらそれで終わりよ」

「え、好きな料理を作ってもらったりしないんですか? お誕生日プレゼントを貰って朝から幸せな気分で――」

「あんたいつまで子ども気分でいるつもりよ。そんなのないわよ、なんなら家にいるのかすら怪しいわ」


 そ、そんなことってあるのか……。

 確かにプレゼントはあれなものの、母が作ってくれたより特化した美味しいご飯を食べられなければ駄目になる。

 好きな人に振られてしまった人達のように三ヵ月ぐらいは少なくとも引きずってしまうことだろう。


「そ、それなら私が!」

「大きな声を出さないで」

「……それなら私がお誕生日の日に矢原さんをお祝いします」


 これまで声が小さいと言われるときはあっても大きいとはあんまり言われてこなかったから新鮮だった。


「そういえばあんた作れるんだっけ」

「はい、結構やっているので味については安心してくれていいですよ」

「じゃ、誕生日が近くなったときに気分がよかったら頼むかもしれないわ」

「はい」


 このままなかったことになる……かな。

 頼まれてもいないのに必死になっても迷惑でしかないからお誕生日付近までは出さないようにしよう。


「あ、そういえばあいつがさ」

「丹下さんのことですか?」

「違う違う、あっちよ。今日、珍しく真面目な顔で遊びにいかないかって誘われたんだけど怖くて断ったの」

「な、なな、なにやっているんですか!」


 ここに太鼓とかドラムがあったら思い切り叩きたい気分になった。

 なんでそんなことばかりをしてしまうのか!


「はあ? なにやってるってだから怖いから断ったって話よ」

「お友達だから矢原さんとお出かけをしたくて誘ったんですよ!」

「や、あんたは知らないだろうけどあいつ、ろくに説明もしないで連れてきた男子と二人きりにさせようとしてきたりするからね? あんたなんか友達だったら絶対に自由にやられているわよ」


 こうなったらもう連れていくしかないか。


「ちょ、抵抗しないでください!」

「はは、力勝負をしようってことよね? それなら私は負けないわ」

「素直になった方がいいですよ!」

「自分に素直になっているからこそ一緒に出かけずにここにいるんじゃない」


 そ、それって私と――いやいやっ、だから怖かったから逃げてきただけだ。


「おわっ、急に力を抜くんじゃないわよ」

「わっ」

「はぁ……あんたさ、これってただ単に私に触りたかっただけでしょ」

「ち、違います!」


 なにをやっているのかとは自分に突き刺さる言葉だった。

 ゆっくりと自分の席に戻って一つ深呼吸をする。

 どうせなにを言っても、やっても言うことを聞いてはくれないだろうからこの時点で作戦としては詰みなのだ。

 勢いで行動する前に気づきたかった……。


「ねえ、足貸して」

「ここでですか?」

「そう」


 ま、まあ、毎日軽くでもお掃除の対象として選ばれている場所だからいいか。

 お家では正座で座っていることが多い私としてはなにもきつくない。


「廊下まで来ても近づかずにあんたのことを見ていたの」

「席に座っている私しか見られませんでしたよね」

「ほとんどはそうね、あとはあいつと話しているところぐらいか」


 丹下さんは毎日必ず五回ぐらいは私のところに来てくれる。

 授業のことについて話していなければ大体は矢原さんとのことになる。

 私と矢原さんがどうなったのかを聞いてくるから全く前に進められていないことに申し訳なくなるけどこればかりは仕方がないと片付けるしかない。


「ねえ、敬語マジでやめない?」

「え、やめません」

「はぁ……言うと思った」


 これを続けていれば好きになってもらえないならそのこともそのままでいい。


「なにが怖いのよ?」


 もうずっとこれだからなにもかもが変わることが怖い。


「あーあ、敬語をやめてくれたらあんたのことを名前で呼んであげてもよかったんだけどなー」

「はは、それでもやめたりはしませんよ」

「あんたさ、私のことが好きなんじゃないの?」

「それは丹下さんが想像して盛り上がっているだけです」


 やばい、自分を褒めてあげたい。

 好意を抱いているのにそれを全く表に出さずにスルスルと躱せているなんて最強ではないだろうか。

 そこまでメンタルが強い方ではなかったはずなのに矢原さんと一緒に過ごしていく間に成長していた……?


「ふーん」

「あ、くすぐったいです……」

「ははは、あんたが敬語をやめるまでは続けるわ」


 それならそれでずっと一緒にいられるわけだからメリットしかない。

 あくまでそういうつもりで求めないだけで一緒にいて仲良くしたいのだからそういうことになる。


「私だけのときでも駄目なの?」

「ごめんなさい」

「でも、あんた敬語でも結構大胆なことを頼んでくるわよね」

「そうですね、だから敬語だろうとため口だろうと私は変わらないんです」

「そうやって躱そうとしても駄目だから」


 ただこれを顔を合わせる度に繰り返すことになるのは大変だなあ。

 自分から距離を作ることは絶対にしないけどこうなるのなら丹下さんにいてもらった方がいい気がする。

 だけどそれは利用しているのと同じことで、それこそどんどん後回しになってしまっている。


「さやさんって呼んでもいいですか?」

「嫌よ、あとあんたの名前を呼ぶのも嫌だわ、なにも言うことを聞いてくれないのになんで私は聞かなければならないのよ?」

「そうですか。それならこれで終わりにして帰りましょう」


 ちゃんと頭をどけるまで待ってから動いた。

 鞄を持って歩いていると「なによ、珍しく怒ったの?」と聞かれたけどそうではない。

 ただ単に膀胱にとって危険な領域に入ってしまったというだけのことだった。

 トイレにいきたくて自然と早足になる。


「あんたそんなに急いでなにがしたいの――って、トイレ?」

「いってきます!」


 先程までは全く問題なかったのにどうしてこうなってしまったのか。

 彼女と一緒にいられて安心しすぎてしまったから?

 安心したらトイレにいきたくなるのは嫌だから癖にならなければいいけど、そう考えつつもすぐに出して戻ってきた。


「お待たせしました」


 残念ながら矢原さんはもういなかった。

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