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264  作者: Nora_
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03

「ふむふむ、これは……」


 じろじろ見られたり、自由に触られたりしていた。

 怖いと動けたくなるということが分かった。

 名字も名前も知らないあの女の子は「それであの猫はどうなったの?」と聞いてきた。


「矢原さんが飼うことになりました」

「あ、本当にそのまま飼うことにしたんだ。はは、あの子って優しいんだね」

「名前を変えることができませんでした……」

「自分の名前と同じだから気になるかもしれないけど気にする必要はないよ、それにあの猫みたいに垂見さんは可愛いからね」


 抱きしめた私が言うのもあれだけど顔とかによく簡単に触れられるな、と。

 七ヵ月ぐらいは一緒にいるあの子にだってできない、抱きしめられるのになんでそれができないのかとツッコまれてしまいそうではあってもそういうことになる。


「あ、あの……」

「あ、ごめんごめん。私、すぐに人に触りたくなるんだよね、女の子が相手だとこうなっちゃうの」


 同性の子を好きになってしまっている私としては仲間を発見できたみたいな感じで嬉しかった。

 でも、それとこれとは別で、自分が対象に選ばれることは怖いと感じることだ。

 だって私相手にそんなことを繰り返しても得られるものはなにもない。


「それなら矢原さんにも……?」

「んーあの子はちょっと――痛い痛い」

「私の方が嫌よ、だから触ろうとしてきても全部躱してみせるわ」


 あれから三人で集まることも多くなっていた。

 大体はこの二人が二人だけで盛り上がっている。

 ころころ表情が変わって面白いけどたまに不安になるときがある。


「で? こいつの身体チェックなんかしてなにがしたいの?」

「ありゃ、また見られちゃっていたのか……」

「当たり前でしょ」

「好きな体かどうか確かめて――攻撃するのはやめてね」


 攻撃範囲から脱出して、彼女は腕を組んでから言う。


「垂水さんが気になるからだよ」

「ふーん、こいつなんか気にしてどうすんのよ?」

「それはあなたも同じだよね?」

「私は違うわよ、私はただ暇つぶしがしたくてこいつを利用しているだけなんだから」

「まあ、それならそれでもいいけどさ。とにかく、邪魔をしないでくれるとありがたいかな」

「嫌よ、私の方が先に見つけたんだから横取りは許さないわ」


 私って道具みたいだ。

 道具なのに役に立つどころか助けられてしまっているところが残念だ。

 猫さんみたいな可愛さがあれば一緒にいるだけで相手を癒やすことができるのに。


「やれやれ、それならここで垂見さんに聞いてみようか」

「そうね、それが手っ取り早いわよ」

「「どっちを選ぶの?」」


 え、なんか一人で悩んでいる間に変なことになっている……。

 ただ、どっちを選ぶの? と聞かれてもそんなのすぐに答えは出てくる。


「矢原さん……かな」

「ふふん、これが答えよ」

「ありゃ……速攻で振られちゃったよ」

「あっ、だけどこれはあなたのことを知らないからでっ」


 彼女とも矢原さんが相手のときみたいに一緒に過ごしていたら分からない。

 絶対に矢原さんが好きになるなんてありえないのだから間違ってはいないはずだ。


「はは、ありがとう」

「ちっ、あんた余計なことを言わなくていいのよ」


 これも結局は自分を守った結果でしかなかった。


「いーい? あんたは私の相手をしておけばいいの」

「垂水さんのことが好きなの?」

「話し相手としてはね」


 あ、それなら一ミリぐらいは矢原さんのためになっているかな?


「そっか、教えてくれてありがとねー」

「あんたいま絶対に内では私の悪口を言っているわよね」

「いやいや、振られたからって選ばれた人の悪口を言ったりはしないよ。ただ、これからも垂見さんとは話させてもらうけどね」

「ふん、まあこいつが嫌じゃなければいいんじゃない」


 今度、彼女がどこの教室で学んでいるか探しにいこうと思う。

 本人は教えてくれなさそうなのでクラスメイトの子に名字や名前を聞こうと決めた。

 ズルだけど仕方がない、ずっと知ることができないままで終わりたくはないのだ。


「やばい、あなたのこと好きになりそう」

「おえ、それなら逃げるわ」

「おいおーい、なんてね。垂見さんは返すよ」


 背中を軽く押されて「っと、押すんじゃないわよ」と矢原さんに受け止められた。

 これはほとんど抱きしめられているようなもので、一人勝手に舞い上がっていた。

 とはいえ、やっぱりあの子が本命なので表に出していくことはしない。

 自覚できてもそれをぶつけていい人と駄目な人がいるのだ。


「つか、体温が高いわね」

「手はいつも冷たいと矢原さんに言われますけどね」

「んーいまは温かいわね」


 よく考えてみなくてもこれはかなりすごいことなんじゃ……。

 好きな人と手だけでも繋がっている、なんなら距離も変わっていないからやばい。


「ここだけ人工の手なんじゃない?」

「幸い、健康体で生まれてこられました」

「ま、冗談だけどさ。戻りましょ」

「はい」


 ああ、離れていく。

 だけどこれでいいと片付けて歩き始めた。




「コヅエと黒がずっと一緒にいるのよね」

「双子だったのかもしれませんね」

「ま、拾った場所も同じところだからないわけではないだろうけどね」


 コヅエと黒さん――サヤさんだ。

 となると、私と彼女は双子ということになる。

 いつも呆れられていそうだけどそれはそれで楽しそうだ。


「値段はしたけど大きいケージを買ってよかったわ」

「あれ、矢原さんが買ったんですか?」

「そりゃそうよ、私が飼うと決めたんだから私が買うわよ」


 すごいな、それなら許可も貰えるか。


「ただね、ここだけの話ね? なんか二匹のことを気に入って餌代とかは出してもらえることになったのよね。少し情けない感じでもこの子達がお腹を空かせないようにしっかりしなければならないからありがたいわ」

「矢原さんがいい子だからご両親も協力してくれているんですよ」

「うーん、いい子ねえ……」


 入ろうと思えば私だって入れてしまうからきっと高かったことだろう。

 そしてあのとき、両親が駄目だとハッキリ言ってくれてよかったと思った。


「私、いい子じゃないわよ」

「私はいい子としか思えないです」

「なに? あんた私のこと気にいってんの?」


 気に入るどころか好きになってしまっているぐらいだけど……。

 もちろん、今回もそのことは出さずに「そうですね」と返しておいた。


「一応年上で先輩のあんたに敬語だって使えないのよ?」

「私は気になりませんから」


 それでも気に入られたいなら許可が出るまでは敬語の方がいいかな。

 多分、そうしていれば向こうの方が「敬語じゃなくていいよー」と止めてくれる、そこから全力を出していけばいい。


「ま、変えるつもりはないからこの話はこれで終わりでいいわ。私はね、コヅエと黒に服を着させたいのよ。というのもね? 頻繁に抱きしめるんだけどその度に毛がつくからよ!」

「でも、ストレスになってしまうと困りますよね」

「そうそれよ! だからいまは私の内側に存在しているもう一人の私と戦っているの」


 彼女の中では黒のままだからとりあえずは黒さんを呼んでみた。


「あんたがいると片方ずつで来るわね、コヅエもあそこにいるけどじっと見てきているだけだわ」

「人みたいに話し合ってどちらか片方がいくことにしているのかもしれません」

「でも、この前はコヅエが来たから嫌われているわけじゃないわよね。はは、あんたよかったじゃない」


 その黒さんは私の肩に乗ろうとしている。

 変に動くよりはマシだと考えて乗りやすいように固まって待っていると器用に肩の上へ、それから「にゃ~」といつもよりも近いところで鳴いていた。


「そうそう、そういう余裕のないところが好きなのよね黒は」

「名前をつけてあげないんですか?」

「いい名前が思い浮かばないのよ、だから当分の間は黒のままよ」


 わわ、黒さんを撫でるためであっても彼女が近いのは……。


「はぁ……服は諦めるわ、ストレスになってしまったら嫌だもの」

「は、はい」

「それでも定期的に散歩はさせるけどね」

「また公園で遊びましょう」

「そうね、あんたが離れたところに立っていたら流石にそこまでは歩いてくれるわよね」


 今回は距離ができて寧ろ安心できた。

 それで早速とばかりに行動に移そうとするので今日も付いていくことにする。


「白さーん、黒さーん、私はここにいますよー」


 公園に着いたら彼女達とは十メートルぐらい距離を作った。

 ただ、これで全く来てくれなかったらただの寂しい人間が誕生することになる。

 メンタルが破壊されないようになんとかしてもらいたいところだけど……どうなるのだろうか?


「にゃ~」


 お、おお、今日は黒さんがよく来てくれる。

 足元まで走って? 来てくれた黒さんを抱き上げて手を振った。


「黒はあんた派なのね」

「見つけて連れていったからでしょうか?」

「でも、この前はコヅエも必死にあんたを止めていたわよね」


 ふふ、私が私を止めているようで面白い。

 あ、でも、心の中の私が止めてくれることで踏みとどまれたことがあったからおかしくはないか。


「やっぱり黒はあんたが飼うべきだったわね」

「コヅエさんと離れてほしくありませんから」

「サヤとか滅茶苦茶背中が寒くなりそうな名前にされる以外は黒もあんたのことを気に入っていて――またくっついたわね?」


 今回も安心できるように黒さんを隣に下ろしたのに効果はなかった。

 だけどこういう内容の会話になると必ずそうしてくるということは……。


「もしかしてコヅエさん、私と矢原さんが一緒に暮らせるように動いているんですか?」

「にゃ~」

「流石にそれは無理ですよ、私達は家族ではないですからね」

「にゃ……」

「矢原さんに怒られてしまいますからこれ以上は駄目ですよ」


 はは、勝手な想像でしかないけど会話をできているような気分になれてよかった。


「変わるまで続けそうね」

「筋肉トレーニングだと思ってこのまま歩きます」

「突っつかれた程度で倒れそうになるからいいかもね、じゃないわよ。そもそもさっきのはなに?」

「勝手に想像してみました」

「そういう気持ちが悪い想像はやめて、ないとは分かっていてもあんたと暮らすなんて嫌だわ」


 ダメージは、なかった。

 いやこれは強がりでもなんでもなくて本当にそうだったのだ。

 だから好きでもそこはしっかり線引きをできているということで自分を褒めたくなったぐらい。

 冗談抜きで怖い顔をしていたから乗っかってふざけることはできないとしてもだ。


「ほら、あんたもやめて帰るわよ」


 彼女に言われたらちゃんとやめて付いていくのはコヅエさんも同じだ。

 黒さんは任されてしまったのでこちらも抱いて後ろを歩いていた。




「調理実習でお味噌汁を作って鮭も焼くなんてねー」


 もうお昼休みが近いのにまるで朝ご飯を作っているみたいに感じた。

 もっとも、お味噌汁に焼き鮭! みたいな豪華な朝ご飯は垂見家では出てこない、と言うよりも作らないと言うべきか。

 だけど中にはそうしてしっかりとした物を朝から食べてきている人達もいることだろう。


「それも食べてお昼休みにはこうしてお弁当も食べる、垂水さんって意外と食べられるんだね?」

「今日は少しお腹が空いてしまいまして……」


 あれか、私にしては体を動かしているからか!

 最近はコヅエさん達関連のことで公園によくいっているから効果が出ていたのだ。

 ある程度の重量がある物体を運ぶことで筋肉がついたのだ、それで体が求めているということだろう。


「というかさ、なんで敬語なの?」

「自分を守りたいからです」

「それでもいまだけはちょっとやめてみて?」


 死ぬわけではないからできないことはない。


「私は――あぅ……」

「あんたなに先に食べてんの? 少しぐらい待っていなさいよ」

「ご、ごめんなさい」


 もう食べられる! となったら駄目だったのだ。

 今日は確かめもせずに勝手に食べ始めたわけだから謝罪はしておくけど。


「ね、矢原さんも興味があるでしょ?」

「敬語じゃないこいつに? 別に? 敬語じゃなくたってこいつはこいつでしょ」

「もっと真っすぐに甘えてくれるかもよ?」

「こいつ、いまでも『抱きしめてもいいですか?』とか言って甘えてくるから関係ないわよ」

「え、その話詳しくお願い」


 ああ……自由に話されていく。

 でも、あのときもそうだったけどいとこさんに感謝をするべきなのは確かなことだ。

 それになんでそこから抱きしめたくなるのか。

 自分が自分にツッコミを入れたくなる件だ。


「なるほどね、つまり垂見さんが矢原さんのことを好きでいたんだね」

「こいつ、私のこと好きなの?」

「え、そうでもないのに抱きしめたいなんて言わなくない?」


 黙ってこちらを見られても困ってしまう。

 ここで彼女のためを考えてであっても「違いますよ!」なんて言ったら怒られてしまう。

 なので私にできたのは同じように黙ることだった。


「って、なにこの空気。もうこの話は終わりね、お弁当を食べないと」

「私も食べるよ」


 少し慌てた心臓も二分ぐらいが経過した頃には落ち着き始めた。

 クラスメイトの子達もここで食べていて賑やかだから誰も話していなくても気まずくはなかった。


「ねえ」

「あ、はい」

「そこ、ご飯粒がついているわよ」


 漫画を見て才能だとかなんとか偉そうに考えていたのに自分がこうなるとは……。

 それはもう恥ずかしくて俯くしかない。

 間違いなく赤くなっているから顔を見られたくなくてそのまま続けてしまう。


「なんだ、取ってあげないんだ、そこで取ってあげてそのまま食べたら間違いなくトゥンクってなるのに」

「あんたの中じゃこいつは私のことをもう好きでいるんでしょ? だったらなにもしなくても十分でしょ」

「いやいや、好きの中でも上中下ってレベルがあるんだからもっと高めていかないと」

「嫌よ、好きならこいつが私に対して頑張ればいいじゃない」


 うん、顔は上げられないけどもっともだ。

 それでも頑張るつもりはないから内から広がっていったりはしないことだ。

 なにかが出てしまう前にあの子か他の子が頑張ってくれたらそれでよかった。

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