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264  作者: Nora_
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02

「な~」


 鳴き声が聞こえてきて目を開けてみるとコヅエさん――白さんがいた。

 なんで? と考えている間に「こら、勝手に移動するんじゃないわよ」と矢原さんも登場、まだ彼女が来ていることの方が違和感は小さいから悪くない。


「でも、猫さんならお家でゆっくりできていた方がいいと思いますけど……」

「『あいつのところにいってくるわ』って挨拶をしたらなーなーしつこく鳴いてきたんだから仕方がないじゃない。つか、もう十時なんだけど? それなのにまだ寝ているとは思っていなかったわ」


 お休みの日はいつもこんなものだ。

 学校だけではなくお家でも真面目な人ならもっと早い時間に起きてお掃除なんかをしていると思う。

 まあ、お掃除と言えば私もするものの、真面目な人達ならそれをしたうえで時間が沢山あるわけだからもっとやりたいことができるというものだ。


「あんた今日暇? 暇なら付き合いなさい」

「はい、大丈夫ですよ」

「そ、ならとりあえず顔を洗ってきなさい、涎の跡がついているわ」


 ……それは恥ずかしい。

 とりあえず一階に二人で移動して彼女にはリビングで待ってもらっておくことにした。

 私は洗面所に直行して顔を、


「白さん、そこにいたら濡れてしまいますよ?」


 洗いたいのに器用に狭い縁に座って「な~」と鳴いているだけだ。

 流石にこのままだと私の方が泣きたくなるので抱き上げて下ろした、今回は乗ってきたりはしなかったから洗うことができた。


「ありがとうございます、いい子ですね」

「あのさあ、あんた猫にすら敬語使うのマジでやめない?」

「あれ、矢原さん来ていたんですね?」

「私に対するそれはもう慣れたし、言い疲れたからいいのよ。でも、猫に敬語を使うのってどうなの?」

「誰にだってこうしますよ」


 この点について気にしてなにかを言っても疲れてしまうだけだ。

 白さんは彼女に任せてリビングへ、そうしたらお母さんが朝ご飯を作ってくれていたので食べさせてもらう。

 平日は私が朝ご飯を作ったり、お弁当を作ったりしているからお休みの日は甘えさせてもらっているのだ。


「ぐっ、さっきも食べたのに美味しそうで食べたくなるわね」

「分けましょうか?」

「や、そんなのできないわよ、我慢して待っているわ」


 それなら早く食べてしまおう。

 十分とかからずに食べ終えて洗い物も済ませることができた。

 課題が出ていたり、テスト期間というわけでもないから遊びにいくことができる。


「さ、いくわよ!」

「どこにいきたいんですか?」

「公園ね、この子に自由に走り回ってもらいたいの」


 や、野生の猫さんだからそのままどこかにいってしまいそうだけど……。

 ただ、確かに私にとっても運動は必要なことだから歯を磨いてから公園へ。


「さ、自由に走りなさい!」

「にゃ~」

「なによ、そんなに体を擦りつけたって得なことはないわよ?」


 優秀というかなんというか、どこにもいかずに彼女の足元でくるくるしていた。


「これなら私の家でもよかったわね、ただ寒いだけじゃない」

「矢原さんが大好きなんですよ」

「猫に好かれてもねえ」


 とかなんとか言いつつも白さんの顎を撫でて柔らかい表情を浮かべている

 私も触れたくなって手を伸ばすとその手をバシッと掴まれる、すぐに「あんたの手は冷たいからこうしていれば温かくなるわよね」と、別に不快だから止めたわけではないみたいだった。


「公園でなにをしているのかしらね」

「スキンシップですよ」

「ま、これはこのままでいいとして、コヅエを家に帰してから改めてどこかにいきましょ」


 私としては彼女がいて白さんもいてくれればそれでよかったけど言うことを聞いておく。

 お家に連れ帰っても大人しくしていたので私は頭を撫でてから矢原家をあとにした。


「喫茶店とかどう?」

「付いていきます」

「いきましょ」


 こういうときでもなければオレンジジュースを飲めないのでオレンジジュースを注文した。

 それで運ばれてきた物をちびちびと飲んでいると「あの黒猫を探しているのよね」と、実は私のお家に来るまでも探していたらしい。


「それは――」


 彼女が来る前に私が自由にさせてもらっていた黒猫さんのことですかと聞きたかった。

 なのに勘違いをしてか「そうよ、コヅエのためよ」と前に進められてしまう。


「あのとき、なんでもっと早くに声を掛けてあんたに捕まえてもらわなかったのかしら……」

「これを――」

「そうねっ、一緒に探しましょ!」


 あ、うん、それならそれでいいか。

 あと、オレンジジュースもあれならスーパーで買えばいいと学ぶことができた。


「クロー?」


 別に涎の跡がついていたことよりは恥ずかしくなかったので鳴き真似をしながら歩いていた。

 ただ、白さんがあんな感じなら抱いて歩いた方が効率がいい気がした。

 あのときも多分、黒さんに興味があって現れただろうしと彼女に提案を、


「あれ?」


 先程まで隣で歩いていたはずなのに私しかここにはいない。

 それでも通行人なんかは普通にいるから変な世界に引き込まれたとかではなく、単に私が集中しすぎて離れてしまったと分かる。

 二人で同じ場所を探しても効率が悪いから進むべきか、それとも、戻って矢原さんを探すべきか。


「にゃ」

「ん? あ、黒猫さん」


 この子は前の子……なのかな。

 真っ黒の猫さんなら外でも結構見ることができるから自信がない。

 意外だったのは固まっている間にも近づいてきてこちらを見てきていることだ。

 無理そうなら諦めるつもりで抱こうとしてみる、すると暴れたりすることもなく私は普通に黒猫さんを抱くことができた。

 歩こうとしても暴れないから矢原さんを探すことに。


「あいつ、どこにいったのよ……」


 あ、いた。


「矢原さん」

「あっ、あんたねえ!」


 何故か持っていた枝をこちらに投げようとしてきたから慌てて止めるしかなかった。

 そんなことをするはずはないと考えていても不安になってしまった、そのことについて悲しくなったのは内緒だ。


「落ち着いてください。それより、矢原さん見つけましたよ」

「あ、本当ね」

「全く同じ……のように見えますよね?」

「そうね、真っ黒で真っ黒の瞳、尻尾の形もあのときと同じだわ」


 無視をしたりはしないから今度からは普通に声を掛けてもらいたいけどね。

 こそこそ見られていたりすると恥ずかしい独り言を言ったりしているかもしれないので避けたいのだ。

 とりあえず、白さんとの相性を確かめるために矢原家にそのまま連れていく。


「ただいまー」

「にゃ~」


 シャアアア! と怒ったりすることもなく、あくまで普通の様子の白さん。

 黒猫さんにも自由にしてもらうと白さんの匂いを嗅ぎだした。


「これ、猫特融のものでコヅエと友達ってわけじゃないんじゃない?」

「でも、喧嘩はしていませんね? 二匹を飼うことは――」

「まあ、無理じゃないけど――あっ、いいことを思いついたわ!」


 なんだろう、凄く嫌な予感がする。

 至って平和だからこれでと帰ろうとしたらできなかった、なんなら私の背に向かって「あんたが飼いなさい!」とぶつけられてしまった。

 我慢をしないことは大切だけどこのときばかりは我慢をしてほしかった……。


「あ、それならサヤって名前にしてもいいですか?」

「はあ? そんなの嫌よ、私はあんたと違って自分の名前をペットにつけたりはしないわよ」


 いや、私もつけてはいないけど……。


「一匹なら……」

「とにかく、こいつのことは任せたわよ」


 帰ったら相談してみよう。

 もし飼うことになったら彼女がいるところで以外はサヤさんと呼ばせてもらう。

 まずは許可が出なければどうにもならないのでそれからだけどね。


「わっ、白さん危ないですよ?」

「猫ってこんなにガシッと掴むことがあるのね」


 体幹に自信がないし、怪我をさせたくないので離れてほしかった。

 サヤさんを隣に下ろしてみてもやめてくれることはなく、不思議な時間になっていく。


「もしかしてこいつがいいってこと? それだけは許さないわよ」

「にゃ~……」

「駄目よ駄目、あんたはここで暮らすの」


 あ、凄くしょんぼりとした感じで離れていく……。


「やっぱり黒も私の家で飼うわ、二匹なら余裕よね」

「よろしくお願いします」

「うん、あとあんた帰るの禁止ね」

「そ、それなら十八時ぐらいまではいますね」


 そのつもりはなくても彼女と一緒にいられることが幸せだ。

 こんなに私にとって得なことばかりでいいのだろうか。


「あんた、身長は百四十八センチよね?」

「そうですけど急ですね?」

「だったらあそこにある袋を持っていって、いとこの子のいらなくなった服が入っているのよ」

「え、ありがとうございます」

「うん、捨てるよりいいって考えていたのよね」


 先に中身を見させてもらうと新品のように見える奇麗な物ばかりが入っていた。

 貰っていいのだろうかとまた震えていると「あんたが着ないなら捨てるだけなんだから気にしなくていいのよ」と彼女がこちらまで来て言ってくれた。


「最初に見たとき、滅茶苦茶奇麗でもったいないと思ったけどね」

「富豪さん……なんですか?」

「いや? あくまで普通の家庭の子よ」


 やばい、これをくれたのはいとこさんなのに彼女を抱きしめたくなってしまう。


「あの……抱きしめてもいいですか?」

「は? なんで?」

「嫌なら嫌と言ってください」

「んー別になにか損をすることはないからいいけど」


 お家だからかな? それとも、目的の黒さんも連れ帰ることができてご褒美的なものをくれようとしているとか?

 ……なんでもいいか、いいけどと言ってくれたのだから抱きしめさせてもらえばいい。


「なに? そんなに必死にくっついて」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして?」


 ずっとしたくなるけどそれでも二分ぐらいで留めておいた。


「って、何回も頭突きしてくるんじゃないわよ」

「にゃ~」

「可愛く鳴いても無駄だから、あと黒も今日来たばかりなのに落ち着きすぎよ」

「な~」


 ははは、仲良しだ。

 やっぱりここには何回でも来たいからコヅエはやめてもらいたかった。




「はあ~体育のときにすっ転んでこのありさまよ」

「痛そうです……」


 赤くなっていて痛そう。


「んでね? あいつが保健室まで運んでくれたのまではよかったんだけどさ、教室に戻ったときに滅茶苦茶笑ってきてね? なんだこいつ! と怒りそうだったわ」

「さっと動ける人は格好いいですね」

「ま、そういうところは悪くないんだけど痛いのに笑うって最低じゃない?」

「矢原さんにも笑ってもらうことで痛みから意識を逸らしてほしかったのかもしれません」

「ないない、ただあいつからしたら我慢できなくなるぐらい無様だったってだけでしょ」


 そんなにマイナスに考えなくていいのに。

 心配していなければ頼まれもしていないのに保健室まで運んだりはしてくれない。


「それでも大人だからちゃんとお礼は言っておいたけどね」

「大事なことですね」

「だからその……」

「はい」


 怪我が早く治ればいい。

 あとはあの子と仲良くしてくれれば大丈夫だ。


「あ、ありがとっ」

「へ?」

「だからあんたにもお世話になっているからそのお礼よ!」


 これは予想外ですぐについていくことができなかった。

 彼女はどうしていつもこうなのか。


「言えてよかったわ」

「は、はい」

「言えていなかったら歯と歯の間に食べ物が挟まっているような感じのままだったからね」


 チョロいと言われてしまいそうだけどこんなの好きになってしまう。

 笑顔だけならいい、だけどなにもかもが好きになってしまったら大変になる……よね?

 ただ一緒にいるだけで慌てて、なんてことはない行動に大袈裟に反応をして。

 それって自分が凄く疲れてしまうことになるからその点でだけで見れば悪いことのような……。


「あんたなに顔を赤くしてんの? 言っておくけど、暖房を点けてあげたりはしないわよ?」

「ひ、必要ありませんよ」


 どうせ出たときに冷えてしまうからそれなら最初からこの状態がいい。

 それと上がってしまった体温を落ち着かせるためにも丁度よかった。


「にゃ~」

「まずはコヅエか」


 一階で休んでいたから連れてこなかった結果、こうなっている。

 白さんと行動したがるみたいだから一緒に来なかったのは意外だと言える。

 もし私のお家で飼うことができていたらどうなっていたのだろうかと考えるときもある。


「あんたがいるとすぐにそっちにいくわよね」

「矢原さんと同じで優しい子です」


 うん、優しいのかよく分からないなんてありえなかった。

 こんな私のところに何回も来てくれている時点で優しいに決まっている。

 というか、優しくもないのに好きになっていたら不味いだろう。

 私は別に苛められて喜ぶような人間ではないからそういうことになる。


「猫と一緒にされても嬉しくないわよ」

「私は矢原さんが優しくしてくれて嬉しいです」

「待って、なんでそんな話になったの?」

「いつもありがとうございます」


 しっかり頭も下げておいた。

 言葉の価値が下がってしまうとしても言いたくなったら言っておきたい。

 なにも恥ずかしいことではないのだ。


「あ、それでこの前ドリンクバー代を払おうとしたってこと?」

「いえ、一緒に飲めたら楽しいのでそうしようとしただけです」

「何回も言うけど頼んだりはしないけどね。あんたに奢ってもらうぐらいなら私が奢ってしまった方が楽だわ」

「でも、困ったら言ってくださいね」

「お金はあるから余計なお世話ね」


 お金の話だけではない。

 好きな子の話を好きな子にはできないだろうから私でよければ聞くよ、そう言っているだけだ。

 遠回しな言い方をしたのは機嫌次第では普通に怒られるから。

 それとチョロいことで複雑な気持ちになってしまうときもあるからだった。

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