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264  作者: Nora_
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01

 課題を忘れた罰で廊下で一人、お掃除をしていた。

 なんとなく触れずらいので教室のお掃除を任されなくてよかったと思う。

 奇麗にすること自体は好きなので全く嫌ではないのもいい。


「わっ」


 まずは埃を掃いてからと頑張っていたときのこと、急に背中をバシンと叩かれて倒れそうになった。

 私の叩いた手の主はこちらを支えてから「あんた一人でなにしてんの?」と聞いてきた、馬鹿正直に理由を話すと「ふっ、ダサいわね」と笑った。

 彼女は矢原やはらさやさんだ。

 髪の毛はそこまで長くないのに彼女が激しく動くからその度にふわふわしている。

 目は切れ長で、無表情のときは普通に怖いぐらい。

 どちらかと言えば私といるときは無表情でいることが多いのになにかと来てくれているのが彼女だった。


「それ、何時まで?」

「三十分やればいいみたいです」

「そ、ならあんたの教室で待っているわ」


 言われた時間までは真面目に頑張ろう。

 掃いたり、拭いたりしていたらあっという間にその時間がきた。

 道具なんかも片付け、教室に戻ると私の席で寝てしまっている矢原さんが。

 なんとなく横の席を借りて座って見ていると「ん……あんた終わったの?」と、その通りなので頷いておく。


「あんたが掃除好きとかじゃなくてよかったわ」


 お掃除をするのは好きだ


「でも、これからは自分のために課題を忘れるのはやめなさい」

「はい」

「さ、帰るわよ」


 二年生になった春、一年生の彼女に話しかけられたことがきっかけだった。

 別に興味を持ったからではなくて私が窓の外を見ていたから、つまり邪魔だったかららしい。

 でも、中途半端な場所でそうしていたわけではないのだ、私は窓や壁に張り付きそうになるぐらいの距離でいたのに謎だ。


「あ、猫さん」


 一瞬、こちらに近づいてこようとしたのにすぐにバッと逃げてしまった。

 なんでだろうと考えている間に「私、猫には好かれないのよねえ」と、全てがそこからきているわけではないだろうけど理由の一つにはなっていそうだ。


「あんた、前も一緒にいたときに猫に興味を示していたわよね」

「飼えませんが好きなんです」

「は? あんたの家って借家とかじゃないんでしょ? それなら飼えるでしょ」


 小さい頃に頼んでみたことがあった、でも、こんなことを言っているように許可が下りなかった。

 私なんて放課後になったらすぐに帰るし、猫さんのためならお小遣いだっていらないとまで言ったのに駄目だったのだ。


「猫なんて全然懐かないし、嫌いだわ」

「そういう人もいますよね」

「だから私がいるところで猫に興味を持つのはやめなさい」


 何回やろうと飼うことはできないのだからそれぐらいでいいか。


「はあ~なんかお腹が空いたわ、あんた暇ならどこかにいかない?」

「それならファミリーレストランでいいですか? ドリンク代ぐらいなら出しますよ?」

「は? なんであんたに奢ってもらわないといけないの? そんなのいいから早くいきましょ」


 彼女はよく分からない。

 厳しいようで厳しくない。

 とはいえ、優しすぎるなんてこともないからこうして考え込むことになる。

 私は彼女のことで頭の中をごちゃごちゃさせていることが好きだった。

 ついでに言えばたまに見せる笑顔も好きで、たまにそのまま触れてしまうことがある。

 手を払われることはないけど「勝手に触らないで」と冷たい声音で刺されてしまうことも多い。


「暖かいわね」

「はい」

「パフェ……はいいけど内も財布内も冷えるわよね」


 四百円もしないから私はドリアを注文しようと思う。

 運ばれてきたものをちびちびと食べていると「少し食べさせなさい」と、奇麗なスプーンはいっぱいあるからそれですくって差し出す。


「あむ――うん、美味しいわね」

「もう少し食べますか?」

「これ以上はいいわ」


 いけない、がっついてしまってすぐに終わってしまった。

 終わったあたりで彼女が頼んだピザなんかがやってきて食べ始めていた。

 圧にならないように違うところを見つつ、食べ終わるのを待つ。

 パフェは結局頼んでいなかった、同じぐらいの値段ならしっかりお腹が満たされる物の方がいいと判断したのかもしれない。


「最近、なんでかつまらないのよね」

「なにか気になることでもあるんですか?」

「別に、ただつまらないのよ」


 それなら時間つぶしのために私のところにきているだけか。

 それならありがたい、私といたいからという理由で来てほしくない。

 あ、人といることが嫌いとかではなくて……ただ勘違いをしたくないからだ。

 敬語を続けている理由はそこからもきている。

 本当のところを言うと責められることになるのが怖いから……なのかもしれないけど。


「あ、もしかしてあの子――」

「あんたそれ以上言ったら叩くわよ」


 彼女には気にしている女の子のお友達がいる。

 いいことがあって上機嫌だったときに私にも教えてくれた。


「あいつは関係ない」


 無理やり出すならいまは十一月で行事なんかがなにもないからだろうか。

 いまの反応だとなにかがありましたよと言っているようなものだけど煽りたいわけではないから変えていくしかないのだ。


「はぁ、会計を済ませて帰りましょ」

「はい」


 成功か失敗かで言うなら失敗だった。




 一人なのをいいことに道を歩いていた猫さんに触っていた。

 家族の誰かが猫アレルギーということもないので、猫さんが許してくれれば自由に触ることができる。


「な~」


 黒色の毛、黒色の瞳。

 あごの下を撫でているときは目を閉じているのでそのときは毛の束を撫でているように感じるぐらい。


「ありがとうございました」

「な~」


 みんな、言葉が分かっているかのように挨拶をしてから歩いていくところが面白い。

 立ち上がって振り返ったときに不機嫌そうな顔が見えたときには震えそうになったけど。


「あんたさあ、猫にすら敬語使ってんの?」

「これが私ですから」

「そんなに自分を守ろうとしてどうすんのよ」


 一ミリぐらいは相手のためになっていると思いたい。


「つか、なに先に帰ってんの?」

「矢原さんの教室には寄りました、でも、あの子と仲良さそうに話していたので諦めただけですよ?」


 これは本当のことだ、こんなことで嘘をついたりはしない。


「嘘よね、猫と過ごしたいから一人で帰ったんでしょ?」

「違います」

「どうだか」


 なんでこんなに悲しそうな顔をしているのだろうか。

 気になって仕方がなくて手を伸ばしたら今日はガシッと掴まれることもなく普通に触れることができてしまった。

「なによ?」とこちらに聞いてきつつも、逃げようとしたりはしないのが猫さんみたいだった。


「なにかあったんですか?」

「別に、仮になにかがあったとしてもあんたは関係ない」

「悲しそうな顔をやめてくれるまで私はこの手を離しません」


 うん、敬語を使っていても結局は意味がないみたい。

 彼女が相手だとすぐに触れたくなってしまう。

 また、結構彼女も触れてくれることもあるのでそこがまたいいというか……。


「あ、垂見たるみさん」

「こんにちは」


 この子は今日の午前に落としたハンカチを拾ってくれた女の子だった。

 相手にこそされていないものの、クラスメイトの顔、名前ぐらいは覚えているからこの子は違うクラスの子だということはすぐに分かった。


「その子って妹さん?」

「は? こんな姉なんて嫌よ」

「おわ、前に一緒にいるところを見たことがあるけどこういう子だったんだ」

「勝手に見ているんじゃないわよ」

「あはは、それは許しておくれよ。学校にいれば興味がないことでも視界に、耳に入ってきたりしてしまうものでしょ?」


 みんなたまに声が大きくなるときがあって確かに色々な情報を知ることができる。

 なんとなく盗み聞きをしているような気分になるので喜べるようなことではなかった。

 あとは……そう、誰かがいなくなった瞬間に悪口なんかを……。


「うわあ……あんたの方が恐ろしいわよ」

「え、そう? みんなこんな感じだと思うけどね――って、垂見さんは違うか」


 私も人間だから興味がないときは露骨に態度に出てしまうところがある。

 だからこそなんとか表に出てしまわないように振る舞い、合わせようとしていた。

 どんな理由からでも触れてみれば興味を持てるかもしれないからだ。

 なにに対しても冷めた態度でいたくはない。


「こいつだって変わらないわよ」

「ちょっと、そんなに怖い顔をしなくてもいいでしょ?」

「例外みたいに扱うのはやめなさい」


 今日はどうしたのだろうか?

 私のことで必死になるなんて本当にらしくない。


「まあまあ、この子でも抱いて機嫌を直してよ」

「は? 私は猫が嫌――なによこいつ、大人しいじゃない」

「お、その反応を見るに凄く嫌いってわけじゃないんでしょ? 飼ってみたらどうかな?」

「だから私は――あーもう体を擦りつけてくるんじゃないわよ!」


 早くも懐いているように見える。

 その状態でこちらが触ろうとしても拒まれることもなくてなすがままとなっていた。


「ふむ、飼うなら名前をつけないといけないよね。それならーこづえはどう? ひらがなが嫌ならカタカナでもいいよ?」

「こいつの名前をつけるってこと? はは、いいじゃない!」


 え、やっぱり今日はおかしいみたいだ。


「あんたは今日からカタカナでコヅエよ! ほら、性別もどうやら女みたいだしね」

「おお、これは奇跡だね」

「流石にこいつに自由にはできないからコヅエに自由にするわ」

「仲良くねー」


 怒られたりしませんように。

 あとは先程の子と真反対であるこの白猫さんが元気で過ごせるようにと願っておいた。




「ふふん、どうよ?」

「もう揃えたんですね」

「そうよ、これがちゃんと責任を取るということなのよ」


 しっかりとしたケージもあるけど基本的には自由にさせるみたいだ。

 いまはこちらの足の上で丸まっている、奪ったみたいにならないか心配をしていたのに彼女は全く気にしていなかった。


「触れないから猫が嫌いとか言っていたの、恥ずかしいわ。あんたも早く忘れてちょうだい」

「はい」

「あと、どうせあんたは猫大好き人間なんだから何回でも来なさい、そうすればコヅエも喜ぶでしょ」

「あの……カタカナでもコヅエはやめませんか……? サヤさんでいいですよね?」

「はあ? 私はペットに自分の名前をつけたりはしないわよ」


 だって同名になってしまうから会いたいのに恥ずかしくて会えないことになってしまう。

 いつもの彼女なら「はあ? そんなの嫌よ」と断るところなのになにかがあった昨日だからよくなかった。


「つかね、コヅエもなにそいつの足の上で休んでいるのよ」


 ああ……自分が呼ばれているわけではないのにこれだと駄目だ。

 駄目だから寝ているところで悪いけど抱き上げて彼女に渡しておいた。


「なに? 帰るの?」

「今日のところは、はい」


 恥ずかしくならないようになったらまたこよう。

 卒業をする前にいくぐらいがいいかもしれない。

 流石にそれ以上は彼女といられるとは考えていないからだ。

 そもそもの話として、邪魔だから「邪魔」だとそのまま言われただけなのにどうしてこうなっているのだろうか?

 お友達のように一緒に帰って、なにも用がなければ一緒にお出かけをして。

 それでいつの間にか彼女の笑顔が好きになって、たまに止まらずに触ってしまったりもしている。

 このまま仲良くできていたら同性とか関係なく求めてしまうようになって関係が壊れてしまうかもしれない。

 でも、自ら距離も作りたくないという矛盾。


「待ちなさい、今日は気分がいいから家まで送ってあげるわよ」

「そういうわけには――ち、近いです」

「いいからいくわよ」


 気分がいいってなんでだろう。


「はあ~早く冬が終わってほしいわね」

「そうすればあの子のお誕生日がきますもんね」

「あれ、あんたに教えたっけ? まあ、それもあるけど暖かくなるからよ」


 駄目だ……なんで怒って離れてくれないのか。

 それほどまでにこれまで自由に触れなかった猫さんに触れたことが大きいのだろうか……。


「って、その前に私の誕生日でしょ」

「その話は初めてしてくれました」

「あ、そうか、春でやっと一年よね、知っているわけがないか」


 彼女はこちらの頭に手を置いてから「二月一日よ、あんたは?」と。


「私は十月十日です」

「そうなのねー――じゃないわよ、そのときだって一緒にいたわよね? なんで言わないのよ」

「その日はあの子と一緒に楽しそうにしていました」

「く……それじゃあまるで私があいつのことを好きでいるみたいじゃない」


 好きですよね? とは聞かないでおこう。


「あとね、あんたが期待しているようなことはないからね? 本当に友達ってだけなんだから」

「そうなんですね」

「そうよ。それに同性同士じゃない、なにをどうすれば期待できるのよ?」


 それなら私が距離感を見誤って踏み込んでしまっても彼女がなんとかしてくれるか。

 そう考えると気が楽になった、私はもっと真っすぐに彼女といられることに安心しておけばよくなる。


「それに今日は……」


 こ、今度は物凄く怖い顔だ。

 そうでなくても寒いのにブルブル震えたくなる迫力、雷なんかも鳴っていたら漏らしているかもしれないレベル。


「簡単に言うと、むかついたわね」

「そ、そうですか、なにかで発散できるといいですね?」

「まあね」


 これ以上は悪いからとここまでにさせてもらった。

 抵抗したきた彼女だけどそこは白さんのことを出すことでなんとかしたのだった。

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