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続きを書いて
## 騎士団長の「予行演習」と、令嬢の「想定外」
数ヶ月後。二人の仲は社交界でも「公認の熱愛」として知れ渡っていたが、エレナの強情さは相変わらずだった。
アルリックが与える豪華な贈り物や情熱的な言葉を、エレナは「ふん、この程度で私が落ちると思わないでください」と鼻で笑い、さらなる「努力」を要求する。
そんな中、カシアンら詐欺組織の最終判決が下り、彼らが北方の監獄塔へ送られることが決まった。
その報告を耳にした夜、アルリックは珍しく、エレナを自宅である騎士団長官舎へと招いた。
### 「真実」の残滓
「……明朝、奴は発つ。二度と王都の土を踏むことはないだろう」
書斎で書類を片付けながら、アルリックが淡々と告げる。
エレナは、暖炉の火を見つめながら静かに頷いた。
「そうですか。……ようやく、すべてが終わるのですね」
その表情に未練はない。しかし、どこか遠くを見るような瞳。アルリックはその微かな揺らぎを逃さなかった。
彼はデスクを離れ、エレナの前に立つと、彼女が座る椅子の肘掛けに両手をついて閉じ込めた。
「まだ奴のことを考えているのか。……奴が監獄で、貴女という『最高のカモ』を失ったことを悔やむ姿でも想像しているのか?」
「……いいえ。ただ、あの日森へ行こうとしていた自分を、少しだけ憐れに思っただけですわ。……アルリック様、そんなに怖い顔をしないで。あなたの勝ちだと、もう認めているではありませんか」
「口先ではな」
アルリックは、彼女の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
「貴女の心には、まだ奴に与えられた『傷』という名の痕跡が残っている。……私という男が居ながら、まだ傷跡を撫でる余裕があることが気に食わない」
### 上書きの「最終段階」
アルリックはエレナを抱き上げ、寝室へと続く扉を蹴り開けた。
エレナは驚いて彼の胸を叩く。
「ちょっと! 何をするんですの、無作法な!」
「貴女が『愛は勝ち取るものだ』と言ったからな。……今夜は、貴女の記憶の隅々にまで、私という現実を刻み込んでやる。明日の朝、奴が監獄へ連行される頃……貴女の頭の中には、私の熱しか残っていないように」
ベッドに降ろされたエレナは、シーツを握りしめて彼を睨んだ。
「……傲慢。本当に、傲慢ですわ。私が簡単に屈するとでも?」
「ああ、思っていない。だから、徹底的にやる」
アルリックは外套を脱ぎ捨て、彼女の耳元で熱く囁いた。
「過去の男は、貴女に甘い嘘と夢を見せた。……だが私は、貴女に、甘くなどない、逃げ場のない『悦び』を教える。どちらがより深く貴女に刻まれるか、今夜決着をつけよう」
### 夜明けの勝利
翌朝。
王都の門を、鎖に繋がれた囚人たちが通り過ぎていく。その中の一人、カシアンは、かつて自分が手玉に取っていたはずの令嬢が住む公爵家の方向を、恨みがましく見上げた。
しかし、その頃。
騎士団長官舎の広いベッドの中で、エレナは心地よい疲労と、まだ肌に残る熱に包まれてまどろんでいた。
昨夜、執拗なまでに名前を呼ばれ、愛を乞うたのは自分の方だったかもしれない。
アルリックの熱く、激しい独占欲に晒され続けて、もはやカシアンの顔どころか、彼と何を話したかさえ、霧の彼方に消えていた。
「……起きたか」
背後から逞しい腕が回され、彼女を胸の中に引き寄せる。
アルリックの喉の奥で鳴るような低い声が、エレナの心臓を再び跳ねさせた。
「どうだ、エレナ。……まだ、過去の男に捧げた『一途な愛』とやらを語る余裕はあるか?」
エレナは顔を真っ赤にし、彼の腕を甘噛みした。
「……意地悪。大嫌いですわ、あなたなんて」
「そうか。その『大嫌いな男』に、昨夜は何度も縋り付いていたようだが?」
「それは……! ああ、もう! ……あなたの勝ちでいいわよ! 完璧に、あなたの勝ちですわ!」
エレナが自暴自棄に叫ぶと、アルリックは満足げに、そして今度は優しく彼女の額に口付けた。
「ああ。これからは、その熱を私だけに向ければいい」
かつて偽りの愛を信じた少女は、もうどこにもいない。
最強の騎士団長によって「現実」を教え込まれた彼女は、今、彼と共に歩む新しい戦場(日常)へと、一歩を踏み出したのだった。




