イジメ計画はまだ途中
与志野 音色のあの一言が、
ずっと頭に残っていた。
「現実の話してないでしょ」
……何様だ。
(俺を、下に見た?)
その日から田野は、小さな嫌がらせを始めた。
・机を少しだけずらす
・読んでいるラノベを勝手に伏せる
・「それもう古くね?」と笑う
・陽キャに「陰でずっと読んでるw」と話題を振る
直接的じゃない。
だが確実に、削るやり方。
与志野は困った顔をする。
何も言わない。
ただ少し、肩が縮こまる。
田野はそれを見て笑う。
(上下関係を教えてやってるだけだ)
ある放課後。
与志野が一人でいるところに、
あの女子が近づいた。
――体育館裏で声をかけてくれた子。
「最近、大丈夫?」
優しい声。
与志野は少し驚き、
そして小さく頷く。
「うん」
「なんか元気ないからさ」
沈黙。
でも、嫌な沈黙じゃない。
夕日が差し込む窓際。
二人の距離は、自然だった。
田野は少し離れたところから、それを見ていた。
胸の奥がざわつく。
(……なんでだ)
陽キャが肩を組んでくる。
「封印くん、元仲間に彼女取られそうじゃんw」
笑い声。
「観察しとけよw」
田野も笑う。
『いや別にwああいうの興味ないしw』
喉が少し乾く。
視線は、どうしても窓際へ向く。
女子が笑う。
与志野も少し笑う。
あのラノベの話をしているのが、
口の動きで分かる。
田野の手の中で、
ページがぐしゃりと曲がる。
(……俺の話題だろ、それ)
陽キャがまた言う。
「封印、顔怖いってw」
『は?w全然w』
心の中はぐちゃぐちゃだった。
怒りか。
嫉妬か。
後悔か。
分からない。
(俺は“上”だろ?)
なのに。
どうしてあっちは、
あんなに自然なんだ。
どうして俺は、
笑われる側なんだ。
窓際の二人が、ふとこちらを見る。
一瞬だけ、女子の視線と合う。
その目には――
同情も、怒りもない。
「もう関わらない方がいい」
という静かな線引きがあった。
田野は視線を逸らす。
笑う。
『世界がさ、俺に追いついてないだけだから』
誰も聞いていない。
陽キャは別の話題で盛り上がっている。
窓際では、
与志野と女子が並んで本を読んでいる。
教室は普通に回っている。
田野だけが、止まっていた。




