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理性未満のインテリジェンス


あの一件から数週間が経った。


田野 抹殺亜鬼には、

新しい名前が与えられていた。


――封印くん。


最初は小声だった。

だが今では普通に呼ばれる。


「おはよ封印w」

「今日は解放しないの?w」


教室に笑いが起きる。


……だが。


(悪くない)


なぜなら――

話しかけられているからだ。


陽キャが、俺に。


これはつまり認められたということ。


「封印くん、ジュース買ってきてw」


『しゃーねーなw』


軽口を叩きながら購買へ走る。


(これが“距離が近い関係”ってやつか)


戻ってくると、

彼らはすでに別の話題で盛り上がっている。


(しょうがない、コミュ力ってやつを馬鹿共に教えてやるか)


『いやさ昨日の動画がさw』


会話に割って入る。

……誰も聞いていない。


だが俺は続ける。


『ああいうの俺だったらもっと面白くできるけどなw』


無視。


(フッ……照れているな)


俺は最近、陽キャの輪の近くに立つようになった。

彼らの笑いに合わせて笑い、

聞いてもいないツッコミを入れる。


無視されても、めげない。


(俺は“上”だからな。

合わせてやっているだけだ)


そしてある日。


教室の隅。

窓際。


同じラノベを読んでいる男がいた。


名前は――与志野 音色。


物静かで、目立たない。

いわゆる“陰”。


(まだそこにいるのか)


俺は歩み寄る。


『おい、音色』


彼は少し驚いた顔で見上げた。


「……何?」


『それ、8巻まで読んだ?』


一瞬、沈黙。


「……うん」


『だよなw

あそこ伏線回収エグいよなw』


彼の目が、少しだけ輝いた。


「……わかる」


数秒。

会話が成立した。


静かに、だが確かに。


田野の胸に、

妙な感覚が広がる。


(……俺を理解できる存在?)


だが次の瞬間。


『まあ俺はヒロイン視点も全部読み解いてるけどなw』


空気が、わずかに冷える。


「……そう」


『ああ。

あの子さ、俺みたいなタイプに惹かれるんだよ』


音色はページをめくる。


「……物語の中ではね」


その言葉は静かだった。

だが確実に、刺さった。


『は?』


「現実の話してないでしょ」


田野は笑う。


『いやしてるけど?w

てかさ、音色も陽側来れば?

俺、今あっちと繋がってるし』


音色は少しだけ、田野の後ろを見る。


そこでは陽キャ達が、

封印くんのモノマネをして爆笑していた。


「……うん」


短い返事。


「俺はここでいいや」


田野は振り向かない。


(あれはじゃれ合いだ)


『まあ無理すんなよw

俺はどっち側でもいけるタイプだから』


音色は何も言わない。


ただ、ページをめくる。


田野は教室中央へ戻る。


「封印くーんw」


笑い声。


田野も笑う。


(俺は選ばれた存在だ)


窓際では、音色が小さく呟いた。


「……もったいないな」


その声は、

誰にも届かなかった。


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