封印
放課後。
夕焼けに染まる校舎の影で俺は呼び出されていた。
場所は体育館裏。
いかにもって感じだな。
「おい田野」
振り向くと、そこには分かりやすいヤンキーが三人。
髪は染めてるし、態度はでかいし、語彙力はたぶん小学生レベルだ。
(……なるほど、弱者が群れる典型パターンか)
「お前さ、昼休みとか放課後にラノベ読んでんのマジでキモいんだけど」
……ああ、そういうことか。
(文化を理解できない蛮族ってのは、
いつの時代にもいるもんだ)
「しかもニヤニヤしてるしよ。
彼女でもいんの?」
『……』
俺は答えなかった。
いや、答える必要がなかった。
なぜなら――
俺の力は全てを破壊しかねないからだ。
(ここで本気を出せば、
こいつらの人生ごと終わらせてしまう……)
――だから俺は封印している。
次の瞬間。
「調子乗ってんじゃねえよ!」
鈍い衝撃。
視界が揺れる。
殴られた。
蹴られた。
正直、普通に痛い。
だが俺は反撃しない。
(耐えろ……これは“試練”だ……)
「うわ、反撃もしねえの?ダッサ」
殴られながら、俺は思っていた。
(俺が動かない理由を、
こいつらは一生理解できないだろうな)
しばらくして、ヤンキー達は吐き捨てるように言った。
「二度とキモい本読むなよ、キモ陰キャが」
足音が遠ざかる。
体育館裏に残されたのは地面に倒れた俺一人。
……フッ。
(生きてるな。
今日も世界は、かろうじて保たれた)
その時。
「あの……大丈夫?」
声がした。
見上げるとクラスの女子が一人立っていた。
(……天使、か?)
「怪我してるよ……誰にやられたの?」
俺はゆっくりと体を起こした。
そして、微笑む。
『心配しなくていい。
俺が本気出さなかっただけだから』
女子は一瞬、固まった。
『それよりさ』
俺はポケットから、
少し曲がった例のラノベを取り出す。
『この作品のヒロイン、
人の弱さを受け入れるタイプなんだけど――』
パァン。
乾いた音が響いた。
……ビンタだった。
「……無理」
それだけ言って、
彼女は去っていった。
一人残された俺は、
赤くなった頬を押さえながら静かに笑った。
(やれやれ……
理解者に出会うのは、簡単じゃないな)
夕焼けがやけに眩しかった。
――世界は今日も、
俺のレベルに追いついていない。




