ラーフ・ブリザード(冷笑)
『うおw かっくいw』
俺の声が、教室という名の動物園に響き渡った。
一瞬で静寂が訪れる、まるで草原に雷が落ちたかのように。
……やれやれ。
俺ほどの存在になると、発言一つで空気を支配してしまうらしい。
俺の名前は田野 抹殺亜鬼。
この魑魅魍魎のクラスにおいて、唯一“理性”を保っている男だ。
(俺以外は全員思考力を失った猿。
ウホウホ言ってれば幸せなんだから羨ましいぜ)
周囲のレベルが低すぎてまともな会話が成立しない。
IQの差が会話の壁になるとはな……この世は残酷だ。
『はあ……』
俺は嘆いた。
この学校に。
この世界に。
そして、俺を理解できない愚民どもに。
「ヒソヒソ……」
……来たな。
クラスの女子どもが、今日も俺の噂をしている。
(無理もない。
存在感がありすぎる男は常に視線を集めてしまう)
美しさが罪なら俺はもはや死刑囚だ。
「なあ田野、今なんか言ったか?」
……チッ。
担任に話しかけられた。
『あ、いや、何でもないっすw』
クラスメイト達がクスクス笑う。
だが勘違いするな。
これは俺を理解できない者の防衛反応だ。
(聴覚だけは無駄に発達してやがる。
さすが野生動物。五感が違う)
俺は机の中から、角が丸まり表紙が黒ずんだ一冊の本を取り出した。
――俺の“聖書”だ。
本を読んでいる時だけ世界が静かになる。
文字という壁が愚民どもから俺を守ってくれる。
物語の中の女の子は俺に優しい。
ちゃんと話を聞いてくれるし、否定もしない。
(リアルの女子とは違う……)
ページをめくるたび、俺は強くなる。
まるで会話したかのような自信が湧いてくる。
そう、この本のヒロインは――
俺専用だ。
言っておこう。
誰がどう見ても、この女の子の彼氏は俺である。
現実?
そんなものは些細な問題だ。
「田野くん、それラノベ?」
女子の一人が話しかけてきた。
一瞬、教室の空気が凍る。
……フッ、来たか。
『ああ、まあね。
お前らにはちょっと難しすぎるかもw』
次の瞬間。
「うわ……」
「きっしょ……」
「無理なんだけど……」
教室がざわつく。
……なるほど。
理解できないものを人は拒絶する。
(これが“選ばれし者”の孤独ってやつか)
俺は静かに本を閉じた。
そして心の中で、こう呟く。
――世界が俺に追いついていないだけだ。
今日も田野 抹殺亜鬼は、
誰にも理解されないまま、
クールに生きている。




