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その言葉が、静かに落ちたあと。
雨音だけが、少しだけ大きく聞こえた気がした。
胸の奥で、何かがほどける。
同時に、きつく締め付けられる。
(……やっぱり)
思う。
消えても。
全部なくなっても。
こうして、また――出会ってしまう。
視線を上げると、神代がこちらを見ている。
答えを待つみたいに。
でも、深くは踏み込まない距離で。
それが、少しだけ懐かしい。
(言えば、楽になるのかな)
全部。
あの時間も。
繰り返した日々も。
何度も名前を呼んだことも。
全部、伝えてしまえば。
きっと――
一瞬だけ、迷いがよぎる。
けれど。
すぐに、小さく息を吐いた。
(……だめだ)
それは、選ばなかった方だ。
あの時、自分で決めた。
残さないって。
知らないままでいいって。
それがきっと、一番優しい形だって。
だから。
少しだけ、笑う。
昔と同じように。
でも、ほんの少しだけ違う意味を込めて。
「……うん、私も」
静かに、そう返す。
短い言葉。
それだけなのに。
胸の奥にしまっていた全部が、少しだけ震えた。
本当は。
“私も”なんて、軽いものじゃない。
初めてなんかじゃ、ない。
何度も会って。
何度も笑って。
何度も――失った。
それでも。
もう、それを伝えることはしない。
この人は、知らなくていい。
知らないまま、また笑えばいい。
(それでいい)
そう思うのに。
ほんの少しだけ。
(……やっぱり、寂しいな)
心の奥で、小さくこぼれる。
けれどその感情も、表には出さない。
ただ、静かに。
今、この瞬間だけを選ぶ。
雨は、まだ止まない。
でも。
その音はもう、さっきよりも優しく聞こえた。




