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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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6

 ――離れればいい。


 そう思ったはずだった。


 用もないのに声をかけて、会話までして。


 これ以上はさすがに不自然だ。


 適当に切り上げて、「じゃあ」とでも言えばいい。


 それで終わるはずなのに。


「……あの」


 気づけば、また口を開いていた。


 自分でも、何をしているのか分からない。


 彼女が、少しだけ首を傾げる。


「はい?」


 その一言だけで、なぜか安心してしまう。


 ――なんでだよ。


 神代は小さく息を吐いて、言葉を探す。


「いや、その……」


 続かない。


 話す理由なんて、本当に何もない。


 なのに。


 このまま終わらせるのが、どうしても嫌だった。


 胸の奥に、引っかかるものがある。


 言葉にできない違和感。


 でも確かに、そこにある感覚。


(なんで……)


 視線が、彼女から離れない。


 離そうとしても、気づけばまた戻っている。


(なんでこんなに気になる?)


 初めて会ったはずだ。


 名前も知らない。


 それなのに――


 知らないはずが、ないような気がしてしまう。


 神代は、少しだけ苦笑した。


「変なこと言うかもしれないけどさ」


 前置きして、それでも止められなかった。


「……初めて会った気が、しないんだよな」


 言ってから、心臓が少しだけ強く打つ。


 馬鹿みたいな台詞だ。


 でも、それしか言えなかった。


 彼女は、一瞬だけ黙った。


 ほんのわずかに、呼吸が止まる。


 そして。


「……そう、ですか」


 静かに返す。


 それだけなのに。


 どこかで――“やっぱり”と思ってしまう自分がいた。


 否定されなかったことに、理由もなく安堵している。


 おかしい。


 本当に、おかしい。


 でも。


 足は、動かない。


 帰ろうと思えば帰れるのに。


 会話を終わらせようと思えば終わらせられるのに。


 それでも、離れられない。


 雨の中で、ただ立ち尽くす。


 時間だけが、ゆっくりと流れていく。


 沈黙が落ちても、不思議と気まずくない。


 むしろ――


 このままでもいいと、思ってしまう。


 神代は、少しだけ視線を落としてから、また彼女を見る。


「……もうちょっと、話してもいい?」


 理由なんて、やっぱりない。


 それでも。


 終わらせたくなかった。


 この繋がりを、今ここで切ってしまうのが――


 どうしても、嫌だった。

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