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神代は、いつも通りの道を歩いていた。
夕焼けが、やけに眩しい。
さっきまで誰かと話していた気がするのに、会話の内容はもう思い出せない。
……そもそも、“誰と”話していたのかすら曖昧だった。
「……あれ」
足が止まる。
理由はない。
ただ、なんとなく。
胸の奥に、小さな引っかかりが残っている。
振り返る。
分かれ道。
人の流れ。
見慣れた帰り道の景色。
――何も、おかしなところはない。
それでも。
視線だけが、そこから離れない。
「……なんか」
言葉にしようとして、少しだけ迷う。
「……忘れてる気がするんだよな」
ぽつりと、独り言みたいにこぼす。
何を?
と自分で考えてみる。
けれど。
浮かんでくるものは、何もない。
顔も、名前も、声も。
何一つ思い出せない。
なのに。
どうしてか、その“何か”は。
すごく大事だったような気がして。
胸の奥が、少しだけざわつく。
「……気のせい、か」
小さく息を吐く。
納得したわけじゃない。
ただ、考えても分からないものを、これ以上追いかける理由がないだけで。
視線を戻す。
前を向く。
また、歩き出す。
その足取りは、さっきまでと何も変わらない。
――はずなのに。
ほんの少しだけ。
ほんの一瞬だけ。
胸の奥に残った違和感だけが、消えずに残った。




