表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/72

7

分かれ道が、見えてくる。


いつもと同じ場所。


右に行けば神代の家、まっすぐ進めば私の帰り道。


何度も通ったはずのその角が、今日はやけに鮮明に見えた。


足が、自然とゆっくりになる。


終わりが近づいているのを、体が知っているみたいに。


隣を歩く神代は、特に何も変わらない様子で、前を見ている。


その横顔が、少しだけ遠く感じた。


「……あ」


神代が小さく声を漏らす。


「ここだな」


足を止める。


つられて、私も止まる。


沈黙が、落ちる。


何か言うべきなのかもしれない。


でも――


言葉が浮かばない。


浮かんでも、口に出す意味が分からない。


全部、残らないのに。


全部、消えてしまうのに。


「じゃあ」


神代が、軽く手を上げる。


いつもと同じ仕草。


いつもと同じ声で。


「また明日」


――その一言が。


胸の奥に、静かに沈む。


(……明日)


反射的に、頷きそうになる。


いつもみたいに、「うん」って返しそうになる。


でも。


その言葉の意味を、私は知っている。


“明日”は、来ない。


少なくとも――


この関係の続きは、もうどこにもない。


それでも。


「……うん」


結局、そう返してしまう。


声は、驚くほど普通だった。


笑顔も、多分、いつも通り。


神代はそれに満足したみたいに、軽く頷いて。


そのまま、背を向ける。


何の迷いもなく。


振り返りもせずに。


いつも通りの歩幅で、遠ざかっていく。


その後ろ姿を、ただ見送る。


呼び止めない。


名前も呼ばない。


もう一度、何かを伝えることもしない。


(……これでいい)


そう思う。


思い込む。


足音が、少しずつ小さくなる。


やがて、人の流れに紛れて。


見えなくなって。


完全に、消えた。


静寂だけが、残る。


風の音と、遠くの車の音。


それだけの世界。


(……終わった)


胸の奥で、何かが静かに崩れる。


でも、不思議と。


涙は出なかった。


ただ――


少しだけ、息がしづらい気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ