7
分かれ道が、見えてくる。
いつもと同じ場所。
右に行けば神代の家、まっすぐ進めば私の帰り道。
何度も通ったはずのその角が、今日はやけに鮮明に見えた。
足が、自然とゆっくりになる。
終わりが近づいているのを、体が知っているみたいに。
隣を歩く神代は、特に何も変わらない様子で、前を見ている。
その横顔が、少しだけ遠く感じた。
「……あ」
神代が小さく声を漏らす。
「ここだな」
足を止める。
つられて、私も止まる。
沈黙が、落ちる。
何か言うべきなのかもしれない。
でも――
言葉が浮かばない。
浮かんでも、口に出す意味が分からない。
全部、残らないのに。
全部、消えてしまうのに。
「じゃあ」
神代が、軽く手を上げる。
いつもと同じ仕草。
いつもと同じ声で。
「また明日」
――その一言が。
胸の奥に、静かに沈む。
(……明日)
反射的に、頷きそうになる。
いつもみたいに、「うん」って返しそうになる。
でも。
その言葉の意味を、私は知っている。
“明日”は、来ない。
少なくとも――
この関係の続きは、もうどこにもない。
それでも。
「……うん」
結局、そう返してしまう。
声は、驚くほど普通だった。
笑顔も、多分、いつも通り。
神代はそれに満足したみたいに、軽く頷いて。
そのまま、背を向ける。
何の迷いもなく。
振り返りもせずに。
いつも通りの歩幅で、遠ざかっていく。
その後ろ姿を、ただ見送る。
呼び止めない。
名前も呼ばない。
もう一度、何かを伝えることもしない。
(……これでいい)
そう思う。
思い込む。
足音が、少しずつ小さくなる。
やがて、人の流れに紛れて。
見えなくなって。
完全に、消えた。
静寂だけが、残る。
風の音と、遠くの車の音。
それだけの世界。
(……終わった)
胸の奥で、何かが静かに崩れる。
でも、不思議と。
涙は出なかった。
ただ――
少しだけ、息がしづらい気がした。




