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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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55/72

5

夕焼けが、少しずつ色を落としていく。


さっきまでオレンジだった空が、ゆっくりと群青に変わり始めていた。


帰り道。


並んで歩く足音だけが、静かに続く。


会話は、途切れていた。


でも、不思議と気まずくはない。


言葉がなくても成立する空気。


隣にいることが、もう自然になっている。


「なあ」


神代が、不意に口を開く。


その声に、少しだけ視線を向ける。


「ん?」


「なんかさ」


少しだけ間が空く。


考えているというより、

うまく言葉にしようとしているような、そんな沈黙。


そして――


「お前といると落ち着くんだよな」


ぽつりと、落ちる。


あまりにも何気なくて。


でも、逃げ場のないくらい真っ直ぐな言葉。


――一瞬。


呼吸が、止まる。


すぐには、何も返せなかった。


視線を、少しだけ逸らす。


足元を見る。


小さく、息を吐く。


「……なにそれ」


やっと出た言葉は、いつも通りの軽さで。


少しだけ笑ってみせる。


「褒めてる」


「分かってるよ」


短いやり取り。


それだけで、会話はまた静かに途切れる。


でも――


(……ああ)


胸の奥で、何かがほどける。


ずっと探していたものに、触れたみたいに。


この言葉。


この感情。


きっと、本当は――


何度も、繰り返してきた。


忘れられて。


やり直して。


それでも、残り続けたもの。


(……それが)


今、ここにある。


はっきりと。


確かに。


(でも)


同時に、分かっている。


これは、もう――


長くは続かない。


記憶には残らない。


明日には、きっとまた。


何もなかったみたいに、消える。


(……それでもいい)


静かに、目を閉じる。


ほんの一瞬だけ。


(それが最後でいい)


この一言があれば。


この時間があれば。


(それだけで、十分だ)


胸の奥で、そっと言葉を落とす。


誰にも届かない、本当の気持ち。


隣では、神代が何も知らない顔で前を見ている。


それでいいと思った。


知らないままでいい。


このままでいい。


夕暮れの道を、二人で歩く。


ただ、それだけの時間。


でも――


それが、確かに“全部”だった。

夕焼けが、少しずつ色を落としていく。


さっきまでオレンジだった空が、ゆっくりと群青に変わり始めていた。


帰り道。


並んで歩く足音だけが、静かに続く。


会話は、途切れていた。


でも、不思議と気まずくはない。


言葉がなくても成立する空気。


隣にいることが、もう自然になっている。


「なあ」


神代が、不意に口を開く。


その声に、少しだけ視線を向ける。


「ん?」


「なんかさ」


少しだけ間が空く。


考えているというより、

うまく言葉にしようとしているような、そんな沈黙。


そして――


「お前といると落ち着くんだよな」


ぽつりと、落ちる。


あまりにも何気なくて。


でも、逃げ場のないくらい真っ直ぐな言葉。


――一瞬。


呼吸が、止まる。


すぐには、何も返せなかった。


視線を、少しだけ逸らす。


足元を見る。


小さく、息を吐く。


「……なにそれ」


やっと出た言葉は、いつも通りの軽さで。


少しだけ笑ってみせる。


「褒めてる」


「分かってるよ」


短いやり取り。


それだけで、会話はまた静かに途切れる。


でも――


(……ああ)


胸の奥で、何かがほどける。


ずっと探していたものに、触れたみたいに。


この言葉。


この感情。


きっと、本当は――


何度も、繰り返してきた。


忘れられて。


やり直して。


それでも、残り続けたもの。


(……それが)


今、ここにある。


はっきりと。


確かに。


(でも)


同時に、分かっている。


これは、もう――


長くは続かない。


記憶には残らない。


明日には、きっとまた。


何もなかったみたいに、消える。


(……それでもいい)


静かに、目を閉じる。


ほんの一瞬だけ。


(それが最後でいい)


この一言があれば。


この時間があれば。


(それだけで、十分だ)


胸の奥で、そっと言葉を落とす。


誰にも届かない、本当の気持ち。


隣では、神代が何も知らない顔で前を見ている。


それでいいと思った。


知らないままでいい。


このままでいい。


夕暮れの道を、二人で歩く。


ただ、それだけの時間。


でも――


それが、確かに“全部”だった。

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