5
夕焼けが、少しずつ色を落としていく。
さっきまでオレンジだった空が、ゆっくりと群青に変わり始めていた。
帰り道。
並んで歩く足音だけが、静かに続く。
会話は、途切れていた。
でも、不思議と気まずくはない。
言葉がなくても成立する空気。
隣にいることが、もう自然になっている。
「なあ」
神代が、不意に口を開く。
その声に、少しだけ視線を向ける。
「ん?」
「なんかさ」
少しだけ間が空く。
考えているというより、
うまく言葉にしようとしているような、そんな沈黙。
そして――
「お前といると落ち着くんだよな」
ぽつりと、落ちる。
あまりにも何気なくて。
でも、逃げ場のないくらい真っ直ぐな言葉。
――一瞬。
呼吸が、止まる。
すぐには、何も返せなかった。
視線を、少しだけ逸らす。
足元を見る。
小さく、息を吐く。
「……なにそれ」
やっと出た言葉は、いつも通りの軽さで。
少しだけ笑ってみせる。
「褒めてる」
「分かってるよ」
短いやり取り。
それだけで、会話はまた静かに途切れる。
でも――
(……ああ)
胸の奥で、何かがほどける。
ずっと探していたものに、触れたみたいに。
この言葉。
この感情。
きっと、本当は――
何度も、繰り返してきた。
忘れられて。
やり直して。
それでも、残り続けたもの。
(……それが)
今、ここにある。
はっきりと。
確かに。
(でも)
同時に、分かっている。
これは、もう――
長くは続かない。
記憶には残らない。
明日には、きっとまた。
何もなかったみたいに、消える。
(……それでもいい)
静かに、目を閉じる。
ほんの一瞬だけ。
(それが最後でいい)
この一言があれば。
この時間があれば。
(それだけで、十分だ)
胸の奥で、そっと言葉を落とす。
誰にも届かない、本当の気持ち。
隣では、神代が何も知らない顔で前を見ている。
それでいいと思った。
知らないままでいい。
このままでいい。
夕暮れの道を、二人で歩く。
ただ、それだけの時間。
でも――
それが、確かに“全部”だった。
夕焼けが、少しずつ色を落としていく。
さっきまでオレンジだった空が、ゆっくりと群青に変わり始めていた。
帰り道。
並んで歩く足音だけが、静かに続く。
会話は、途切れていた。
でも、不思議と気まずくはない。
言葉がなくても成立する空気。
隣にいることが、もう自然になっている。
「なあ」
神代が、不意に口を開く。
その声に、少しだけ視線を向ける。
「ん?」
「なんかさ」
少しだけ間が空く。
考えているというより、
うまく言葉にしようとしているような、そんな沈黙。
そして――
「お前といると落ち着くんだよな」
ぽつりと、落ちる。
あまりにも何気なくて。
でも、逃げ場のないくらい真っ直ぐな言葉。
――一瞬。
呼吸が、止まる。
すぐには、何も返せなかった。
視線を、少しだけ逸らす。
足元を見る。
小さく、息を吐く。
「……なにそれ」
やっと出た言葉は、いつも通りの軽さで。
少しだけ笑ってみせる。
「褒めてる」
「分かってるよ」
短いやり取り。
それだけで、会話はまた静かに途切れる。
でも――
(……ああ)
胸の奥で、何かがほどける。
ずっと探していたものに、触れたみたいに。
この言葉。
この感情。
きっと、本当は――
何度も、繰り返してきた。
忘れられて。
やり直して。
それでも、残り続けたもの。
(……それが)
今、ここにある。
はっきりと。
確かに。
(でも)
同時に、分かっている。
これは、もう――
長くは続かない。
記憶には残らない。
明日には、きっとまた。
何もなかったみたいに、消える。
(……それでもいい)
静かに、目を閉じる。
ほんの一瞬だけ。
(それが最後でいい)
この一言があれば。
この時間があれば。
(それだけで、十分だ)
胸の奥で、そっと言葉を落とす。
誰にも届かない、本当の気持ち。
隣では、神代が何も知らない顔で前を見ている。
それでいいと思った。
知らないままでいい。
このままでいい。
夕暮れの道を、二人で歩く。
ただ、それだけの時間。
でも――
それが、確かに“全部”だった。




