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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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4

放課後のチャイムが鳴って、教室がゆっくりと空になっていく。


椅子を引く音や、鞄を持ち上げる気配が、少しずつ遠ざかって。

気がつけば、残っているのは数人だけだった。


その数も、すぐに減っていく。


「帰んねえの?」


後ろから声がする。


振り返ると、神代が机に肘をついたまま、こっちを見ていた。


「今帰ろうと思ってた」


「じゃあ一緒に帰る?」


あまりにも自然に言うから、一瞬だけ言葉に詰まる。


「……別にいいけど」


「決まりな」


それだけで、話は終わる。


特別な約束も、気合いもいらない。

ただ、流れでそうなる。


教室を出ると、廊下はもう静かだった。


昼間のざわめきが嘘みたいに、人の気配が薄い。

窓の外は夕焼けで、全部が少しだけ柔らかく見える。


並んで歩く。


肩が触れるか触れないかくらいの距離。


「今日さ」


神代が、何気なく口を開く。


「なんか一日早くなかった?」


「授業寝てたからでしょ」


「それは否定できない」


「いつもでしょ」


「ひどくね?」


「事実」


軽口を交わしながら、階段を降りる。


足音が、やけに響く。


誰もいない校舎は、少しだけ広く感じるのに。

隣に神代がいるせいで、不思議と寂しさはない。


昇降口を抜けると、外の空気がひんやりしていた。


夕方の匂い。


少しだけ冷たい風。


その中を、また並んで歩き出す。


「なあ」


神代が、ふと足を緩める。


つられて、こちらも少しだけ速度を落とす。


「なんかさ」


言いかけて、少しだけ間が空く。


考えてる、というよりは、

言葉を選んでるような沈黙。


「……今日、お前とずっといた気がする」


「実際ほとんど一緒にいたでしょ」


「そうなんだけどさ」


神代は、少しだけ首を傾げる。


「なんか、それ以上っていうか」


うまく言えないみたいに、言葉を濁す。


「……よく分かんねえけど」


そのまま、小さく笑う。


「でも、悪くねえな」


胸の奥が、静かに揺れる。


大きな衝撃じゃない。


ただ、じんわりと広がっていく感覚。


(……ああ)


気づいてしまう。


この空気。


この距離。


この、何でもない会話。


全部が、少しだけ特別に感じているのは――


私だけじゃない。


「そりゃどうも」


できるだけいつも通りに返す。


神代は「おう」と軽く頷いて、また前を向く。


沈黙が落ちる。


でも、それは気まずさじゃない。


ただ、言葉がなくても成立する時間。


隣にいることが、当たり前みたいな静けさ。


(……近い)


物理的な距離じゃなくて。


もっと別の、何か。


少しずつ、確実に縮まっている。


それが分かるからこそ。


(……だから、余計に)


怖い、と思う。


でも、その感情を押し込めるみたいに、前を向く。


夕焼けの道が、まっすぐ伸びている。


その上を、二人で歩いていく。


何も特別なことは起きない。


ただ一緒にいるだけ。


それだけなのに。


――この時間が、やけに濃く感じられた。

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