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放課後のチャイムが鳴って、教室がゆっくりと空になっていく。
椅子を引く音や、鞄を持ち上げる気配が、少しずつ遠ざかって。
気がつけば、残っているのは数人だけだった。
その数も、すぐに減っていく。
「帰んねえの?」
後ろから声がする。
振り返ると、神代が机に肘をついたまま、こっちを見ていた。
「今帰ろうと思ってた」
「じゃあ一緒に帰る?」
あまりにも自然に言うから、一瞬だけ言葉に詰まる。
「……別にいいけど」
「決まりな」
それだけで、話は終わる。
特別な約束も、気合いもいらない。
ただ、流れでそうなる。
教室を出ると、廊下はもう静かだった。
昼間のざわめきが嘘みたいに、人の気配が薄い。
窓の外は夕焼けで、全部が少しだけ柔らかく見える。
並んで歩く。
肩が触れるか触れないかくらいの距離。
「今日さ」
神代が、何気なく口を開く。
「なんか一日早くなかった?」
「授業寝てたからでしょ」
「それは否定できない」
「いつもでしょ」
「ひどくね?」
「事実」
軽口を交わしながら、階段を降りる。
足音が、やけに響く。
誰もいない校舎は、少しだけ広く感じるのに。
隣に神代がいるせいで、不思議と寂しさはない。
昇降口を抜けると、外の空気がひんやりしていた。
夕方の匂い。
少しだけ冷たい風。
その中を、また並んで歩き出す。
「なあ」
神代が、ふと足を緩める。
つられて、こちらも少しだけ速度を落とす。
「なんかさ」
言いかけて、少しだけ間が空く。
考えてる、というよりは、
言葉を選んでるような沈黙。
「……今日、お前とずっといた気がする」
「実際ほとんど一緒にいたでしょ」
「そうなんだけどさ」
神代は、少しだけ首を傾げる。
「なんか、それ以上っていうか」
うまく言えないみたいに、言葉を濁す。
「……よく分かんねえけど」
そのまま、小さく笑う。
「でも、悪くねえな」
胸の奥が、静かに揺れる。
大きな衝撃じゃない。
ただ、じんわりと広がっていく感覚。
(……ああ)
気づいてしまう。
この空気。
この距離。
この、何でもない会話。
全部が、少しだけ特別に感じているのは――
私だけじゃない。
「そりゃどうも」
できるだけいつも通りに返す。
神代は「おう」と軽く頷いて、また前を向く。
沈黙が落ちる。
でも、それは気まずさじゃない。
ただ、言葉がなくても成立する時間。
隣にいることが、当たり前みたいな静けさ。
(……近い)
物理的な距離じゃなくて。
もっと別の、何か。
少しずつ、確実に縮まっている。
それが分かるからこそ。
(……だから、余計に)
怖い、と思う。
でも、その感情を押し込めるみたいに、前を向く。
夕焼けの道が、まっすぐ伸びている。
その上を、二人で歩いていく。
何も特別なことは起きない。
ただ一緒にいるだけ。
それだけなのに。
――この時間が、やけに濃く感じられた。




