13
校舎を出るころには、空はすっかり夕焼けに染まっていた。
オレンジ色の光が、長く影を伸ばしている。
ひとつだけ。
ぽつんと伸びる、自分の影。
それを見下ろして、少しだけ立ち止まる。
誰とも並ばない帰り道。
声もかけられない。
名前も呼ばれない。
ただ、歩くだけの時間。
――静かだ。
驚くくらいに。
今まで、どれだけ“誰かといる音”に囲まれていたのか、ようやく分かる。
足音だけが、規則的に響く。
それ以外は、何もない。
ふと、視線を上げる。
見慣れたはずの道なのに、どこか遠く感じた。
(……これでいい)
心の中で、そっと呟く。
誰にも届かない言葉。
届かなくていい言葉。
(誰にも覚えられなくていい)
そう決めた。
自分で選んだ。
だから、間違っていない。
――そう思う。
思わなきゃ、いけない。
歩きながら、ゆっくりと息を吐く。
胸の奥に残っていた何かが、少しずつほどけていく。
軽くなる。
空っぽになっていく。
それは、きっと正しい状態だ。
何も残さないなら。
最初から、何もなかったみたいに。
そうやって、終わるのが一番いい。
――分かってる。
分かってる、けど。
「……少しだけ」
小さく、声が漏れた。
自分でも気づかないくらい、弱い音で。
足が、ほんの一瞬だけ止まる。
すぐに、また歩き出す。
誰にも聞かれていない。
誰にも知られない。
だからこそ、こぼれてしまった本音。
――少しだけ、寂しい。
それだけ。
本当に、それだけ。
夕焼けの中に、その気持ちはすぐに溶けていった。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
私は、何事もなかったように前を向く。
静かなまま。
ただ、歩き続けた。




