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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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12

 放課後の教室。


 人の気配が少しずつ消えていく中で、私はひとり、席に残っていた。


 スマホの画面を開く。


 新規メッセージ。


 宛先の欄には、何も入っていない。


 本当は、分かっている。


 入れるべき名前は、ひとつしかない。


 指が、ゆっくりと動く。


 ――「神代」


 そこまで打って、止まる。


 画面に浮かんだ文字が、やけにくっきり見えた。


 まるで、それだけが現実に繋がっているみたいに。


 少しだけ迷ってから、本文にカーソルを移す。


『明日さ――』


 そこまで打って、また止まる。


 続きは、いくらでも思いつく。


 「一緒に帰ろう」とか。

 「昨日の続き話そう」とか。


 たったそれだけの言葉で、また“何か”が始まってしまう。


 ――でも。


(……残さない)


 ゆっくりと、息を吐く。


 画面を見つめたまま、指を戻す。


 一文字ずつ、消していく。


 「明日さ――」が消えて。


 「神代」が消えて。


 最後に、空白だけが残る。


 送る相手も、言葉も、何もない画面。


 それを、しばらく見つめていた。


 ――これでいい。


 これが、選んだやり方。


 静かに画面を閉じる。


 そのとき。


「――あ」


 背後から、聞き慣れた声がした。


 反射的に振り向きそうになる。


 心臓が、強く跳ねる。


 でも。


 私は、動かなかった。


 視線も、向けない。


 椅子に座ったまま、ただノートに目を落とす。


「……なんでもねえ」


 少しだけ間があって、そんな声が続く。


 足音が遠ざかっていく。


 その音を、じっと聞いていた。


 ――今、確かに呼ばれた気がした。


 もしかしたら、違うかもしれない。


 ただの偶然かもしれない。


 それでも。


 もし振り向いていたら。


 もし目が合っていたら。


 また、何かが始まってしまったかもしれない。


 胸の奥が、じわりと痛む。


 でも、それを押し込める。


(これでいい)


 誰にも届かない言葉。


 誰にも残らない行動。


 そうやって、少しずつ。


 私は、自分を消していく。


 机の上に置いたスマホは、もう何も映していなかった。


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