8
折れたままの心に、追い打ちをかけるように。
雨宮先生は、静かに続けた。
「……ただ」
その一言に、反射的に顔を上げる。
ほんのわずかでも、何かあるなら。
縋りたくなるのは、当然だった。
先生は、私をまっすぐ見据える。
「選べないわけじゃない」
その言葉に、呼吸が止まる。
「選ぶ……?」
かすれた声で聞き返す。
「ええ」
短く頷いてから、淡々と続ける。
「誰かに強く関われば、認識は多少長く保たれる可能性がある」
胸の奥が、わずかに跳ねる。
――長く、残る。
その響きだけで、十分だった。
けれど。
「……でも、それも一時的なもの」
すぐに、切り捨てるように言葉が重なる。
「どれだけ足掻いても、いずれは消える」
静かな断言。
希望の形をしたものを、正確に壊していく声音。
「延ばすことはできても、避けることはできない」
逃げ道はない。
最初から最後まで、決まっている。
私は、唇を噛む。
「……じゃあ」
それでも、聞かずにはいられなかった。
「何も、しないっていうのも……」
声が震える。
「選べるんですか」
雨宮先生は、一瞬だけ目を細めた。
「ええ」
「誰にも深く関わらなければ、波は小さくなる」
「静かに、薄れていくだけ」
その言葉は、ひどく優しかった。
だからこそ、残酷だった。
――関われば、傷つく。
――関わらなければ、何も残らない。
どちらを選んでも、終わりは同じ。
ただ、過程が違うだけ。
「……選びなさい」
雨宮先生の声が、静かに落ちる。
「残そうとして、誰かを傷つけるか」
「何も残さずに、消えるか」
その言葉が、胸の奥に沈んでいく。
重く、逃げ場もなく。
私は、何も言えなかった。




