94話
広間。静寂。
巨大な玉座。
そして、その前に立つ少女。
星見姫。
ありえない存在だった。
相棒が静かに口を開く。
「『……お主、死んだはずじゃ』」
空気が止まる。
葵も真顔だった。
「『俺もそう聞いてた』」
シエルは姫をじっと見ている。
「『……確か、最後の戦いの前』」
姫は少しだけ目を伏せた。
そして、小さく笑う。
『……そうだ、』
『我は死んだ』
あっさり認める。
シエルが困惑する。
「『でも今は?』」
姫は静かに自分の胸へ手を当てる。
『正確には、残っただけだ』
意味が分からない。
だが宵星の四人は少しだけ理解していた。
葵が低く呟く。
「『魂固定か……?』」
『近い』
姫が答える。
そしてゆっくり話し始めた。
『我は、境界の管理者だった』
『世界と世界の狭間』
『門の監視』
古い話。
かなり古い。
『……だが、深層側の侵食が始まった』
その瞬間、空気が少し重くなる。
シエルの表情も硬い。
「『深層側……』」
姫は頷く。
『止めるためには』
『我は、自らを門に繋いだ」
相棒が眉をひそめる。
『「……」』
少し間。
俺が答える。
「封印の核になったんだろ」
姫がこちらを見る。
『理解が早いな』
静かな肯定。
ユイの顔が青くなる。
「それって……」
「死んだあともずっと?」
『ああ』
あまりにも静かな返答。
『肉体は死んだ』
『だが、魂と魔力を門に固定した』
『それが今の我だ』
広間が静まり返る。
つまり彼女は生きているわけじゃない。
死んでいるだが門を維持するためだけに、存在し続けている。
葵が小さく息を吐く。
「『……神代術式じゃん』」
「『マジで実在したのか』」
相棒も真剣な顔だった。
「『無茶をしおる』」
姫は少しだけ笑う。
『昔から、そうだったんだろ』
どこか懐かしそうな声。
シエルが小さく前へ出る。
「『……苦しい?』」
静かな問い。
姫は少しだけ沈黙したあと。
『……慣れた』
そう答えた。
その一言が重い。
ユイは完全に言葉を失っていた。
レイカも珍しく黙っている。
数百年。
死んだまま一人で門を抑え続けていた。
異常だ。
だがそれを選ばなければならなかった。
姫が静かにこちらを見る。
『……だが、限界が近い』
空気が変わる。
『門が壊れ始めている』
『深層側が、再び近づいている』
黒い空気が広間に漂う。
重圧、嫌な気配。
そして姫は、静かに言った。
『故に』
『宵星を待っていた』
その言葉で全員の空気が静かに張り詰めた。
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