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異世界から帰ってきただけだが?  作者: Саша


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92/145

92話

黒い亀裂。


そこから漏れ出る魔力。

空気が変質している。


重い、濃い。

そして――懐かしい。


「『……深層側じゃ』」


相棒が静かに言う。

シエルも亀裂を見つめていた。


「『向こうのダンジョンの空気』」


完全に一致している。

レイカが低く聞く。


「……あの裂け目の先に何がある」


少し間、俺は答える。


「多分、異世界だ」


ユイが息を呑む。


「え……」


だが、その時。

目の前の人型が再び口を開く。


『行くな』


掠れた声。


『……壊れる』


レイカが槍を向ける。


「お前は何者だ」


人型は少し沈黙する。

赤い瞳が揺れる。


『……覚えていない』


また同じ答え。

だが、今度は続きがあった。


『……昔守っていた』


空気が止まる。

葵が眉をひそめる。


「『守人系か?』」


「『かもしれん』」


相棒が低く返す。

シエルが静かに前へ出る。


「『お前、敵?』」


人型は少しだけ俯く。

そして。


『……分からない』


その声には、本当に迷いがあった。

敵意だけではない。

壊れている、そんな感じだった。

その瞬間。


――ゴォォォッ!!

亀裂の奥から風が吹き出す。

魔力混じりの風。


古い、異世界の匂い。

そして全員、理解した。


異世界は、まだ繋がっている。

葵が小さく息を吐く。


「『……行く?』」


静かな問い。

レイカがこちらを見る。


「お前らはどうする」


少し間、俺は亀裂を見る。

黒い奥。


そこから感じる気配。

懐かしくて嫌な感覚。


「……確認する必要がある」


相棒も頷く。


「『放置は危険じゃ』」


シエルも小さく言う。


「『……行く』」


葵が肩をすくめる。


「だよなぁ」


レイカが小さく笑う。


「狂ってるな」


「今さらだ」


そして一行は亀裂の奥へ進んだ。



景色が変わる、通路を抜けた先。

そこは巨大な空間だった。


「……っ」


ユイが息を呑む。


遺跡。

古代遺跡、巨大な石柱、崩れた神殿。

天井は遥か上。

青白い魔力光が空間を照らしている。


そして壁一面に刻まれた、異世界の文字。

シエルの目が見開く。


「『……古い』」


相棒も周囲を見る。


「『王国時代より前か?』」


葵が顔をしかめる。


「『神代寄りだなこれ』」


完全に異世界の建築。

日本のダンジョンではありえない。


レイカが静かに呟く。


「……本当に別世界だな」


「ああ」


俺も周囲を見る。

その時、奥。


巨大な扉が見える。

黒い石でできた門。

そして、その前には―大量の人型。


昨日の個体と同じ。

だが全員、こちらを見ている。


ユイが顔を強張らせる。


「……囲まれてません?」


「囲まれてるな」


レイカが槍を構える。

だが人型たちは動かない。


ただ見ている。

その空気の中、一体が前へ出る。

他より少し形が安定している。


そして静かに異世界の言葉を話した。


『……宵星』


空気が凍る。

シエルの瞳が揺れる。


「『……何故、その名を知っている』」


静寂。

そしてその個体は、ゆっくり答えた。


『待っていた』


その一言で空気が完全に変わった。

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