82話
夕方。
リビング。
珍しく煩い葵も静かだった。
相棒は本を読んでいる。
シエルは日本語の勉強。
俺はソファに座ってぼんやりしている。
「……やば」
葵が冷蔵庫の前で止まっていた。
「どうした」
「日本すごい」
「今さらか」
「今さらだよ」
真面目な顔で言う。
手にはプリン。
「コンビニでこれ買ったけどさ」
「普通に美味すぎる」
「安いし」
「種類多いし」
「頭おかしいだろこの国」
相棒が少し笑う。
「『また始まったの』」
「『だってさぁ!』」
異世界の言葉に切り替わる。
「『向こうで甘味なんて高級品だったじゃん!』」
「『しかも保存効くし!』」
「『冷えてるし!』」
熱量が高い。
シエルが静かに頷く。
「『分わる』」
「『アイス、美味しい』」
「『だろ!?』」
完全に盛り上がる。
俺が小さく息を吐く。
「平和だな」
「平和だよ」
葵が即答する。
そのままソファへ戻ってくる。
「いやマジでさ」
「戻ってきた時びっくりしたもん」
「夜に外歩いても襲われないし」
「飯うまいし」
「風呂あるし」
「電気あるし」
「最高すぎる」
勢いがすごい。
相棒も少し懐かしそうに言う。
「『最初、湯船で感動したの』」
「『あー分かる』」
「『あれは強い』」
シエルが小さく手を上げる。
「『布団も良い』」
「『分かる!』」
葵がすぐ反応する。
「『安全な場所で寝れるのやばい』」
異世界では、安心して眠れる場所が少なかった。
交代で見張り。物音で起きる。
武器を手放さない。
それが普通。
だからこそ、今の生活が異常なほど平和に感じる。
葵が天井を見上げる。
「……三年かぁ」
ぽつりと呟く。
「こっちじゃ三年だけど」
「体感だと数百年ぶりなんだよな、日本」
少しだけ静かになる。
シエルが小さく頷く。
「『景色、全然違う』」
「『でも落ち着く』」
相棒も言う。
「『変わっておるが、平和じゃ』」
俺は窓の外を見る。
夕焼け、静かな住宅街。
遠くを走る車の音。
普通の街、普通の日常。
「……悪くない」
短く言う。
葵が笑う。
「いや、かなり良い」
「向こう知ってると余計分かる」
そのままコンビニ袋を漁る。
「あとさ」
「日本、飯のレベル高すぎ」
「また食い物か」
「重要だろ」
即答。
シエルも頷く。
「『重要』」
「味方増えたな」
「『当然』」
少し笑いが起きる。
そのまま。だらだらと時間が流れる。
テレビの音。
窓から入る風。
安心して座っていられる空間。
それがどれだけ貴重か。
四人は知っている。
葵がぽつりと言う。
「……帰ってこれて良かったな」
珍しく静かな声。
相棒が小さく頷く。
「『そうじゃな』」
シエルも。
「『うん』」
俺も短く返す。
「ああ」
それだけで十分だった。
戦い続けた時間。
失ったもの、長すぎた旅。
全部あった。
それでも今ここにいる。
平和な日本で安心してだらけていられる。
その事実だけで――きっと、意味はあった。
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