81話
次の日。昼頃。
チャイムが鳴る。
シエルが本から顔を上げる。
「……来タ」
「そうだな」
俺が玄関へ向かう。
扉を開けると――
「こんにちはー!」
ユイだった。
両手に袋を持っている。
「差し入れ持ってきました!」
「何だそれ」
「お菓子です」
「平和だな」
「平和ですよ」
即答。そのまま中へ。
「お邪魔します!」
すっかり慣れた様子で入ってくる。
リビングへ行くと――
「『誰だ?』」
「『ユイじゃろ』」
「『あー、なるほど』」
異世界の言葉で普通に会話している三人。
ユイが苦笑する。
「やっぱり増えてますね、その言葉」
「楽だからな」
葵が寝転がったまま言う。
「慣れると戻れない」
「そんなものですか?」
「そんなものだ」
相棒も頷く。
ユイはテーブルに袋を置く。
「クッキー買ってきました」
「……クッキー」
シエルが反応する。
「甘イ?」
「甘いですよ」
「……食ベル」
かなり素直。
ユイが少し笑う。
「シエルさん、甘いもの好きですよね」
「……好き」
短いだが分かりやすい。
その横で葵が袋を覗く。
「お、いいじゃん」
「いただきまーす」
「早いですね!?」
「取られる前に確保」
「誰も取らん」
俺が呆れ気味に言う。
ユイも少し笑う。
そのまま、自然に全員座る。
完全にいつもの空気。
ユイがクッキーを食べながら、ふと呟く。
「……なんか不思議ですね」
「何がだ」
「ここ」
部屋を見回す。
「異世界帰りの人が四人いて」
「普通にダラダラしてるの」
「慣れろ」
「いや無理です」
即答。シエルがクッキーを食べながら言う。
「……美味シイ」
「よかったです」
ユイが少し嬉しそうに笑う。
その横で葵が空中に小さな金属片を浮かせて遊び始める。
くるくる回る。
「便利ですね、それ」
「暇つぶしにちょうどいい」
形が変わる。
今度は小さな猫。
ユイの目が少し輝く。
「すご……」
「欲しい?」
「え、いいんですか?」
「いいよ」
金属猫がそのままテーブルへ。
ユイが恐る恐る持つ。
「軽い……」
「中空構造だからな」
「……やっぱりすごいですね」
素直に感心する。
葵が笑う。
「向こうじゃこんなの遊びでしか使わなかったけどな」
相棒が小さく言う。
「『戦いばかりじゃったしの』」
「『こういう使い方の方が平和で良い』」
シエルも頷く。
「……今ハ、コッチガ良イ」
静かな声。
ユイがその言葉を聞いて、少しだけ微笑む。
「……皆さん」
「ちゃんと今を楽しんでる感じします」
少し間、俺が答える。
「昔は余裕がなかったからな」
「今くらいでちょうどいい」
葵がソファで寝転がりながら言う。
「だらけられる時にだらけるの大事」
「それはそうじゃな」
相棒も同意。
ユイが少し笑う。
「なんか安心しました」
「何がだ」
「もっと、ずっと重い感じかと思ってたので」
「そんなに暗くないですよね」
「今さら引きずっても仕方ない」
俺が言う。
シエルも静かに頷く。
「……生キテる」
「……ダカラ、良イ」
短いでも、その言葉には確かな実感があった。
そのまま、また静かな時間が流れる。
誰かが騒ぐわけでもない。
ただ、そこにいる。
それだけで成立する空気。
ユイは少しだけ嬉しそうに、その輪の中に座っていた。
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