80話
翌日。昼過ぎ。
家の中は静かだった。
特に予定もない。
ダンジョンにも行かない。
珍しく、本当に何もない日。
リビング。
ソファには葵が寝転がっている。
「……平和だ」
ぼそっと呟く。
「昨日あれだけ動いたからの」
相棒が湯呑みを持ちながら言う。
「休みも必要じゃ」
「分かってるけど暇」
「知らん」
適当な返事。
その横、シエルは床に座って本を読んでいる。
日本語の勉強だ。
「……難しい」
「どこだ」
俺が聞く。
「……これ」
本を向けてくる。
「雰囲気」
「読めん」
「あー……」
確かに難しい。
葵が横から見る。
「それ日本人でも初見キツいやつ」
「……日本語、変」
「否定できん」
シエルが少し不満そうに本を見る。
「……異世界ノ文字ノ方ガ簡単」
「それはそう」
相棒が頷く。
「『向こうは実用重視じゃったしの』」
「『無駄が少ない』」
「『でも文化は薄かった』」
葵が異世界の言葉で返す。
「『それはある』」
そこから自然に四人とも異世界の言葉に切り替わる。
「『こっち、娯楽多すぎる』」
「『平和だからな』」
「『食い物も美味い』」
「『分かる』」
完全にだらけた会話。
シエルが本を閉じる。
「『眠い』」
「『寝ればいい』」
「『そうする』」
そのまま、こちらに寄ってくる。
自然に隣へそして肩にもたれかかる。
「……落チ着ク」
「そうか」
葵がそれを見て笑う。
「相変わらず懐いてんな」
「昔からじゃ」
相棒が普通に言う。
その本人も、今度は反対側に座る。
「『平和じゃの』」
「『だな』」
本当にそれだけ何もしない時間。
だが、悪くない。
葵が寝転がったまま手を振る。
空中に小さな金属片が生成される。
くるくる回る。
「暇だなー」
「遊ぶな」
「いいだろ別に」
金属片が変形。
小鳥みたいな形になる。
シエルが少し見る。
「……器用」
「錬金術はイメージだからな」
「慣れれば楽」
その小鳥がふわふわ飛ぶ。
相棒がそれを見ながら言う。
「『向こうでは戦いばかりに使っとったが』」
「『こういう使い方も悪くないの』」
「『平和だからできる』」
シエルが静かに頷く。
そのまま、少し間、窓から風が入る。
静かだ。
本当に普通の日常。
葵がぽつりと言う。
「……なんかさ」
「向こうじゃ考えられなかったな」
「何がだ」
「こんな何もない日」
その言葉に、少しだけ空気が静かになる。
相棒が小さく笑う。
「『だから良いんじゃ』」
「『戦わなくていい日も必要じゃろ』」
「『……ウン』」
シエルも小さく頷く。
俺は窓の外を見る。
青空。静かな街。
平和だ。
それだけで十分だった。
葵が大きく伸びをする。
「よし」
「今日はもう動かん」
「最初から動いてないだろ」
「細かいこと気にすんな」
そのまま本当に寝始める。
相棒が苦笑する。
「自由じゃの」
「今さらだ」
シエルも少し笑う。
そんな風に戦いとは関係ない時間が流れていく。
それはきっと、昔の自分たちが一番欲しかったものだった。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




