79話
ギルド本部からの帰り道。
ユイは、ずっと考えていた。
――宵星。その名前。
その響き。
そして、その四人。
何百年も戦ってきた。
世界を救った。
そんな人たちが、今すぐ隣を歩いている。
「……すごいな」
思わず漏れる。
「何がだ?」
隣を歩くレイカが聞く。
「全部です」
ユイは素直に言う。
「強くて」
「ちゃんと仲間で」
「名前まである」
少しだけ俯く。
「……私、なんにもないなって」
レイカが少しだけ目を細める。
「焦ってるか」
「……ちょっと」
否定しない。
ユイはまだ駆け出しだ。
戦える。才能もある。
だが、あの四人と比べれば――どうしても小さく見える。
レイカが静かに言う。
「比べる相手が悪い」
「でも」
「でもじゃない」
足を止める。ユイも止まる。
「お前はお前だ」
「今の実力で十分とは言わん」
「だが、腐る必要もない」
真っ直ぐな言葉。
ユイは少しだけ俯いたあと、小さく頷く。
「……はい」
でも
それでも思う。
追いつきたい。少しでも近づきたい。
その夜、ユイは一人、訓練場にいた。
ギルドの地下。
誰もいない時間。
「……ファイア」
火球を放つ、的に当たる。
だが、威力はまだ甘い。
「もう一回」
繰り返す。
「ファイア」
「ファイア」
「ファイア」
汗が滲む。息が上がる。
それでも止めない。
「……ウィンドカッター」
風刃。
放つ。
軌道がぶれる。
「違う」
もっと鋭く。
もっと正確にシエルのように。
そして――もっと強く。
時間が過ぎる。
何度も何度も繰り返す。
その時。
「やってるな」
声。振り向く。
レイカだった。
「……レイカさん」
「帰ったんじゃ」
「少し気になってな」
槍を肩に担いだまま近づく。
ユイの魔法痕を見る。
「無茶はしてないか」
「大丈夫です」
少し息は上がっているが、目は真剣。
レイカはそれを見て、小さく笑う。
「いい顔だ」
「え?」
「悔しい時の顔だ」
ユイが少しだけ目を見開く。
「……分かりますか」
「私も通った」
短く言う。
「強い奴を見た時」
「届かないと感じた時」
「悔しいと思えたなら、まだ伸びる」
その言葉が、静かに刺さる。
ユイは拳を握る。
「……私」
「強くなりたいです」
「知ってる」
「宵星みたいに」
少しだけ間。
レイカは首を振る。
「違うな」
「え?」
「宵星になる必要はない」
「お前はお前の名前で強くなれ」
その一言。
ユイは少しだけ息を呑む。
そして――ゆっくり頷く。
「……はい」
レイカが槍を構える。
「なら、付き合ってやる」
「え」
「訓練だ」
「本気で強くなりたいんだろ」
ユイの顔が少し明るくなる。
「お願いします!」
レイカが小さく笑う。
「よし」
「来い」
その夜。
訓練場に魔法の光が何度も走った。
まだ届かない。遠い。
でも――確かにユイは一歩、前へ進んでいた。
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