61話
数日後。昼。
いつものようにユイが家に来る。
「こんにちはー!」
「来たか」
「はい!」
靴を脱いで中に入る。
そのままリビングへ。
「シエルさーん」
軽く手を振る。シエルが振り返る。
「……ユイ」
呼び方はもう自然だ。
「こんにちは」
ユイが言う。
少しだけゆっくりだが普通の速度に近い。
シエルが一瞬考える。
そして。
「……コンニチハ」
発音はまだ少し硬いが、はっきりしている。
ユイが嬉しそうに笑う。
「いいですねそれ!」
シエルが続ける。
「今日……何スル?」
言葉が繋がっている。
文として成立している。
ユイが一瞬止まる。
「……え」
「え、今普通に聞かれましたよね?」
「聞かれたな」
俺が答える。
ユイがシエルを見る。
「今の、ちゃんと会話ですよね?」
「……会話」
シエルが頷く。少しだけ自信がついている。
ユイが笑う。
「すごい……」
「じゃあ……今日はですね」
「ちょっとゆっくりしたいなって思ってます」
少し長めに話す。シエルが聞く。
途中で止まらない。
最後まで聞く。
「……ワカッタ」
「ユックリ、スル」
「完璧じゃないですか!」
ユイが軽く感動している。
シエルが少しだけ得意げに言う。
「……覚エタ」
「早い」
「ほんとに早いですよ……」
ユイが笑う。そのまま隣に座る。
「じゃあ、もっと話しますね」
「……ウン」
シエルが頷く。ユイが少しずつ話す。
「昨日、ギルドで――」
ゆっくり。分かりやすく。
シエルは途中で止まらずに聞く。
分からないところがあれば――
「……ソレ、何?」
ちゃんと聞き返す。
「それはですね――」
ユイが説明する。会話が成立している。
自然に。
俺と相棒は少し離れてそれを見る。
「進んだの」
「ああ」
「『ここまで来るとはな』」
「『想定より早い』」
いつもの言葉で会話する。
ユイがちらっと見る。
「またそれ使ってますね」
「癖だ」
「もう慣れましたけど」
苦笑する。
シエルがそのやり取りを見て言う。
「……ソッチモ、分カルヨウニナル」
「そのうちな」
俺が答える。ユイが笑う。
「それはちょっと楽しみです」
シエルが小さく頷く。
「……頑張ル」
短いが、はっきりとした意思。
ユイも頷く。
「私も教えます」
そのまま、会話は続く。ぎこちなさはある。
だが、それすらもう自然だ。
言葉が通じる。
それだけで、距離は一気に近くなる。
シエルがふと呟く。
「……タノシイ」
ユイがすぐに笑う。
「ですね」
その空気は、前よりずっと柔らかかった。
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