60話
夜。
練習が終わって、少し落ち着いた頃。
ユイがふとこちらを見る。
「……あの」
「何だ」
「前からちょっと気になってたんですけど」
少しだけ言いづらそうにする。
「なんで最近、その……」
「違う言葉で話してること多いんですか?」
まっすぐな疑問。
俺と相棒が一瞬だけ視線を合わせる。
シエルは隣で静かに聞いている。
相棒が先に口を開く。
「癖じゃな」
「癖、ですか?」
「ああ」
俺も続ける。
「長く使ってた言葉の方が、楽なんだ」
ユイが少し考える。
「長くって……どれくらいですか?」
「かなり」
「こっちの言葉より長い」
「……え?」
少しだけ驚く。だが、それ以上は深く聞かない。
ユイなりに整理している。
「じゃあ……」
「シエルさんがいるからっていうのもあります?」
シエルが少しこちらを見る。
俺は頷く。
「あるな」
「シエルはそっちしか分からなかったからな」
「今は覚えてる途中だけど」
シエルが小さく言う。
「……マダ、途中」
ユイが納得したように頷く。
「あー……だからなんですね」
少しだけ笑う。
「なんか、自然にそっち使ってる感じでしたもんね」
「そういうことだ」
相棒が軽く言う。
「無理に変える必要もないしの」
「状況で使い分けておるだけじゃ」
ユイがさらに聞く。
「でも、二人だけで話してる時も使ってますよね?」
核心だ。少し間。
俺が答える。
「その方が速い」
「……速い?」
「細かいニュアンスとか」
「考えなくていい」
相棒も頷く。
「長く使っとる分、染みついておる」
「考える前に出る感じじゃな」
ユイが「なるほど……」と小さく呟く。
「日本語だとちょっと考えるんですか?」
「多少はな」
「逆にそっちは考えない」
「へぇ……」
少し面白そうに笑う。シエルがぽつりと言う。
「……コノ言葉、難シイ」
ユイが頷く。
「ですよね」
「でもめっちゃ覚えてますよ」
「……頑張ッテル」
「知ってます」
少し柔らかい空気になる。ユイが軽く笑いながら言う。
「なんか安心しました」
「何が」
「別に秘密の言語とかじゃないんだなって」
「そんな大したものじゃない」
俺が答える。相棒も続ける。
「ただの慣れじゃ」
ユイが頷く。
「そっか」
それで納得した様子だった。
深く踏み込まない。
ただの違いとして受け入れている。
シエルがこちらを見る。
「……デモ」
「ナレタラ、コッチモ使ウ」
「そうだな」
「そのうち逆になるかもな」
ユイが笑う。
「それはそれで面白そうですね」
少しだけ、静かな時間。違いはある。
でも、それをそのまま受け入れている。
そんな空気だった。
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