54話
数日後。
昼過ぎ。家のチャイムが鳴った。
扉を開けると――
「邪魔する」
レイカが立っていた。
「どうした」
「様子を見に来ただけだ」
「ついでに確認もな」
短く言う。中に通す。
靴を脱いで、いつも通りリビングへ。
そして――止まった。
「……は?」
レイカの視線の先。ソファに座るシエル。
そして、その口から。
「……レイカ」
はっきりとした発音。
自然な日本語。
「来タ」
少しだけぎこちないが、確実に通じる。
レイカの動きが止まる。
「……お前」
「話せるのか?」
シエルは少し考えてから答える。
「少シ」
「マダ、全部ハ無理」
ゆっくりだが、確実に言葉を選んでいる。
レイカがこちらを見る。
「……数日だろ」
「そうだな」
「……は?」
理解が追いつかない。
相棒が小さく笑う。
「『覚えは早い』」
「『元々の能力が高いからな』」
俺が続ける。当然、異世界の言葉。
レイカは眉をひそめる。
「……今のは何だ」
「普通に会話してるだけだ」
「普通じゃない」
即答だった。
シエルがこちらを見る。
「『まだ不完全だ』」
「『十分だろ』」
「『会話は成立する』」
相棒が言う。
レイカは腕を組む。
「……いや待て」
「数日で言語習得?」
「ありえんだろ」
シエルがゆっくりと首を傾ける。
「普通」
短く言う。
「レベル高イ」
「覚エル、早イ」
淡々と。レイカが額を押さえる。
「……なるほどな」
「レベルで言語能力も上がると」
「そういうことだ」
俺が答える。レイカは深く息を吐く。
「……お前らもか」
「すぐ覚えたのか」
「ああ」
「最初は分からなかったが、すぐ慣れた」
「……はぁ」
完全に呆れている。
だが、もう驚ききれない。
シエルが少しだけこちらに寄る。
「『まだ違和感はある』」
「『発音も完全じゃない』」
「『そのうち慣れる』」
俺が答える。レイカがそのやり取りを見る。
「……やっぱりその言葉だな」
「さっきから使ってるのは」
「そうだ」
「元の言語だ」
「……なるほどな」
小さく頷く。そして、シエルを見る。
「……シエル」
名前を呼ぶ。シエルが視線を向ける。
「……よろしく、でいいのか?」
少しだけ不器用な言い方。
だがシエルは数秒考えてから答える。
「……ヨロシク」
少しだけ発音が崩れるだが意味は伝わる。
レイカがわずかに笑う。
「十分だ」
ユイがいない分、少し静かだがそれでも空気は悪くない。
レイカが周囲を見回す。
「……前より賑やかになったな」
「そうだな」
俺が答える。シエルがぽつりと呟く。
「……タノシイ」
小さく、だがはっきりとレイカが一瞬だけ目を細める。
「……そうか」
短く返す。そして、こちらを見る。
「お前ら」
「やっぱり普通じゃないな」
「今さらだろ」
「それもそうだな」
小さく笑うだがその目は、確信に近づいている。
言葉。魔法。戦い方。
全部が違う。
そして今。
その違いが、はっきりと形になってきている。
レイカはそれを見ながら――何も言わず、ただ静かに観察していた。
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