21話
明日から4月……
数日後の夜。
その日は特に何もなく、普通にダンジョンに潜って帰ってきて、飯を食って、そのまま寝ることになった。
布団は一つ。最初からそうだった。
特に深い理由はない。
昔からこうして寝ていたから、そのまま続いているだけだ。
電気を消す。
静かな夜だった。外の音もほとんど聞こえない。
しばらくすると、相棒の声が聞こえた。
「……主」
「ん?」
「寒い」
俺は目を閉じたまま言う。
「そうか」
「冷たい」
「布団あるだろ」
「足が冷たい」
そんなことを言いながら、布団の中でもぞもぞ動く気配がする。
次の瞬間。
ぎゅっと腕に何かが絡みついた。
目を開ける。
相棒がくっついてきていた。
「おい」
「温かい」
完全に抱きついている。
「離れろ」
「嫌じゃ」
即答だった。
「寒い」
「布団に入れ」
「入っておる」
確かに入っている。でも距離が近すぎる。
相棒はそのまま俺の胸に顔を押し付けてきた。
「……落ち着く」
「そうか」
「うむ」
昔からこういうことはたまにあった。
特に寒い夜とか。ただ最近は少し頻度が増えている気がする。
「主」
「なんだ」
「東京の冬は冷えるの」
「まだ冬じゃない」
「そうか?」
「そうだ」
相棒は少し黙る。そのまま腕をぎゅっと抱きしめた。
「……主は温かい」
「普通だ」
「いや温かい」
相棒は目を閉じている。
どうやら本気で眠いらしい。
「離れないのか」
「もう少し」
「さっきもそれ言った」
「主も寒いじゃろ」
「別に」
「嘘じゃ」
相棒が少し笑う。
顔はまだ胸のあたりにある。
「昔もこうして寝たの」
「覚えてない」
「覚えておる」
相棒がぽつりと言う。
「主が片腕の頃じゃ」
「……」
あの頃か。まだ左腕がなかった頃。
戦いの合間に休んでいた夜。
寒い場所だった。火も小さくて、まともに眠れなかった。
その時も、こんな感じだった気がする。
「主はあの頃、すぐ無理するからの」
「今もだろ」
「今は強いからよい」
少しだけ沈黙が流れる。
相棒が小さく言った。
「……平和じゃな」
「そうだな」
「昔はこうして寝るのも難しかった」
確かにそうだ。戦いばかりだった。
夜でも気を抜けなかった。
魔物がいつ来るか分からない。
魔王軍の兵が襲ってくることもあった。
今は違う。
静かだ。
「主」
「なんだ」
「このまま寝てもよいか」
「もう寝てるだろ」
「そうじゃな」
相棒は少し笑った。腕に回していた力が少し緩む。
呼吸もゆっくりになる。
寝たらしい。
俺は小さく息を吐いた。相棒の頭が胸のあたりにある。
温かい。
しばらくして俺も目を閉じた。
外は静かだった。何も起きない夜。
そんな時間が、少しだけ心地よかった。
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