13話
毎回2000文字くらいにしたい
コンビニで白瀬ユイと再会してから、数日が経った。
俺と相方は、特に予定もなく、いつもの流れで東京ダンジョンへ向かっていた。
理由があるわけじゃない。ただ、体がそう動いただけだ。
「今日は深く潜らんでいいな」
「うむ。少し歩くだけでよかろう」
入り口を通り俺たちは10階層付近に降り立つ。低層らしく、通路は広く、敵の気配も薄い。壁際にはスライムが数体、のろのろと動いていた。
そこで、聞き覚えのある声がした。
「……あれ?」
剣を構え、スライムと向き合っている少女。白瀬ユイだった。
「また会ったな」
「あっ……!」
ユイは驚いた顔をしたあと、すぐに姿勢を正す。
「この前は、ありがとうございました」
「今日は一人か?」
「はい。低層なら大丈夫って言われたので……」
剣を主武装にしているのが一目で分かる。
服装も前衛寄りだ。
「魔法の練習をしたいって言ってたよな」
「……覚えててくれたんですか?」
「約束しただろ」
ユイは少し迷ったあと、意を決したように頭を下げた。
「……お願いします。教えてください」
「いいぞ」
相方も頷く。
「基礎からじゃな」
まず、俺たちはスライムを一体だけ残した。
「ユイ、普段は剣だな?」
「はい。魔法は……補助程度で」
「一般的だな」
この世界では、魔法使いでも杖は使わない。魔力は身体から直接行使するものだ。
剣士が簡単な魔法を使うのも珍しくない。
「じゃあ、火球を撃ってみろ」
「はい……!」
ユイは集中し、詠唱する。
火球が生まれるが不安定だ。
放たれた火は、スライムの手前で弾け、床を焦がすだけで終わった。
「……すみません」
「謝るな」
俺は首を振った。
「失敗の理由、分かるか?」
「魔力操作が……下手で……」
「違う」
ユイが顔を上げる。
「多すぎる」
「……え?」
「魔力が多すぎるんだ」
相方が興味深そうにユイを見る。
「お主、自覚はないが、魔力量はかなり多い」
「そ、そんな……」
「普通の者が川なら、お主は洪水じゃ」
ユイは言葉を失っていた。
「だから、まず撃つな」
「え?」
「出して、止めろ」
俺は床を指差す。
「魔力を体の外に出して、そこで制御する」
「……やってみます」
ユイが目を閉じる。
空気がわずかに震えた。
「止めろ」
ぴたりと、魔力が収まる。
「……出来た」
「それでいい」
何度も繰り返す。
最初は暴走し、床が割れた。
「ご、ごめんなさい!」
「気にするな」
「低層でよかったのう」
だが、徐々に安定していく。
「次」
俺はスライムを指す。
「最小出力で、火球」
「最小……」
「削るイメージだ」
ユイは慎重に詠唱する。
火球は小さい。だが――
当たった瞬間、スライムは核ごと消し飛んだ。
「……え?」
「成功だ」
「密度が高いのう」
ユイは呆然としていた。
「……私、今までより弱く撃ったのに……」
「だからだ」
「無駄がない」
相方が言う。
「お主は、剣を振る時、常に全力か?」
「いえ……」
「魔法も同じじゃ」
ユイは何度も頷いた。
「次は風だ」
「風……?」
「ウィンドカッター」
「え、難しいやつじゃ……」
「出来る」
「断言しないでください!?」
だが、やらせてみる。
結果は――成功。
鋭い風が走り、スライムを真っ二つにした。
「……出来た」
「才能はある」
「制御を覚えれば、前衛魔法剣士として十分やれる」
それから、ユイの練習は想像以上に続いた。
「もう一回、火球を撃ってみろ」
「はい!」
詠唱。発動。
小さな火球が生まれ、狙ったスライムの核だけを正確に焼き抜く。
「……よし」
「やった……!」
ユイは思わず声を上げ、すぐに口を押さえた。
「す、すみません」
「別にいい」
相方が腕を組んで頷く。
「安定してきたのう。最初とは別人じゃ」
実際、最初の失敗が嘘のようだった。
魔力の暴走はほぼなく、出力も狙い通り。スライム程度なら、剣を抜く必要すらない。
「次、ウィンドカッター。今度は連続で」
「れ、連続ですか……?」
「無理なら止める」
「……やってみます」
一拍置いて、ユイは集中する。
風が走る。
一撃、二撃、三撃。
通路に並んでいたスライムが、時間差で崩れ落ちた。
「……」
「……」
俺と相方は、顔を見合わせる。
「……普通は一発で出来んぞ」
「出来ておるな」
ユイは自分の手を見つめていた。
「私……こんなに、出来るなんて……」
「今まで、力を抑えすぎてただけだ」
「剣の感覚で、魔法を扱っておったのじゃろう」
ユイは苦笑する。
「言われてみれば……魔法って、怖くて」
「分かる」
「制御できない力は、誰でも怖い」
休憩を挟みつつ、練習は続く。
火、風。近距離、遠距離。
移動しながらの発動。
途中、魔力切れを起こしそうになるたびに、俺が止めた。
「今日はここまでだ」
「え……?」
「これ以上やると、変な癖がつく」
「……はい」
ユイは素直に頷いた。
その表情は、疲れているが、どこか楽しそうだ。
その時だった。
相方が、ふと足を止める。
「……やはり、妙じゃな」
「だよな」
俺も同じ感覚を覚えていた。
低層のはずなのに、魔力の流れが落ち着かない。壁の奥で、何かが蠢いているような――そんな違和感。
「この階層、前より騒がしい」
「え……?」
ユイが不安そうに周囲を見る。
「モンスターが増えてる感じですか?」
「数じゃない」
「流れだ」
相方が静かに言う。
「ダンジョンそのものが、落ち着いておらん」
「すぐに危険になるほどじゃない」
「だが、放っておくと厄介だ」
俺は少し考えてから、ユイを見る。
「明日も来る予定だ」
「……」
「もしよければ」
言葉を選びながら、続ける。
「明日も、練習するか?」
ユイは一瞬驚いたあと、すぐに笑った。
「……はい!」
はっきりした声だった。
「お願いします!」
その返事を聞いて、相方が小さく笑う。
「縁が出来たのう」
俺と相方はダンジョンの奥を一度だけ振り返った。
この違和感が、ただの気のせいで終わらないことを、なぜか確信していた。
4月になってしまった!
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