12話
可愛いだけじゃダメですか
数日が経ち二人はコンビニに向かっていた。
特別な予定があるわけでもなく、昨日はダンジョンにも入っていない。
冷蔵庫の中身が心許なかった、それだけの理由だ。
「人の多い時間帯じゃな」
「朝だしな」
店の自動ドアをくぐったところで、視界の端に見覚えのある姿が映った。
「あ」
声を上げたのは向こうだった。
小柄で、明るい髪色。
東京ダンジョンで一度だけ顔を合わせた冒険者、ユイだ。
その隣には、明らかに雰囲気の違う女が立っていた。
背筋が真っ直ぐで、無駄な動きが一切ない。
装備は簡素だが、ただそれだけで周囲と一線を画しているのが分かる。
「おはようございます!」
ユイがこちらに気づき、少し慌てたように会釈をする。
「……知り合いか?」
隣の女が静かに尋ねた。
「はい、この前ダンジョンで……」
紹介される前に、女は一歩前に出た。
「鷹宮レイカだ。白瀬ユイが所属しているギルドのマスターをしている」
「ああ」
俺は短く頷いた。
相方も、軽く会釈を返す。
「ギルドの長、じゃな」
「そうだ」
相方はそれ以上何も言わなかった。
知らないわけではない。
ギルドという組織も、長の立場も理解している。
ただ、それを理由に態度を変える気がなかっただけだ。
鷹宮は、俺たち二人を順に見て、少しだけ口元を緩めた。
「噂通りだな。ユイ、お前が言っていた変わった二人というのは」
「何で本人の前で言うんですか」
「無登録で、管理局にも顔を出さず、それでいて無傷で40階以下を歩いている。これだけで十分変わっている」
否定できない。
「昨日は助けてもらったと聞いている。礼は言っておく」
「気にしなくていい」
「部下の命を拾った礼だ。Sランクとしてではなく、同じ冒険者としてな」
「なら、どうも」
相方が自然な調子で続ける。
「部下を守る長は、悪くない」
一瞬、空気が止まった。
ユイが目を丸くし、俺は内心で少しだけ息を吐く。
普通は言わない。
だが鷹宮は、意外そうに目を瞬かせた後、静かに笑った。
「……そう言われるのは久しぶりだ」
それだけ言うと、二人に軽く手を振り、会計を済ませて先に店を出ていった。
ユイだけが、その場に残る。
「えっと……」
少し視線を泳がせてから、意を決したようにこちらを見た。
「あの、この前の魔法……もしよければ、もう少し教えてもらえませんか?」
「魔法?」
「はい! あんな構成、見たことなくて……」
熱が入りすぎたのか、途中で言葉を切り、慌てて姿勢を正す。
「その……連絡先、交換とか……」
そこで、俺は首を傾げた。
「連絡先?」
「え、えっと……スマホとか……」
「持ってない」
即答だった。
ユイが固まる。
「……え?」
「必要なかった」
「で、でも……今どき……」
横で相方が、不思議そうに首を傾ける。
「スマホで連絡はどうやってするものじゃ?」
「いや、だから……メッセージとか……」
「文字を飛ばすのか?」
「……そう、ですけど……」
相方は少し考え込み、真顔で言った。
「それは便利そうじゃが、妾は使い方を知らぬな」
完全に噛み合っていなかった。
ユイは数秒黙り込み、それから小さく息を吐いた。
「……なるほど」
「悪い」
「い、いえ!むしろ、そういう人たちなんだなって……」
なぜか納得したように頷く。
「またダンジョンで会えたら、その時でいいです」
「そうだな」
「はい!」
少し残念そうではあったが、それ以上踏み込んでこなかった。
店を出ると、朝の空気がやけに澄んでいた。
「面倒なことにならなくて良かったな」
「そうか?」
「普通なら、色々聞かれる」
「ふむ」
相方は袋の中のパンを覗き込みながら言った。
「じゃが、あの娘は悪くない。長も、筋は通っておる」
「同感だ」
それだけ話して、俺たちは並んで歩き出す。
特別なことは何も起きていない。
ただ、それだけの日常だった。
東海林って人って全国に何人いるんやろな
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




