120話
その日の夜
家。
リビングではテレビが流れている。
内容は誰も真面目に見ていない。
相棒は紅茶。
葵はソファで寝転がり。
シエルは景斗の隣。
いつも通りだった。
そして葵がふと思い出したように言う。
「なぁ」
「ん?」
景斗が返事をする。
葵は笑いながら続けた。
「今日ユイ達見てて思ったんだけどさ」
「この中で一番精神年齢低いのシエルだよな」
一瞬、静かになる。
シエルが本から顔を上げた。
「?」
自覚がない顔だった。
景斗は少し考える。
「否定はできない」
「おい」
即答だった。
シエルが不満そうな顔になる。
相棒も吹き出した。
「確かにの」
「相棒まで」
「事実じゃろ」
容赦がない。
シエルは本を閉じる。
「違う」
「どこがだ」
葵が聞く。
「私は大人」
「何歳だっけ」
「何百歳」
静かになる。
数字だけ聞くと全員十分大人である。
だが精神面は別問題だった。
葵が笑う。
「でも景斗に頭撫でられて喜んでるじゃん」
「……」
「抱きつくじゃん」
「……」
「寝る時くっつくじゃん」
「……」
「精神年齢低くね?」
反論できなかった。
シエルが景斗を見る。
「違うよね」
「いや」
「景斗」
「いや」
「景斗」
「事実だろ」
追い打ちだった。
シエルが少しだけショックを受ける。
相棒が笑いを堪えている。
「お主は昔から変わらんの」
「そんなことない」
「ある」
全員一致だった。
シエルは不服そうだ。
しかし実際問題。
昔からそうだった。
エルフの森で出会った頃。
まだ若かったシエルは景斗や相棒に懐いた。
最初は警戒していたが一度懐いたら早かった。
気付けば隣。
気付けば抱きつく。
気付けば頭を撫でられていた。
そして数百年。
全く変わっていない。
「むしろ悪化してないか?」
景斗が言う。
「昔はここまでじゃなかっただろ」
「そうじゃな」
相棒も頷く。
「昔はもう少し遠慮があった」
「あったな」
葵も同意する。
シエルが固まる。
つまり全員から成長していない認定を受けていた。
「……」
「何だ」
景斗が聞く。
シエルは少し考える。
そして景斗の腕を掴んだ。
「これは?」
「何がだ」
「精神年齢低い?」
「関係ない」
「ほら」
「証明になってない」
即論破だった。
葵が笑い転げる。
相棒も肩を震わせている。
シエルはさらに不満そうになる。
だがその時相棒がふと真面目な顔になった。
「とはいえ」
全員が見る。
「別に悪いことではなかろう」
静かな声だった。
「我らは数百年生きた」
「色々見た」
「色々失った」
部屋が少し静かになる。
「それでも変わらず笑っておれるのは良いことじゃ」
その言葉に誰も反論しなかった。
確かにそうだ。
普通なら擦り切れていてもおかしくない。
何百年も生きて仲間を失い続けて。
それでもシエルは昔のまま笑っている。
景斗も少し頷いた。
「ああ」
「それはそうだな」
シエルは少しだけ考え。
そして。
「じゃあ問題ない」
と言った。
「結論そこか」
葵が笑う。
相棒も笑う。
景斗も苦笑する。
結局シエルはシエルだった。
数百年経っても世界が変わっても精神年齢がどうだろうと多分これからも変わらない。
そしてそんなシエルを見ながら全員が少しだけ安心していた。
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