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異世界から帰ってきただけだが?  作者: Саша


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118/172

118話

数日後。

ギルド本部。


会議室のような休憩スペース。

今日は珍しく景斗がいない。


本人は買い物らしい。

レイカに呼ばれたわけでもなく、ダンジョン関連でもない。


本当にただの買い物である。


「平和ですねぇ」


ユイが飲み物を片手に呟く。


「平和じゃな」


相棒も頷く。

シエルは日本語の本を読んでいる。

葵はソファに寝転がっていた。


レイカは書類を片付けている。

何とも緩い空間だった。


その時ユイがふと口を開いた。


「そういえば」


「ん?」


相棒が顔を上げる。

ユイは少し迷うような顔をした。


「皆さんって」


「景斗さんのこと好きなんですか?」


空気が止まった。

レイカが飲んでいたコーヒーを吹きそうになる。


葵が起き上がる。

シエルも本から顔を上げた。


「お主、突然じゃな」


相棒が苦笑する。

ユイは慌てて手を振った。


「い、いや!」


「だって皆さんすごく仲良いじゃないですか!」


「家族みたいですし!」


「だからちょっと気になって……」


確かに気になるかもしれない。

相棒、シエル、葵。

誰も景斗と距離が近い。


普通の友人というには近すぎる。

レイカも興味が出たらしい。


「そう言われると気になるな」


「おい」


葵が呆れる。


「ギルドマスターが乗るなよ」


「いいだろ別に」


レイカは腕を組んだ。


「で?」


「どうなんだ」


今度は相棒達へ視線が向く。

相棒は少し考え。


「好きじゃな」


普通に答えた。

ユイが固まる。

レイカも固まる。


「えっ」


「えっ」


同時だった。

相棒は首を傾げる。


「何じゃ」


「いや」


「いやいやいや」


レイカがツッコむ。


「軽く言うな」


「事実じゃし」


相棒は平然としている。

するとシエルも頷いた。


「好き」


即答だった。


「えっ」


ユイが二度目の停止をする。

葵も少し考え。


「まぁ好きだな」


と言った。

ユイが頭を抱える。


「全員!?」


「いや待て」


レイカが額を押さえた。


「その好きってどの意味だ」


「家族」


シエルが答える。


「家族じゃな」


相棒も頷く。


「まぁ家族だな」


葵も同意した。

そこでようやくユイ達は納得した。

長い付き合い、数百年。

普通の友人関係ではない。


それは分かる。

だがユイはまだ少し気になるらしい。


「でも」


「景斗さんって異世界で数百年いたんですよね?」


「そうじゃな」


「その間に好きな人とか」


そこまで言ってユイは気付く。

空気が少し変わったことに。

相棒が少し黙った。

葵も笑みを消す。

シエルも本を閉じる。


「……あれ?」


何か触れてはいけない話だったのだろうか。

レイカも気付いたらしい。

少し真面目な顔になる。


数秒の沈黙。

そして相棒が小さく息を吐いた。


「おったよ」


ユイが目を見開く。


「え?」


「景斗がまだ若かった頃じゃな」


静かな声だった。


「まだ我らと出会う前」


「異世界へ来て間もない頃」


ユイは黙って聞く。

葵も何も言わない。


シエルもどうやら知っている話らしかった。


「恋人がおった」


短い言葉だが十分だった。

ユイは驚く。


景斗に恋人。

言われてみれば不思議ではない。

数百年も生きているのだ。

そういう相手がいても当然だろう。

だが相棒の表情はどこか寂しそうだった。


「その人は」


ユイが恐る恐る聞く。

相棒は静かに答えた。


「亡くなった」


部屋が静かになる。


「魔物じゃ」


「当時はまだ景斗も弱かった」


「守れんかった」


ユイは言葉を失う。

レイカも黙った。


葵が小さく呟く。


「かなり昔だな」


「そうじゃな」


相棒が頷く。


「我らと会うよりずっと前」


「だから詳しくは知らぬ」


「本人から聞いただけじゃ」


シエルも静かに言った。


「景斗」


「その話しない」


「ああ」


葵も頷く。


「一回も聞いたことないな」


実際、何百年も一緒に旅をした。

だが景斗自身からその話題が出たことはほとんどなかった。


時々酒を飲んだ時に少し話す程度。

それだけだった。


ユイが小さく聞く。


「まだ好きなんでしょうか」


その質問に相棒は少し考えた。

そして首を横に振る。


「違うと思う」


「え?」


「もう数百年前の話じゃ」


静かな声。


「ただ」


「忘れられぬのじゃろうな」


それは恋愛感情とは少し違う。

後悔、喪失。

守れなかった記憶。

そういうものだ。


レイカが小さく息を吐く。


「……なるほどな」


景斗が時々見せる寂しそうな顔。

仲間が死んだ話をする時の表情。

その理由が少し分かった気がした。


その時、ギルドの入口が開く。

全員が振り向く。


「おう」


買い物袋を持った景斗が立っていた。


「何話してたんだ?」


一瞬全員の動きが止まる。

そして葵が即答した。


「アイスの話」


「嘘つけ」


景斗が呆れたように言う。

だがそれ以上は聞かなかった。

そして誰もさっきの話を口にはしなかった。

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