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異世界から帰ってきただけだが?  作者: Саша


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116/171

116話

翌日の昼。

いつものようにユイが家へ遊びに来ていた。

レイカは仕事らしく来ていない。


リビングでは相棒が紅茶を飲み、シエルは日本語の本を読んでいる。葵はソファで寝転がりながらスマホをいじっていた。


そしてユイがふと気になったように口を開く。


「そういえば前から気になってたんですけど」


「ん?」


俺はコーヒーを飲みながら顔を上げる。

ユイは少し悩むような顔をした。


「異世界の人って、みんなそんなに長生きするんですか?」


部屋が少し静かになる。

葵がスマホから顔を上げた。

相棒も紅茶を置く。

シエルは本を閉じた。

ユイは慌てて手を振る。


「あ、変な意味じゃなくてですね」


「皆さん数百年とか普通に言うので」


「そう思うよな」


俺は苦笑した。

実際、普通の人間ならそう思う。


数百年生きる。

そんなの物語の中だけの話だ。

ユイは恐る恐る聞く。


「やっぱりエルフだからですか?」


シエルを見る。

シエルは首を横に振った。


「違う」


まだ少し片言だが、十分通じる。


「エルフ、長生き」


「でも私たち違う」


ユイが首を傾げる。


「どういうことですか?」


その質問に答えたのは相棒だった。


「本来なら、人間は百年も生きれば長寿じゃ」


「異世界でも変わらぬ」


ユイは驚く。


「じゃあ皆さんは?」


相棒は少し考える。


「例外じゃな」


葵が補足した。


「レベル」


「あと魔力」


「それが原因」


ユイはますます分からない顔になる。

当然だ。


日本で生きていればレベルという概念自体が存在しない。

俺は説明する。


「異世界では強くなるほど身体も変化する」


「寿命も伸びる」


「病気にもかかりにくくなる」


「老化も遅くなる」


ユイは目を丸くした。


「そんなゲームみたいな……」


「ゲームみたいな世界だったからな」


葵が笑う。


「私なんか途中から年齢数えるのやめたし」


「お主は元から適当じゃろ」


「否定できない」


少しだけ笑いが起きる。

だがユイはまだ気になっているようだった。


「じゃあ数百年生きてる人って結構いるんですか?」


その言葉で空気が少し変わった。

今度は誰もすぐには答えなかった。


ユイもそれに気付いたらしい。


「あ……」


何かまずいことを聞いたかもしれないと思ったのだろう。

俺は首を振る。


「いや、気にするな」


そして静かに答える。


「いない」


「え?」


「ほとんどいない」


ユイが固まる。

俺は窓の外を見る。


青空、平和な街並み。

そして、少しだけ昔を思い出した。


「強い奴はいた」


「長く生きる奴もいた」


「でも」


言葉が止まる。

何百年も旅をした。

何百年も戦った。


仲間もいた、友人もいた。

知り合いも大勢いた。

けれど。


「みんな死んだ」


静かな声だった。

誰も喋らない。


「戦争で死んだ奴」


「魔物に殺された奴」


「寿命で死んだ奴」


「病気で死んだ奴」


「色々いた」


相棒も黙っている。

シエルも、葵も皆同じものを見てきた。


「最初は何とも思わなかった」


「でも何十年も経つと顔見知りが減っていく」


「百年経つと知り合いがほとんどいなくなる」


「二百年経つと昔を知る人間が少なくなる」


ユイは黙って聞いていた。

俺は苦笑する。


「気付いたら取り残されてる」


その感覚、説明するのは難しい。

自分だけ時間の流れが違う。

昨日まで一緒に笑っていた相手が老いていく。


子供が生まれる。

孫が生まれる。

そして死んでいく。


それを何度も見る。

何度も、何度も何度も相棒が静かに呟く。


「慣れはせぬな」


「ああ」


俺も頷く。

葵が天井を見る。


「だから仲間が死ぬの嫌なんだよな」


軽い口調でも本音だった。

シエルも小さく頷く。


「嫌い」


短い言葉だが重かった。

ユイは少し俯く。


「……ごめんなさい」


「何で謝る」


「嫌なこと思い出させたかなって」


俺は首を横に振る。


「別にいい」


「もう昔のことだ」


完全に吹っ切れているわけではない。

それでも今は違う。

相棒がいる、シエルがいる、葵がいる。

数百年一緒に生きた仲間達が。

まだ隣にいる。


それだけで十分だった。

その時、シエルが当然のように隣へ寄ってくる。

そして腕を掴む。


「?」


「どうした」


「確認」


「何を」


「いる」


短い言葉。

意味は分かった。


相棒が苦笑する。


「相変わらずじゃな」


葵も笑った。


「まぁ生存確認は大事」


ユイも少しだけ笑う。

重かった空気が少し和らぐ。


俺はそんな仲間達を見ながら思った。

数百年生きるのは、決して良いことばかりじゃない。


失うものも多い。

取り残されることもある。

それでも今こうして笑えるなら少なくとも今は悪くない。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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