114話
夜。
電気を消した部屋は静かだった。
外の音だけが遠くに聞こえる。
さっきまでテレビを見ていたはずなのに、もう全部片付いている。
ソファじゃなくて布団。
いつもの寝室。
戻ってきた日常のはずなのに、やけに密度が濃い。
「……狭いの」
相棒が当然のように横に入ってくる。
すでに距離が近い。
いや、近すぎる。
「おい、普通に布団一つで三人分じゃろ」
「今さら何を言ってるんだ」
「昔からこうだろ」
そう言いながら、普通に肩を預けてくる。
諦めが早い。
その反対側。
もぞもぞ、と小さな影。
「……景斗」
シエルが当然のように潜り込んでくる。
そして、そのまま腕を抱える。
昔からの癖そのままだ。
離れる気が一切ない。
「おい、シエル」
「ん」
「それは寝る距離じゃない」
「落ち着く」
即答、迷いがない。
そして最後。
布団の端が沈む。
「はいはい、場所確保ー」
葵。
遠慮という概念を一瞬で捨てて、当然のように入ってくる。
足を伸ばし、勝手に枕の位置を調整する。
「お前らさ……」
「何だ」
「文句ある?」
「ない」
「ないの」
結局、俺が一番押し出されている形になっている。
真ん中。
左右。
全部埋まっている。
逃げ場がない。
でも嫌ではなかった。
むしろ昔の戦場の夜を思い出す。
焚き火の周り。
誰かが必ず近くにいた。
死なないためじゃなくて生きているのを確認するために。
シエルが小さく呟く。
「……景斗」
「ん」
「今日」
「うん」
「平和」
短い言葉。
それだけで十分だった。
相棒も目を閉じながら言う。
「『悪くないの』」
葵は欠伸をしながら。
「まぁ、悪くないな」
そして静かに目を閉じる。
部屋が暗い。
誰も無理に喋らない。
ただ、呼吸だけがある。
少しだけ間を置いてシエルの力が少し強くなる。
「……離れない」
「離れない」
また即答。
俺は天井を見ながら小さく息を吐く。
「分かった」
それだけ言うと誰もそれ以上は何も言わなかった。
夜は静かで暖かくて少しだけ重かった。
でも悪くなかった。
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