112話
遺跡の広間。
静かな空気。
姫の身体は以前よりもさらに薄くなっていた。
光の粒子が少しずつ零れ落ちている。
レイカも気付いたらしい。
「おい」
「その状態」
「大丈夫なのか」
姫は静かに微笑む。
『大丈夫では無い』
即答だった。
ユイが慌てる。
「えっ」
『元々、我は残滓だ』
『本来ならとっくの昔に死んでいる』
静かな声。
だが誰も軽く受け止められなかった。
姫は広間を見渡す。
古代遺跡、封印の場所。
数百年。
いや、それ以上。
ずっと守り続けてきた場所。
『役目が終わった』
相棒が目を細める。
「『そうか』」
短い言葉。
だがその意味を理解している声だった。
姫は小さく頷く。
『門は閉じた』
『世界は守られた』
『我が残る理由も無い』
静寂。
ユイは何か言おうとして結局言葉が出ない。
レイカも黙ったままだ。
俺は姫を見る。
「……本当に終わりなのか」
姫は少し考える。
そして。
『終わりでもあり』
『始マリでもある』
「どういう意味だ」
姫は石板を見る。
ガルドの字。
月白花。
そして。
『深層側は完全に消えた訳では無い』
空気が少し重くなる。
葵が顔をしかめる。
「だろうな」
『だが今すぐ問題にはならぬ』
『何十年』
『何百年』
『それ以上かもしれない』
つまり少なくとも今の話ではない。
その事実に、全員が少しだけ安心する。
シエルが小さく聞く。
「……姫」
日本語だった。
まだ少し片言だがちゃんと伝わる。
「消える?」
姫は優しく笑った。
『ああ』
シエルが少し俯く。
姫は昔から知り合いだが、付き合いも長くない。
だが戦友だった。
共に戦った仲間。
姫はそんなシエルへ微笑む。
『泣くな』
「泣いてない」
『そうか』
少しだけ笑う。
その時姫の身体がさらに光る。
輪郭が崩れ始める。
限界だった。
ユイが思わず声を上げる。
「待って!」
姫が振り返る。
「ありがとうございました」
ユイは深く頭を下げた。
「私達だけじゃ絶対無理でした」
レイカも静かに頷く。
「ああ」
「助かった」
姫は少し驚いた顔をする。
そして本当に嬉しそうに笑った。
『礼を言われるのは久しぶりだな』
静かな声。
そのまま姫は俺達を見る。
俺、相棒、シエル、葵。
そしてレイカとユイ。
『良い仲間を得たな』
俺は少しだけ笑う。
「そうだな」
『羨ましい』
その言葉、何故か少し寂しそうだった。
そして姫は最後に空を見上げる。
『……さようならだ』
光、金色の粒子。
身体が崩れる。
ゆっくり。
本当にゆっくりと消えていく。
最後まで姫は穏やかに笑っていた。
『幸運を』
その言葉を残して星見姫は消えた。
広間には静寂だけが残る。
誰もすぐには喋らなかった。
ただ封印された場所に吹く風だけが静かに通り過ぎていった。
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