111話
通路の奥を調べたが結局何も見つからなかった。
モンスターもいない。
魔力反応も薄い。
足跡もない。
まるで最初から誰もいなかったようだった。
だが石板は残っている。
月白花も残っている。
あれだけは説明がつかなかった。
その後一行は再び広間へ戻っていた。
星見姫がいた場所、封印された門の跡。
そこで薄い光が現れる。
金色の粒子。
静かに集まり一人の少女の姿を作る。
星見姫だった。
以前よりもさらに薄い。
今にも消えそうだった。
「姫」
俺が呼ぶ。
姫は静かに頷いた。
『来たか』
レイカが前へ出る。
「聞きたいことがある」
『分かっている』
姫の視線が石板へ向く。
そして少し驚いたような顔をした。
『……その花は』
「姫も知ってるのか」
『知っている』
姫はゆっくり頷く。
『向こうの世界の花だ』
予想通りだった。
ユイが聞く。
「じゃあ本当に向こうの物なんですか?」
『ああ」
姫は花を見る。
そして石板を見る。
『……字も本物だな』
空気が止まる。
葵が真顔になる。
「マジかよ」
相棒も眉をひそめる。
「『偽物ではないか』」
『ない』
姫は断言した。
つまりガルド本人が残した可能性が高い。
シエルが小さく呟く。
「『やっぱり生きてる……?』」
姫は少し考える。
そして。
『……半分は正しい』
全員が顔を上げる。
「半分?」
俺が聞く。
姫は静かに答えた。
『あの男は、生者でも死者でも無い』
静寂。
『深層側と一体化している』
空気が重くなる。
レイカが腕を組む。
「それは生きてるのか?」
『定義次第だ』
姫は少し目を伏せる。
『だが』
『意識は残っている』
その言葉、シエルが少しだけ安心した顔をした。
相棒も小さく息を吐く。
葵は複雑そうだった。
「それ助かったって言うのか……?」
『分からぬ』
姫も断言しない。
『だが』
『最後に選んだのは、あの男自身だ』
俺は黙って聞いていた。
ガルドらしい。
本当に最後まで。
その時姫が俺を見る。
金色の瞳。
『景斗』
「なんだ」
『あの男は、待っている』
空気が止まる。
『再会を』
静かな声。
『だから、悲しむ必要は無い』
その言葉少しだけ昔を思い出した。
焚き火、酒、仲間、馬鹿みたいな話。
終わらない旅。
そしてガルドが残した言葉。
『次に会う時は、酒でも持ってこい』
確かにあいつなら言いそうだった。
レイカがため息を吐く。
「……つまり」
「また面倒事が残ってると」
「そうなるな」
俺が答える。
葵が苦笑する。
「平和にならねぇなぁ」
「『今さらじゃ』」
相棒が笑う。
シエルも小さく笑った。
そして姫は静かに全員を見る。
『宵星』
昔の呼び名。
『……会えて良かった』
その声はどこか別れのようだった。
全員が気付く。
姫の身体が、さらに透けていることに。
彼女に残された時間ももう長くないのかもしれなかった。
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