109話
管理局からの連絡を受けて数時間後。
例のダンジョン前。
規制線が張られている。
管理局職員、探索者、警備。
かなりの人数が集まっていた。
だが前回のような騒ぎにはなっていない。
むしろ妙だった、静かすぎる。
レイカが腕を組む。
「反応が出たって聞いたが」
「何も起きてないように見えるな」
管理局職員が苦い顔をする。
「それが問題なんです」
「問題?」
「魔力反応はある」
「でも増えてない」
「広がってもいない」
妙な状況だった。
ユイが首を傾げる。
「封印は成功したんですよね?」
「したはずじゃ」
相棒も警戒している。
俺はダンジョン入口を見る。
嫌な予感がする。
あの手の予感は当たる。
大体、葵も同じことを考えたらしい。
「景斗」
「ああ」
「嫌な感じか」
「かなり」
シエルも頷く。
「『昨日と違う』」
低い声。
「『敵意が無い』」
その言葉で全員が見る。
確かにそうだった。
前回感じた圧力、侵食。
そういうものが無い。
ただ何かがある。
それだけレイカが決断する。
「行くぞ」
誰も反対しない。
ダンジョン内部。
一層、二層、三層。
異常なし。
モンスターもいない。
静かだった。
あまりにも静か。
ユイが小声で言う。
「逆に怖いです」
「分かる」
葵も真顔だ。
そのまま進む。
そして前回の遺跡エリアへ到着する。
巨大な広間。
星見姫がいた場所。
門があった場所。
そこへ辿り着いた瞬間。
全員が足を止めた。
「……おい」
レイカが呟く。
そこには一輪の花があった。
白い花。
この世界では見たことがない種類。
だが異世界組の四人は知っていた。
空気が止まる。
葵が先に口を開く。
「……嘘だろ」
相棒も驚いている。
「『何故これが』」
シエルが目を見開く。
「『月白花』」
ユイとレイカは分からない。
「何なんだそれ」
俺は花を見る。
忘れるはずがない。
異世界にしか存在しない花。
そしてガルドの故郷でしか咲かない花だった。
静寂。
誰も喋らない。
その時、花の下に何かあることに気付く。
小さな石板。
文字が刻まれていた。
異世界文字。
俺はゆっくり読む。
そして固まった。
「景斗?」
ユイが不安そうに聞く。
返事ができない。
代わりに相棒が石板を見る。
そして珍しく言葉を失った。
葵もシエルも。
全員同じ反応だった。
レイカが苛立つ。
「だから何て書いてある」
少し間、俺は石板から目を離さないまま答える。
「……ありえない」
「だから何だ」
そして俺はゆっくり読み上げた。
『次に会う時は、酒でも持ってこい』
ガルドの字だった。
間違えるはずがない。
数百年見続けた筆跡だった。
その瞬間、広間の空気が完全に止まった。
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