106話
――次の瞬間。
視界が白く染まる。
浮遊感。
そして強烈な衝撃。
「っ……!」
床へ転がる。
石、冷たい感触、遺跡の広間。
戻ってきた。
「帰ってきたか!」
相棒の声。
顔を上げた瞬間、強く腕を掴まれる。
そのまま引き寄せられた。
「……無事か」
「ああ……」
答えた瞬間。
シエルが勢いよく抱きついてくる。
「『良かった…!』」
珍しくかなり強い力だった。
本気で心配していたのが分かる。
葵も大きく息を吐く。
「マジで帰ってきた……」
レイカとユイも駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か!?」
「怪我は!?」
「平気だ」
そう答える。
だが広間の空気は重かった。
門、黒い亀裂。
それは今、ゆっくり閉じていっている。
姫の魔法陣、楔。
全部が光っていた。
封印は成功している。
だが代わりに向こう側から感じていた気配が、一つ消えていた。
「『向こうにガルドが居た』」
相棒が静かに聞く。
「『……ガルドは』」
少し間、俺は目を伏せる。
「……残った」
静寂。
シエルが服を掴む力を少し強める。
葵も笑みを消していた。
「そっか……」
軽い声でも、かなり無理している。
レイカとユイは、詳しくは知らない。
それでも何かを察した。
その時、姫が静かに門を見る。
「『……終わった』」
黒い門が閉じる。
最後の隙間。
その向こう。
一瞬だけ黒い鎧の男が見えた気がした。
そして完全に閉じる。
轟音、静寂。
空気が軽くなる。
あれほど重かった魔力が消えていた。
ユイが呆然と呟く。
「……閉じた」
「ああ」
レイカが小さく息を吐く。
「本当にやったのか」
葵がその場へ座り込む。
「疲れた……」
「『同感じゃ』」
相棒も珍しく少し消耗していた。
シエルはまだ俺の袖を掴んで離さない。
そして姫が静かにこちらを見る。
輪郭がさらに薄くなっていた。
「『……感謝する』」
静かな声。
「『宵星』」
相棒が苦笑する。
「『久々に世界を救ったの』」
「二度とやりたくねぇ……」
葵が即答する。
少しだけ空気が緩む。
だが俺は門があった場所を見る。
もう何もない。
静かな遺跡だけ。
そして頭の中に、最後の言葉が残っていた。
「『失うなよ』」
静かな声。
昔から変わらない仲間の声。
俺は小さく目を閉じた。
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