101話
轟音。
黒い門が脈打つ。
限界が近い。
巨大な腕がさらに這い出る。
空間そのものが歪んでいた。
姫の魔法陣も揺らいでいる。
『……もう持たない』
静かな声だが、その意味は重い。
レイカが槍を構え直す。
「もう時間がない」
静寂。
シエルは俯いたまま、俺の服を掴んでいる。
離さない、相棒も黙っていた。
葵は舌打ちを繰り返している。
全員分かっている。
行くしかない。
俺は小さく息を吐く。
「ちゃんと帰る」
「『信用できない』」
即答だった、珍しい。
かなり本気で不安がっている。
葵が苦笑する。
「まあ実績ないしな」
「帰ってきてはいるだろ」
「数百年後にな」
「それは否定できん」
相棒が小さく笑う。
だがすぐ真顔に戻る。
「『お主』」
「ああ」
「『死ぬな』」
短い言葉。
重い。
「努力する」
「『努力では困る』」
珍しく少し怒っていた。
その横で姫が静かに手を上げる。
金色の魔法陣。
『門が開く』
『一瞬だけだ』
空気が張り詰める。
葵が楔を持ち上げる。
「準備!」
レイカが前へ。シエルが弓を構える。
ユイは後方で震えながらも、周囲を警戒していた。
そして門が、開く。
黒い空間、深層側。
懐かしい空気。
冷たい魔力。
その瞬間、無数の赤い瞳がこちらを向く。
『■■■■■――!!』
咆哮。
巨大な圧力。
「今だ!!」
俺は走る。
門へ。
黒い空間へ飛び込む。
瞬間、世界が変わった。
暗闇。
いや黒い空。
崩れた大地。
赤い月。
そして果てしない魔力。
「……っ」
懐かしい。
ダンジョン深層側。
異世界でも最悪の領域。
だが今は感傷に浸る暇はない。
前方、巨大な黒い結晶。
あれが核。
そこへ向かおうとした瞬間。
――ザッ。
気配、止まる。
暗闇から現れたのは、人影だった。
黒い鎧、長い剣。
そして赤い瞳。
だが
その姿に、俺は目を見開く。
「……お前」
見覚えがあった。
ありえない。
だが忘れるはずがない。
その男は、静かにこちらを見る。
そして。
「『……久しぶりだな』」
静かな異世界の言葉。
『勇者』
空気が止まった。
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