60話 移動
「そう?私が全部殺してあげるけど」
翌朝。
俺は目を擦り欠伸をしながら起きる。
「あ、おはよう」
メルティが昨日のイノシシ(?)の残りを焼いていた。
「ずっと起きてたのか?」
「まぁね」
「見張りありがとな。助かった」
「いいの、私が勝手にしてるだけだし」
こういう部分では普通なんだが。一応代行者だ。油断は死を意味する。
「にしても、リリアはまだ起きないのか」
リリアは目を覚ます気配さえ見せない。
流石にそろそろ心配が勝ってくる。
「メルティ、代行者の襲撃もあるだろうし早めに港町に行きたい」
「いいよ。私もそう思ってたところ。流石に二人同時に来られたら勝てない」
「メルティが勝てないなら俺たちも勝てない。早めにいかないとな」
朝食を済ませリリアを担ぎ荒野を歩き出す。
しかし景色はかなりファンタジーだ。
こういう何気ない景色が心を和ませてくれる。
死と隣り合わせの異世界生活だが、こういう景色も見れると案外悪くないのかもしれない。
しばらく歩くこと1時間・・・。
「ん?何だあれ」
だいぶ先だがクソデカい木?のようなものが見えてくる。
「あれは巨大樹だね。たしか1万年前の木だよ」
「1万年!?マジか・・・」
1万年もあればあそこまでデカくなるのかも。
「巨大樹周辺の森にはエルフが住んでるんだよ。ドワーフもだったかな」
「へぇ、見てみたいな」
「でもあいつら縄張り意識強いから普通に攻撃されるけど?」
「だよな。そういうものだよな」
「港町まであとどれくらいなんだろうな」
「わからないけど、巨大樹は越えないといけないと思うよ」
「そっか、魔物とか魔獣に気を付けないとね」
「昔巨大樹折ろうとした憤怒の代行者がエルフの最強の戦士の、え~っと名前何だっけ?確かエルカンだった気がする。まぁエルカンに憤怒君やられたんだよ」
「代行者最強が負けたのか?」
「代行者だって負けるよ?だって冒険者の中にもS級で代行者に勝てる人だっているし」
「代行者も強いが世界最強じゃないしな」
「そうそう。世界最強は八天皇だし」
「だよな~」
港町までの旅路は長そうだ。死ぬかもしれない。
メルティがいるからと油断はできない。
背中にいるリリアに目をやる。
リリア・・・、早く起きてくれ。
前を向いたその時、メルティの姿がない。
リリアをそっと地面に降ろし剣を抜く。
地面の小石が浮き砂埃が舞う。
「そこだ!」
右側からの攻撃を剣で受け止める。
そいつは以前王都で代行者とか名乗ったあの女だった。
「また会ったね」
ニヤァと笑みを広げ回し蹴りがくる。
左手で受け弾き剣で斬りかかる。
相手はそれを躱し後ろに飛びなにか魔術を唱える。
【アンチマジック】
体に何か負荷のようなものがかかった気がする。
だが何も感じない。
再び剣を構え斬りかかる。1合2合と斬り合い相手との間合いを把握しながら戦う。
拳の風魔法を纏わせるイメージをする、が魔術が発動しない。
「!?」
その隙に相手の強烈な蹴りが鳩尾に入り俺は後方に吹き飛ばされる。
咄嗟に受け身をとり剣を地面に刺し飛ぶ距離を抑える。
「かはっ!」
血が口からでるが気にせず立ち上がる。
魔術が使えないのか。さっきの魔術の効果だな。
魔術が使えないなら純粋な剣術でしか戦えない。
「安心して?私も魔術は使えないから」
「プラマイゼロじゃねぇか」
「そうかもね、だけど剣術なら負けないよ!」
今度は相手からの斬りかかり。剣でいなしながら後方に滑るように移動し背中めがけて剣を振り下ろす。
剣で受けられるが流石にすべては受けきれず少しバランスを崩す。
その隙を逃すまいと俺は相手の足を掴み地面に力いっぱい擦り付けながら投げ飛ばす。
相手の女は空中でバランスを直し綺麗に着地する。
「いててて、女の子相手に容赦ないね」
「前も言ったが殺しにくるなら容赦はしない」
両者剣を相手に振りかざしては受け、いなしながら斬り合う。
前よりも強くなってる。当たり前か、レベル機能があるからな。
一瞬できた隙に相手の足を踏み抜き剣で首を狙って斬る。
だが剣で受けられ逆に蹴りを入れられ体制を崩す。
「ぐっ!」
その隙を見逃してもらえるはずもなく剣が右肩に突き刺さる。
「お前こそ容赦ないじゃないか」
痛みに顔を歪めながらも無駄口をたたく。
「そりゃあ依頼だし?ちゃんとやるよ」
「王は死んだと思うが?」
「今回の依頼主は王様じゃないよ」
「誰だ」
「まぁ、今日ここで死ぬんだし教えてもいいかな。レイグルってひと」
「レイグル・・・だと?」
「え?知り合い?」
知り合いとかじゃない。因縁の相手だ。
俺が、いま最も殺したい相手でもある。
「あぁ、少しひと悶着あってな」
「ふ~ん、何があったかはしらないけど仕事はこなすから」
その時・・・。
ドゴォン!!
目の前に隕石が落ちたのかと錯覚するほどの爆発が起きる。
「なんだ!?」
「困るんだよねぇ、ハル君を殺そうとされるのは」
土煙が無くなりメルティの姿が現れる。
「メルティ!?どこに行ってたんだ?」
「ごめんねハル君。ちょっと遠くに飛ばされちゃったみたい」
「うそ・・・」
相手の顔がみるみる青ざめていく。
「で、ハル君を殺そうとしたんだから楽に死ねると思わないでね?」
笑顔で相手に言い放つ(ただし目は笑ってない)。
「見逃しては、くれないか」
相手の女は汗を流しながらも戦闘の意思をなくさない。
「すきあ____」
女の首が飛ぶ。それだけじゃない。
飛んだ頭がまた真っ二つにされさらに切り刻まれていく。
首から下も全て同様に切り刻まれ血の霧と化し地面には何も落ちなかった。
「・・・」
その現実離れした光景に俺は理解するまでに時間がかかった。
「これでおーしまい!大丈夫だった?」
笑顔で近づいてきて手を握られる。
「あ、あぁ。助かったよ・・・」
怖い、本能でそう感じる。これ以上関わりたくない。今すぐに後ろに振り向き走りたい。
だが、それは出来ない。ここでこの恐怖を乗り越えて俺は次の段階に上り詰める。
この恐怖を俺はしばらく味わうことになった。




