炎を燃やす火
ガキィン、と重たい金属同士がぶつかり合う音が響く。
アイゼスとアロケンの戦いは未だ膠着状態が続いていた。
アロケンはアイゼスを試すようにいたぶり、アイゼスは勝負の決め手に欠けているからだ。
しかしアイゼスも尋常ではない実力と体力を持ち合わせている。それに力を解放したフランベルジュを装備しているのだからまさに鬼に金棒状態。
しかしこれよりも、となると兄から託されたアレを使うしかない。もしくは死ぬ覚悟で…
(しかし…アレを使うには魔力が足りない…)
そう。度重なる魔法の行使でアイゼスの魔力は消耗していた。フランベルジュや普通の魔法を使うならばともかくアレを呼び出すとすればまったくもって魔力が足りない。
そう考え事をしながら新たに首元に迫ってきた凶刃を弾こうとした。
「クッ!」
しかしいなしきれずにつばぜり合いの格好となる。
目の前がおぞましい獅子の顔でいっぱいになった。生臭く、妙に熱い吐息が顔を舐める。
「ドウシタ?ソノ程度デ終イカ?」
「抜かせ!」
さらにフランベルジュに魔力を込め、小さな爆発を方向を調整しながら起こした。
そしてその勢いをつかい、一気に押し返す。
次いで鋭い突きで相手の眼を狙った。いくら悪魔といえども眼は守りようがないはずだからだ。
ついに手ごたえがあった。フランベルジュが相手へと届いたのだ…!
そう喜んだのもつかの間。
「ヌンッ!」
まるで自爆するかのようにして凄まじい爆炎がアロケンをつつんだ。アイゼスも爆風に煽られ、炎の壁まであと一歩という所まで吹き飛ばされる。
「うおおおおお!」
ズガガガガ、とフランベルジュを地面に突き立てた。何とか丸焦げになるのは免れたようだ。
が…
「はは…あれに、勝てと…?」
アイゼスが見たのは屹立する炎の巨人だった。いや、先ほどとは大きさ自体は変わっていない。
ただ、存在感が恐ろしいまでに巨大化しているのだ。
メラメラと立ち上る炎はその怒りを端的に表しているようであり、アイゼスの心はただただ絶望に覆いつくされた。
ああ、一撃で勝負を決めなければならなかったのだ…
「遊ビハ終ワリダ…イイ腕ダッタゾ、貴君ヨ。アノ世デ精々精進スルガヨイ。挑戦ハイツデモウケテタトウ…」
本人と同じように煌々と燃える炎を纏った巨大な剣が振り上げられた。
(…すまないな、カナタ…)
そしてそれがまさに振り下ろされようとしたその時。
空が夜に覆いつくされた…!
同時にアイゼスとアロケンをぐるりと取り囲んでいた炎の壁も蝋燭の火が消されたようにフッと消滅した。
「何ッ!バカナッ…!」
自分の理解を超えたことが起こり動揺するアロケン。もちろんアイゼスは意識から外されていた。
夜空に現れた満月を見て、アイゼスは直感的に悟った。
(そうかカナタか!でかした!そして今なら使える…!)
「その傍らを見よ。すべてが有限に支配され、我らが囚われているということを汝理解せよ。そして甘んじてそれを受け入れ、邪悪なる根源に祈りを捧げよ。得られる力は邪智暴虐にして絶対。時を燃やす炎なり。顕現せよ、【炎物の造物主】」
アロケンは愚かにもその兆候に気づかなかった。
いや、愚かと呼ぶには小さすぎる変化だったかもしれない。
その異形の魔法はアイゼスの指先に小さな小さな火を灯らせたにすぎなかったからだ。
第一位階の魔法にも劣るような魔法。そう思っても仕方がない。
しかし目を凝らせばその異質さに気づけたはずなのだ。あまりに禍々しく、あたりの空間を歪めるほどの魔力を放ち、欲望をまき散らしているかのように激しく揺らめいているその火の異常さに。
そしてそれはアロケンへと放たれた。ゆらゆらと、ゆっくりアロケンの方へ向かっていく姿はまるで鬼火のようだった。
何の皮肉か、すべてが終わった後にアロケンはこちらに向き直った。
「ムゥ…仕方アルマイ。貴様ヲ始末シテカラコレノ原因ヲ突キ止メヨウ」
いまだ余裕綽々に、そんなことを口走るアロケンがアイゼスはたまらなくおかしかった。
「ハハハハハ!アロケン!もう勝負はついているぞ?」
「ナニ…?」
アイゼスがアロケンの身体に触れる直前の鬼火を指さした。
アロケンがそれを目でとらえるのと同時に…燃えた。
「グアアアアアアアアア!ナンダ!何ヲシタキサマァァァァァァァアアアアア!」
それまで纏ってた炎とは明らかに違う、禍々しい炎に包みこまれてアロケンは膝をついた。
迷わずに体の中に開いてきた炎はまず喉を焼いた。次に内臓を炭にし、メインディッシュとばかりにアロケンの脳へと襲いかかる。
「アアアアアアア!ナゼダ!ナゼ炎ガ!コンナニモ!アツイィィィィィ!?アアアアアアア…アァ…」
ついに前のめりに倒れ、のたうち回りだす。
アロケンという悪魔は所詮肉体を捨てきれていない脆弱さを持っていたということだ。つまり肉体という武器が仇になったと。そういうことだ。
まぁアロケンの本体が身に纏っていた炎の方であろうが関係ない。今ヤツが纏っているのはヤツの『時間』を燃やす炎。
過去を、今を、未来を、そしてそれによって形どられる『存在』そのものを…
そういう魔法だった。もちろん階級は超位階である。
魔力は【夜】が貸してくれた。アイゼスとて吸血鬼の端くれ。夜、しかも満月ともなれば多少なりともその恩恵にあずかれる。
そしてついにアロケンの身体はボロボロと灰となって崩れ始めた。いまだ炎に包まれているのに、だ。
「フッ…勝利のルーンを使わずに済んだか…何にしろ助かった…」
そうつぶやきながら腰を下ろす。アイゼスの身体もボロボロで、限界が近いのだ。
ついにまとわりつくものがなくなり、【炎物の造物主】、いや、そのほんの一部が消えた。
後に残ったのはこれ以上ないぐらいに紅く染まったアロケンの片目の眼球、つまり魔石だけだ。
「カナタ…」
アイゼスは勝利の余韻に浸ることより、カナタに一足でも早く会うことを望んだ。
フランベルジュを杖のようにして這う這うの体で立ち上がる。
「待っていろよ…」
そしてアイゼスは重たい体を引きずりながら戦場を奥へ、奥へと進んでいった。
隔日更新ができていなくて申し訳ないです。今後は三日に一回程度を見込んでいてください。
さて、約束のステータスをば。
【名前】辻占 彼方
【年齢】十七歳
【種族】魔族
【状態】健康
【称号】《ハードラック》《堕ち人》《奴隷》《神々に愛された者》《怠惰の大罪》《魔術書架:闇》《夜の友》
【スキル】《ハイセンス》《ハイフィジカル》《悪魔の炯眼》《血の狂乱》《原書解放》《夜》《至上の眠り》《武器支配》
【名前】アイゼス・シーリア
【年齢】二十歳
【種族】魔族 普人族 (ハーフ)
【状態】健康
【称号】《剣に愛されし者》《デミウルゴスの寵愛》《主人》
【スキル】《デミウルゴス》《第六感》《武器開放》
※《武器開放》は魔力などの『供物』を捧げて武器の力を引き出すためのもの。《インテリジェンスウェポン》の中には自分が武器だと認めない輩もいるらしく、詠唱はしなくなったんだとか…
【名前】イヴ・ウォーカー
【年齢】二十一歳
【種族】獣人族 普人族 (ハーフ)
【状態】健康
【称号】《バトルマニア》《七賢に最も近き者》《精霊に成りし者》《風王の巫女》《神槍の女帝》《狼男》《主人》
【スキル】《ルー・ガルー》《光速槍術》《風王の鎧》《王の耳》《戦闘本能》
※《王の耳》は風の精霊の力を借りて立体的に、常に相手の位置を把握するというもの。
※《戦闘本能》はある程度昂ぶって来ると痛みを感じなくなるというもの。アイゼス曰く『不感症の呪い』
…ってな感じです。
一章も残すところわずかとなりました。
評価、お気に入りありがとうございます!




