炎の如く
アイゼスは敵を殲滅しつつ、火柱の上がった方向へと向かっていた。
また一つ、立ちふさがってきたトロルの頭を吹き飛ばす。
「…本当にキリがないな…」
ふと、カナタは大丈夫だろうか、という考えが頭をよぎったがあの規格外の強さを思い出してホッとした。
(…戦場だというのにな…)
そう、頭の中で一人ごちる。
口元に笑みを浮かべながらも一閃。
わらわらと集まってきていたゴブリンの首が一斉に飛び、アイゼスの一見鋼鉄製に見える鎧を赤く染めあげた。
数多の死体の上に堂々と立つその姿は《鮮血姫》というよりは《鮮血鬼》だ。
そしてまた駆け出す。
一体、二体、三体…と数えていき、それが五十にも達しようかとしたその時、ようやく目指していた敵が戦場の中ぽっかりと空いた広場に姿を現した。
燃え盛る鬣、醜悪に歪められた鋭い牙をのぞかせる獅子の顔、筋骨隆々のその腕は戦場で嫌でも目立つ。さらには背中に背負われている異様に禍々しい雰囲気を放つグレートソードもそれに拍車をかけている。
それが自分を待ち構えていたかのように泰然自若としていればなおさらだ。
「…ご丁寧なことだな。一対一でもお望みか?悪魔、《アロケン》」
「…ウム、ソウダナ…マッテイタニハマッテイタゾ、小娘ヨ。貴君ノ言ウトオリ、一対一モヨイヤモシレヌナ…」
獅子の頭からは想像もできないような甲高く、耳障りな声があたりに響いた。アロケンの顔は伏せられており、声をかけられてもそれを上げることはなかった。
アイゼスはそれに顔をしかめることもなく続ける。
「ぬかせ。傲慢の心が透けて見えるぞ」
そう言い放つと、アロケンは初めて面を上げ、アイゼスをキッと睨み付けた。
「ソレハコッチノセリフダ、小娘。ナゼ一人デキタ?」
「どうも私は集団戦というのが嫌いでな…なぁ悪魔。気が乗るなら一対一で戦おうじゃないか。お前にかかれば私なぞ、造作もないだろう?」
問いにアイゼスがまるで死に臨んでいるかのような啖呵を臆することなく返すと、アロケンは高らかに笑い出した。
「クハハハハハ!貴君ハナカナカにオモシロイ!。ソレニ貴君ノソノジシン、強者デナケレバカモシダセナイモノダロウ。強者ハイイ…実ニイイモノダ。イイダロウ、誘イニノッテヤロウデハナイカ!―――――――【閉ジラレシ炎環】」
そう魔法を唱えるとたちまちアイゼスとアロケンを囲むようにして円上の炎の壁が現れた。その上端は高く、高く、計り知れない。
熱風がアイゼスの仄暗い紅の毛を巻き上げる。同時に、フランベルジュを握る手にも汗が滲んだ。
努めて緊張を表にしないようにしながら、アイゼスは構えた。
アロケンもそれに倣い、正眼の構えをとった。
張りつめられた空気はゴウゴウと炎が燃え盛る音をも遮り、ひと時の沈黙をもたらす。
「…イザ、尋常ニ!」
アロケンがそう言い放ち、その剛剣をるってきたことによってその沈黙は終わりを告げた。
3mはあろうかというその巨体から放たれる斬撃はまさに必殺の一言。
アイゼスはそれに受け流しで応えた。
剣の腹を、殺意が伝う。
「シッ!」
剣が地面に吸い込まれるや否や体を翻し、一閃。
受け流した方向とは逆側から放たれたそれはアロケンの喉元に迫るが…
「何ッ!」
歯でそれを防がれた。
噛み砕かれてはたまらないと思い切り刃を引く。
しかしそれはアロケンを引き寄せるということも意味していた。
《シックスセンス》のやかましい声に従い、咄嗟にローリングしながら距離をとる。
するとヤツの剛腕がアイゼスの腹があった場所の空気をえぐる音がした。
轟と響いたその音は先ほどの剣戟よりもすさまじい。
体勢を立て直し、自分の劣勢を鑑みた。
(どうする…!このままではいずれ…)
「フンッ!」
打開策を練ろうとするも、それをアロケンが許すはずもない。
再び凶刃が襲い掛かる。
「チィッ!」
それに応酬するアイゼス。
上から、下から、横から襲ってくる斬撃。
恐ろしいことにアロケンはその子供の胴体ほどはあろうかという大きさのグレートソードを軽々と扱ってくる。
それはグレートソード本来の『叩き潰す』という戦い方を逸した動きも容易にできるということを現していた。
趣を変え、今度は無数の突きがアイゼスを襲う。
しかしこの動きはアイゼスにとってうれしい誤算だった。
最小限の動きで受け流し、躱す。それが終わった時、アイゼスの肌には傷の一つも見当たらなかった。
「ホウ、驚イタ。完全ニ避ケ切ルトハ…」
感嘆の息を漏らすアロケン。
その隙にアイゼスは考えを巡らす。
そして、決断した。
「…悪いが、少し本気を出させてもらう。―――――――【フランベルジュ】」
そう唱えると同時にアイゼスが剣に魔力を込めると、たちまち炎を纏った。黒い炎をだ。
それを意に介さず、アロケンはグレートソードをアイゼスに叩きつけた。
そして驚愕する。
今まで受け流し、躱すだけだったアイゼスがそれを正面から受けたのだ!
さらには打ち払い、アロケンは無理やり後退させられた。
「ククク…ハハハハ!面白イデハナイカ!マダマダ楽シメソウダナ…
そして二人の剣舞がまた始まる…
短めです。
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