他愛ない、決戦前夜
「カーミラ殿!ここは…?」
アイゼスはカーミラに連れられ、魔術ギルドの地下…通常保管室と呼ばれるところまで来ていた。
部屋はその名にふさわしく、あらゆるものが鎮座している。
何かの液体に浸かった明らかに人間のものでない目玉、みるからに胡散臭い彫像なんかだ。
その中でも比較的埃が積もってない場所からカーミラは小さい小包を取り出した。そしてそれをアイゼスに渡す。
「ほら。中身は錠前のついた石おそれを開けるためのカギ、それに奴からの手紙のはずだよ 」
「はぁ…」
カーミラはマイペースに話を進めた。アイゼスも気の抜けた返事をしながらそれを受け取る。
しかし、錠前のついた石…?
そういった疑問を感じながら小包を破ると、なるほど、言った通りのものが出てきた。
まずは手紙を読むことにする。
『親愛なる我が妹へ
これを読んでいるということは無事ザナウェルにたどり着いたのだろう。実に結構。
時間がないので手短に書くが、正式にお前の勘当が決まった。もう我が家の敷地内に入ることはできないと思え。私としては少々口惜しいことだが…ほかならぬお前の願いだ。こうして約束を果たせたことをうれしく思う。まぁそれも家族として迎えられないだけだ。我が家はいつでも優秀な傭兵を募っているぞ。
さて、それで一緒に送った最後の餞別の品だが…なかなかに厄介な代物だ。名前は《炎物の造物主》。
これでお前はさらなる高みへ登れるだろうが、それなりの代償は覚悟してくれ。使うも、使わないもお前次第だ。
それでは別れの時だ。息災でな。
グレイ・ツェペシュ・シーリア
追伸 カーミラの婆さんに礼をしておくこと。』
「フフッ…相変わらずだな」
筆不精の兄らしく、たどたどしい文章がそこには記されていた。しかし恩を借りっぱなしだ…いつの日か返したいものだが。
「どうするかい?今、それを解放するかい?」
「…ええ。お願いします」
結局、アイゼスが帰ってきたのは俺達が宿に着いてから三時間ほど後のことだった。
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「ぷはぁ!やっぱうまいな!」
どうもみなさん。苦労人奴隷のツジウラカナタです。
そうはいうものの「酒だ酒!」と言い出したイヴさんのせいなわけでありまして…はい。
というか酒を飲んだらイヴはスキンシップがやたらと増える。今も肩に腕を回されている状況だ。
うらやましいと思ったそこの諸君!たしかに外面だけは羨まけしからん光景だろう。
しかし!その腕がついでにとばかりに首を絞めつけてきていたなら?それも結構な力で。
そういうわけで俺は意識を保つのにすら必死なわけなのだ。
まぁそんな感じで酒場にいたらアイゼスが帰ってきた。
俺たちの様子を見て、若干顔を曇らせる。貴族だったらしいし、あまりにも品がない俺たちの様子に(もしくはイヴの様子に)辟易したに違いない。
しかし席に着くや否やジョッキを俺から、酒をイヴから奪いかなりの勢いで飲み始めた。デジャヴ。
ちなみに俺は今日、一滴たりとも酒を飲んでいない。未成年飲酒ダメ!ゼッタイ!
…というのもあるがガングレフのおっさんから新作の果実水の試し飲みをしているからだ。なんでも俺の話から発想を得たんだと。
だいぶ時間が過ぎて、ようやく明日のことを話し始めた。
「カナタ。そういえばお前【夜】とかいう魔法が使えるって言ってたよな?思ったんだがよ、普通に夜を選んで戦えばいいんじゃねぇか?」
おっとそうきたか…
「答えはノーです。たしかに昼間の自分と夜の自分では戦闘能力に差が出ますが、それは暗視なんかのアドバンテージに依るところが大きいです。でも【夜】は俺の概念世界を外に持ってくるようなもんなんですよ」
「む?しかし範囲型の魔法なのだろ?戦場なんかではもちろん大勢の人間を巻き込むわけだが大丈夫なのか?」
そこにアイゼスが割って入ってきた。
「大丈夫です。夜】の性質は夜と同じですから…他人から干渉を受けることはありません。まぁでも、【夜】に影響を受ける人はいるかもしれませんね…」
「なるほど…」
こんな感じの話をしたり、ほかの冒険者と情報交換うちに夜は更けていき、ついに酒場から追い出された。
「むにゃ…」
そしてまたアイゼスは酔いつぶれ、眠ってしまっている。当然担ぐのは俺だ。酔いつぶれるまで飲まなきゃいいのに…と思うがこれはこれでよく得なので何ら問題はない。
ようやく部屋に帰り着き、ご主人様二人が横たわるのを横目に俺は寝袋へとくるまった。ベ、ベッドなんか全然羨ましくないんだから!
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「諸君、ついにやって来た!決戦の日だ!悪魔どもの軍は隊伍を組み、今まさにこの街を飲み込まんと森から這いずり出ようとしている!我ら自由気ままな冒険者なれど、ここで逃げるなぞ笑止千万!奴らを引き裂き、叩き潰し、射殺し、焼き、凍らせ、我々に逆らうということはどういうことかを見せてやろうではないか!以上!武運を祈る!」
あれから三日後。ついに魔物たちが森からやってくる。
結局こちらに残った戦力は約千。対して魔物たちは三、四千ほどの兵をこしらえているらしい。
戦力の内訳は戦士職中心の前衛が五百、魔法使い、弓士を中心とする後衛部隊が四百、シーフ中心の支援部隊が百だ。
その数の差を補うため、シュアナスの森とザナウェルの間にまたがるカラル平原には様々な対策が仕掛けられている。
とはいってもカーミラ、ルガーが直々に仕掛けた結界魔法にシーフたちが仕掛けた地雷ぐらいのモノだが。
そして戦力の要とされるのが俺、アイゼス、イヴ、カーミラ、ルガー、それに魔術ギルドの魔術師二人で編成される先制打撃部隊だ。
この七人で編成される部隊で最初に敵を半分以下へと減らし、そのあとに冒険者たちが魔物たちをシュアナスの森へ追い返す。上位魔法というのはそれだけ強力なものなのだ。
そして、なまじシンプルな作戦だけにイレギュラーな悪魔どもを早めに倒しておきたい。
特に鳥人間の悪魔、《カイム》とやらを倒せば相手の指揮系統が瓦解する可能性は高いそうだ。
コイツはイヴが相手取ることが決まっている。
後の悪魔はまったくもって情報が見つからなかったため、対策しようがなかった。
臨機応変に打倒せよとのありがたいお達しだ。
「まぁいざとなったらオレが三匹ともぶっ殺してやるって!ハッハッハ!」
とはイヴの弁だが。調子のってまずいことにならななきゃいいが…
「カナタ、緊張はしてないか?」
「ええ、大丈夫ですよ。アイゼスさんは大丈夫ですか?」
「そうだな…このような戦争まがいのことをするのは初めてだからな。緊張してるかもしれない」
真面目だなぁ…
「きっと大丈夫ですよ。うまく収まるはずです」
「…そうだな。そうなるのが一番いい」
ちなみにアイゼスは三日間叩き上げでカーミラに広範囲殲滅魔法を使えるようにさせられたらしい。ほかにもいろいろやっていたらしいが教えてはくれなかった。
そして俺はその間イヴのおもちゃ(訓練相手)になっていたと…
何回宙を舞ったかわからないぜ…
まぁアイゼスもしきりにカーミラについての愚痴を言っていたのであっちはあっちで大変だったんだろう。
その甲斐あってかなり強力なモノが使えるようになったらしいが。
「それでは各自、カラル平原へと展開せよ!」
そして遂に、ルガーからその言葉が発せられた。
緊張感がたちまちあたりにたちこめる。
そして俺たちは人気のなくなった街を出て、カラル平原へと向かった。
若干スランプです…というかテンポが悪くて申し訳ない。しばしご辛抱をば…
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