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異世界で奴隷生活始めました:Retake  作者: 海峡 流
第一章 ザナウェル防衛戦
35/43

開戦、そして誤算

「うわぁ…」

「おお、壮観だな」


 街を出てから三十分。俺たちは冒険者軍の最前列に設置された高台へと上っていた。

 ここからだとずらりと並んだ冒険者たちをぐるりと一望できる。

 ザナウェルは穏やかな丘の上に建てられており、その丘に冒険者たちが陣形を整えて構えている。

 軍隊でもないのにここまで整った陣形ができているのはひとえにルガーとその直属の部下たちによるカリスマの賜物だろう。


 そうやってしばらく感慨に浸っていた俺たちだったが…


「…くるぜ」


 そのイヴの一言でシュアナスの森を見据えた。

 がやがやと聞こえてきていた冒険者たちの話し声も次第に止んでいく。

 

 代わりにし出したのは、ドスン、ドスンという不自然に整った地鳴りだ。

 それはシュアナスの森の方から聞こえてくる。


 そしてそれはついに姿を現した。

 まず現れたのは空を真っ黒に埋め尽くすほどのハーピーの群れだ。

 この魔物は半人半鳥という特徴を持っている。空から繰り出される鋭い爪には細心の注意を払わなければいけない。発見の報告がなかった魔物だが、森の上空を移動していたのだろう。


 次に現れたのはヴァルトヴォルフとよばれる獣にまたがった鎧を着たゴブリンたちだ。

 それに続いて歩兵と思しきゴブリンやひときわ大きいオーク、トロルなどが見受けられた。

 その中には以上に筋肉が隆起したものやまるで魔術師とでも言いたげなフードをかぶっている奴らもいた。

 恐らくアレが上位種なのだろう。


 見て取れる魔物の種類はそれで全部だ。しかし…


「おいおい…多すぎやしないか、これ…」


 湯水のように敵が湧いてくる。


「どういうことじゃ!明らかに五千は超しておるではないか!」


 カーミラが声を荒げた。


 魔物の行進はそのままこちらに迫ってくるように思えたが、何の冗談か、一糸乱れず俺たちから100mほど離れたところで止まった。

 そして魔物たちのの大群がまるでモーゼの軌跡のように二つに割れていく。その間を悠々と三人の人影が歩いてきた。

 正体は敵の大将の悪魔共だ。

 そのうちの魔物を操っている鳥人間、カイムは一歩進んで大声でわめき始めた。


「聞こえてますカァ?無能な無能な人間どもォォォ?イィチ度だけ降伏勧告をしてあげマショウ!ギシャシャシャ!今すぐマチィを受渡しなさァァい!男どもは奴隷ィィ…女どもはゴブリンやオークたちのォ苗床としてェ生かしといてアゲマショウ…ギジャジャジャ!」

「なんだなんだうっせーやつだなぁ…」

「全くですね…」


 イヴの感想に同意する。まぁとりあえず見下されていることは嫌でもわかった。ちなみにイヴの機嫌がフリーフォールさながらに下がっていることもわかった。お願いだからまだ暴れないでくださいよ…


「断る!邪知暴虐なる悪魔ども!お前らが我がザナウェルの土を踏むことはないと心得ろ!」


 啖呵を切ったのはルガーだ。そのまま巨大な三叉の槍を構える。


「まずは貴様だ!―――――――――【トライデント】!」

 

 そう言ってルガーは槍を思いっきりカイムへ向かって分投げた。

 槍は魔法の力によって高速回転し、さらに巨大な水の魔力を持って相手に迫っていく!


「交渉決裂ですカァ…イイでしょうミナゴロォォォシィィィ!ですネェ!ゲェシャシャシャ!―――――――――【炎壁(フラァムカステッロォ)】!」

 

 対してカイムが発動したのはバカでかい炎の壁だ。ルガーの【トライデント】はその中に吸い込まれて勢いをなくし、カイムの真横にただの槍の状態で突き刺さる。


「ルガー!なぁに先走ってんだい!」

「うるさいの!いつものことだろうが!野郎共ォ!行くぞ!」

「オオォォォォォォオオオ!」


 ルガーはカーミラの文句を聞き流し、前衛部隊を前に突っ込ませた。

 なぜなら向こうの大群もこちらに突っ込み始めていたからだ。

 魔物どもが堰を切ったように押し寄せてくる…!

 それを前衛部隊がきっちりと受け止めた。だがそれも歩兵同士だからできる話。ヴァルトヴォルフ達に追撃されればひとたまりもなく前線は崩れてしまうだろう。


「ビビってんじゃねぇぞ!生き残りたかったら死ぬ気でかかれ!」


こうして、後世につたわる《カラルの戦い》の火ぶたが切って落とされたのであった。


*******************************

「ええい!カナタ!今から雲をつくる!その間イヴ、アイゼス、マッシュ、ローランは敵に魔法を打ち込んどれ!」

「わかりました」

「御意」


 俺が返事をするとカーミラは呪文を唱え始めた。

 雲が少しずつ相手の上空へ広がっていく。


「はぁ!?話が違うだろ…チッ!―――――――――【ブリューナク】!」


 早速目立つ俺達を殺そうと数少ないグリフォンたちが《オーク》の上位種、《オーガ》を乗せて突っ込んできた。


 しかし、イヴの魔法によってあっという間に五体が討ち果たされる。

 【ブリューナク】はその槍を投げる際に呪文を唱えると発動される。槍が五条の稲妻となって放たれ、それが相手の脳髄をショートさせるのだ。百発百中のみならず、魔法が発動し終わった後には必ず手元に帰ってくる。なんというバランスブレイカー…


 しかしイヴがそれを使ったときには、効果はそれだけに限らない。


「死に晒せ!――――【落雷フルメン】!」

 

 五条の光はその呪文を聞き届けた途端、幾千もの細い雷光へとかわり、地上へ降り注いだ。もちろん、その一本一本は【ブリューナク】そのものである。


「ギェェェェェェイ!」

 

 そんな甲高い声があちこちから聞こえてきたかと思うと何百ものゴブリンたちが地面に倒れ伏した。


「オオオオオオ!今だ!すすめぇ!」

 

 それを見て奮起した男たちはその死体を足場にして戦線を前に押し上げた。


「カナタ!死ぬなよ!オラ!道開けろォ!あのアホ鳥はオレが仕留めっからよォ!」

「あっ!ちょっ!チッ!あの馬鹿!わしの言うことを無視しやがって…!…まぁよいか…カナタ!もうすぐでできるぞ!」


 雲はもうほとんど敵上空を覆い尽くしていた。あたりがズウンと暗くなる。

 そこで戦局に異変が起きる。


「う、うわぁぁあぁ!下だ下に…!アアァァアアァア!」


 そんな声が響き渡ると戦線の一部が大きく崩れたのだ。


「いけない!結界を発動させます!―――――――――」

 

 そういうとローラン某は長ったらしい呪文を唱えた。


「私が援護する!―――――――【獄炎ヘルファイア】!」

 

 見兼ねたアイゼスは魔法で戦線を食い破ってくる敵を押さえつけた。

 【獄炎ヘルファイア】はその名の通り、炎によって相手を燃やし尽くす魔法だ。第三位階魔法だったはず。俺もベルフェに教えられた。闇か火の魔力で発動できるとか。

 ただアイゼスもそんじょそこらの魔術師とは違う。

 その黒い炎はアイゼスの手元から離れるとまるで蛇のようにのたうちながら相手を嘗め尽くした。

 もちろん地下の敵を焼き殺すことも忘れない。


「【死の虫トートヴルム】か…厄介な相手だな」


死の虫(トートヴルム)】は森林、砂漠、沼地と広くに生息する魔物だ。姿としてはヤツメウナギの太い版を想像してもらいたい。地中から襲いかかってくるそいつに捕まったら最後、五体満足で帰ることはできないと言われ、冒険者の間でも忌み嫌われている。


 涼しげにそいつの名つぶやいているがアイゼスは【獄炎ヘルファイア】を既に五回使い、しかもそれを同時に操っていた。しかもそれを目の届かない地下まで届かせているのだ。

(さすがにご主人様は化け物じみてるよな…)

 どんな特訓をしたらこうなるんだか…


「――――【アイギスの砦アルクス・アイギス】!」

 そうこうしているとようやくローランなにがしが魔法を完成させた。

 敵軍をちょうど上下に分断するような形で不可視の壁が現れる。

 この魔法、たしかに便利なのだが使い勝手が悪い。発動する場所にあらかじめ仕掛けを作ってないといけないし、不可視の壁は敵であろうが味方であろうが武器であろうが魔法であろうが通さない。

 おまけに効果が続くのは一時間程度。実に使いづらい戦略級の魔法だ。

 

 しかしこういう風に敵を分断して段階的に殲滅させる、という使い方をすれば随分と頼りがいのある魔法に変わる。

 

 誤算は、悪魔どもがどんな魔法を使ってくるのかが分からなかったことか。


「おい!あれはなんだ!」


 冒険者のうちの一人が空を指してそう叫んだ。

 最初はその指先が何を指しているのか、判然としなかった。

 が、しかし、黒い影のようなものが蠢きながらこちらへやってくる様子が見え始める。


「クソッ!新手の攻撃か?」


 そう毒づくアイゼスだったが、案の上その影は【アイギスの砦アルクス・アイギス】に押しとどめられたように見えた。

 異変が起こったのはその時だ。

 その影は、まるで壁を食い尽くしていくかのように円状に広がり始めたのだ!

 もちろん透明なのでわからない人にはわからない変化だろう。しかし、【悪魔の炯眼】を先ほどから発動していた俺にとってはわかりやすすぎるほどに致命的な変化だった。奴らは間違いなく魔法を食っている。

 

「カナタ!何をしておる!早く向こう側に【デスレイン】をうってこの魔法を牽制するんじゃ!早く!」


 どうやらカーミラにもその様子はわかったらしい。

 もはや、予断を許さない状況だった。


 大きく、息を吸い込む。そして目を閉じた。

 イメージするのは雨。それもただの雨ではなく、相手を切り裂き、死に至らしめ、蹂躙し、破壊する凶悪で、鋭利な刃の雨だ。

 標的は【アイギスのアルクス・アイギス】の向こう側にいる敵たち。


 満を持して、俺は唱えた。


「【 死の雨デスレイン】」

ついに第一章も終盤に差し掛かって来ました!果たしてエリスの思惑通りに事が動くのか…


評価、お気に入りありがとうございます!

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