凶兆
「なんだやけに騒がしいな」
翌日、二人には二日酔いの気配もなく、(むしろ《至上の眠り》をかけ忘れていたのでこっちの方がきつい…)普通にギルドの前までやってきていた。
しかしギルドの扉は固く閉ざされているようだ。
それにもかかわらず、ギルド前の広場には大勢の人が集まっている。
「おい、そこの。なんの騒ぎだ?」
イヴが手ごろな冒険者を捕まえて聞いた。
「ん?何だお前らも来るように伝えられた口じゃねぇのか。ギルド長に」
「ルガーが冒険者を招集…?」
イヴに引き留められた男はそのまま喧騒に紛れてしまった。
しかし招集か…嫌な予感しかしない。
そこから三十分ほど立つとギルドの門が開け放たれた。
中からギルド長ルガーと小柄の老婆、それに三人の冒険者たちが出てくる。
そしてその後ろに並んだ受付嬢たちが付き従っていた。
その登場に広場のざわめきが収まると、ルガーは不思議とよく通る声で話し始める。
「諸君!まずは招集に応えてくれたことに感謝する!集めた理由はただ一つ!」
ルガーはそこで間を置いた。
誰かの喉がごくりとなる音が聞こえる。
そうしてルガーの口から発せられたのは…
「悪魔どもが魔物を率いてシュアナスの森を抜けてきている!推定目的地は…」
ルガーは冒険者たちを見回し、言った。
「ここ、ザナウェルだ」
場がにわかに騒然となる中で俺は大してそれに驚かなかった。
エリス様が言った通りになったからだ。
「詳しい状況報告は偵察に言った俺たちが行う。まず…」
と三人の冒険者のうちの一人が説明をし始めた。
ちなみに、普通パーティーは五人程度で編成される。だが三人だ。
これが変則的編成なのかあるいは…
「率いてるのは三人の悪魔。獅子の頭を持つヤツ、鳥人間みたいなヤツ、そして王冠をかぶった、黒髪で有翼のチビがそれだ。魔術ギルド員は急いで特定を頼む」
三人か…大したこともないように思えるんだが…
「悪魔は確かに問題だが、さらに困ったことにヤツらは推定三千以上の魔物の大軍隊をこしらえてる。いいか!軍隊だぞ!亜人型は全員鎧を付けていたし、獣型でも若干数武装してるやつがいた。しかもなんでか知らねぇが完全な統率がとれているときてる!それがもう目と鼻の先だ。一週間もしねぇうちにやつらは森を抜けてくるだろう」
「なに…?」
声を発したのはアイゼスだ。
「…アイゼスさん、これってどのぐらい異常なんです?」
というのも、俺にはあまり異常事態には思えなかったからだ。女王蜂じゃないが、個体の中から集団を統率するものが産まれ、それが集団を率いて街を襲撃する、なんてシナリオはありそうに見える。キングゴブリンとかね。今回率いてるのは悪魔という話だったか。
「まぁ魔物たちの襲撃、というなら頻度で言って十年に一度あるかないかだな。だが、それを率いてるのが悪魔なら話は別だ。そもそも、天使たちの目をかいくぐって悪魔たちが地上に現れるということ自体稀なんだ。ましてやそれが魔物たちを統率するなんか聞いたこともない…」
イヴもうんうんと頷いていたので実際その通りなのだろう。
つか天使か…エリス様も気を付けろ的なことを言ってたな。
「軍隊の内訳だが…いかんせん森の中だ。確認できねぇ奴もいただろうがとりあえず挙げていくぞ。亜人型は《トロル》《オーク》《オーガ》《ゴブリン》らへんが黒い武器と防具で武装してやがった。獣型は《ヴァルトヴォルフ》《グリフォン》なんかが確認できた。それ以外は確認できてねぇが…上位種も相当数いるだろう。以上だ」
そこまで言うと冒険者は下がっていった。
続いて、ルガーと並んで立っていた老婆が前に出る。
「静かにせい小童共!わしは魔術ギルドで長をやっとるカーミラ・ヘイルマンじゃ。後ほどルガーも話すと思うが我々ザナウェルのトップは彼奴らを殲滅する方針じゃ!そのため、わしは先制打撃部隊を少数で編成しようと思う。範囲殲滅魔法等が扱えるヤツは後でワシのところにこい。以上じゃ」
見た目が魔女ならしゃべり方も魔女だな。というかどっかで見た気が…
気のせいだろうが。
「諸君、今カーミラからも聞いたろうが我々は悪魔どもに対して打って出る予定だ。だが街の衛兵団ときたら早速籠城の構えを始める始末だ。ということで、ここに二つ、緊急クエストを発表する。一つはシュアナスとザナウェルの間にまたがるカラル草原にて悪魔どもを殲滅するもの。これはDランク以上が受けられるものとする。もう一つの緊急クエストは全ランク対象で、隣の城塞都市、《イーライ》まで住人を護送するクエストだ。報奨金は弾むゆえ、武勇を競って参加してほしい!以上だ。これよりギルドを開き、クエスト参加者を募る。殲滅の方に参加する奴は前衛、後衛、支援のいずれかを申告してくれ」
そこまで一口に言ってしまうとルガーたちは全員ギルド内へと入っていった。
それにいずれも自信ありげな冒険者たちが続く。
俺たちはどうするのかとアイゼスに聞こうとした瞬間…
「オレは先生打撃部隊参加するぜ。自動的にお前らもだな」
「「は…?」」
イヴに首根っこをつかまれた。アイゼスも同じ状態になっている。
そのまま抵抗空しく、俺たち二人は碧いあくまにギルドへと引きずり込まれていってしまった。
またこのパターンか!
ギルドの中はもちろんてんやわんやの大騒ぎだ。ただでさえむさっ苦しい筋肉の塊だ。それが隙間もないほどにひしめけば言わずもがな、である。ホントうっとしいなオイ…
列の消化はいつもより早いようで、あっという間に俺たちの番が来た。
受付嬢はもちろんアリアさんだ。
「いきなりで災難だな、アリア」
そうアイゼスが声をかけるとアリアさんはもじもじし始めた。
「ま、まぁそうですね…ですけど私に出来ることはこれぐらいしかないですから…」
「そうか…」
やけに神妙な空気が流れる。
「アリア、《イザナミ》ごと殲滅組の前衛に突っ込んどいてくれ。まぁ、がんばれよ」
それを早速イヴがぶち壊し、一人でさっさとギルドを出て行ってしまった。ホントあの人は…
「頑張ってくださいねアリアさん」
「ふぇ!?あ、ありがとうございます…」
俺もアリアさんを激励したらやたら可愛い声が返ってきた。
あぶねぇ…惚れてしまう所だったぜ…
「カナタ、ボーっとしてないであのバカを追いかけるぞ。まったく…。またな、アリア」
「はい!お気をつけて」
そして俺たちも大量の人ごみにもまれながら外へ出た。
ちょっと投稿するのが遅れました…
ちなみにイヴがパーティ名を《イザナミ》と呼んでいますがこれは略称みたいなもんと考えてください。




