欲望の使徒
ただいま、部屋でイヴに事情聴取を受けている。ちょうどアイゼスにステータスを伝えたのと同じ状況だ。
「…ってな感じです。大体わかりましたか?」
せっかく昼間に帰ってこれたのに《武器支配》の説明をし終わった時には日が傾いていた。
話があちこちに飛び火しまくったからな…
なんで《至上の眠り》の説明が途中から好みの女の話に変わるんだか…
あ、でもアイゼスがこの話だけ興味ありげだったな。あれだろうか。《至上の眠り》の詳しい説明が聞きたかったんだろうか。それとも…まぁアイゼスに限ってそんなことはないか…
「よしよし。こりゃあ掘り出しもんだな、アイゼス。よく見つけれたもんだ。んー…腹が減ったな。ちょっと早いけど食ってしまうか」
イヴは俺の頭を撫でると腹が減ったと言いながらさっさと出て行ってしまった。女性にしちゃ170cmぐらいと身長が高いし、人の頭を撫でるのが癖になってるんだろうな…
まぁ、とりあえずは飯だ。
食堂は空いたばっかりで人もまばらだった。今日はゆっくり食べれそうだ。
「ガングレフ!樽だ樽!」
またイヴが酒を樽ごともらっている。どうやら相当な酒好きのようだ。大体予想してたが。
「ようカナタ。今日は早いな!しかも両手に花ってか!ガッハッハ!」
今日もこのおっさんは元気だ。思わず顔面にグーパンチをめり込ませたくなるぐらいには元気に見える。
「ちょっとあんた!そっちの鍋の火止めてよ!」
そう女の声が厨房の奥から聞こえてきた。この声の主がガングレフの奥さんのジュリアだ。随分豊満な体型をしているが、中身は凄腕のAランク冒険者だとのこと。
「ああわりぃわりぃ。すぐ止める!」
ガングレフにも奥さんにだけはたじたじだ。完全にしりに敷かれている様子は見ていて大変に気分がいい。
「いつものをテーブルに持ってきてくれ」
「俺のオススメだな?任せとけ!」
そう注文してイヴとアイゼスが飲んでいるテーブルへと向かった。
ドンッ!ジョッキが俺の目の前に突然置かれる。
「…飲め、ですか?」
口の中が酒でいっぱいらしいイヴは頬を膨らませながら大きくうなずいた。アイゼスは一人で黙々とジョッキを傾けている。
ちょっと迷ったがベルフェから習った魔法に【デトックス】という状態異常回復系の魔法があったことを思い出し、思い切って飲んでいく。酔いを抜かす魔法だ。
「プハァッ!」
「おおお!いい飲みっぷりだぜ!ほらもう一発!」
すぐに二杯目を注がれた。うーむ…
まぁとりあえずは座ってグイッとジョッキを傾ける。半分程度だけを飲んだ。
それをみたイヴは若干機嫌を悪くするが…
「お待たせしました!ソラムエビの丸焼きにソソロ鳥のスープ、あとはゴルダクツェーレのほうからきた魚をふんだんにつかったサラダです!」
「お、きたか」
料理が来た途端にまた機嫌がよくなる。ホントに気分屋だな…つかナイスタイミング。助かった。
アイゼスも何も言わずに料理に手を付け始めた。
しばらく落ち着いた時間が流れる。なんかいいな、こういうの…
結局俺たちが部屋に帰ったのはアイゼスとイヴが両方酔いつぶれた夜遅くだった。
***************************
シュアナスの森の奥深く。人もめったに立ち入らないようなその場所で、三人の異形が火を囲んで座っていた。
いや、よく見ると三人の周りには何匹もの魔物が群れているのがわかる。
《ゴブリン》に《オーク》はもちろん、《ヴァルトヴォルフ》や《トートヴルム》、果ては《グリフォン》までもが認められる。
何より異常なのはそいつらが仲良く、一か所に集まって身じろぎ一つもしないことだ。
そしてその《異常》をつくりだしているのは火を囲んでいる三人ということはもはや明白。問題はその正体が誰か、もしくは『何か?』だ。
「…マダ攻メ入ラナイノカ?」
不意に、やけに硬質な声があたりに響いた。火を囲む異形の一人がしゃべったのだ。
火にチラチラとさらされるその姿は勇猛そのもの。
そいつの目の前で燃えている火のように赤い鬣をもつ獅子の頭に鍛え上げられた体を包む紅い鎧。
しかしその姿を見ていて野蛮な印象を持たせない。なぜならその瞳にはなみなみならぬ知性がたたえられているからだ。
よくみれば鎧には複雑な魔法陣が幾重にも重なって書かれている。それがどんな効果を持つのか。まだ目にしたものは者はいない。
名はアロケン。《戦士公》の異名をとる智の悪魔だ。
「マァマァ!そう焦りなさんなってアロケン!ギシシシシ!」
次にしゃべったとのはその隣に座る人影だった。
いや、人影というのは正確ではない。なぜならそいつは『鳥人間』と表現するにふさわしい外見をもっているからだ。
もし、鳥の種類の見分けがつく人が見ればその鳥がツグミだとわかったかもしれない。
こいつも、下品な笑い方にも関わらず相当にキレる気配を漂わせていた。
それもそのはず、周りの魔物たちを従わせているのは彼自身なのだから…
名はカイム。万語を理解する鶫の姿を持つ悪魔だ。
「そうだね…そろそろ、進軍を始めようか」
三人目が言葉を発する。
そいつだけは人間の頭を持っていた。が、背中に生えた蝙蝠のような翼とゆらゆらと揺れるサソリのような尻尾から少なくとも《普人族》ではないとわかる。
また目を引くのが頭の上に載った小さい王冠だ。それは明らかにこの場にふさわしくないものだった。
そして彼は立ち上がる。
するとその周りの影も一斉に動いたように見えた。
いや、よく見るとそれは影ではない。おびただしい数の黒い蝗だ――。
そいつの名はアバドン。幾万もの蝗を使役する、冥界の王の一人だ。
続いて悪魔の二人も立ち上がる。」
「ギィィシッシシシシィ!皆サァン!進軍の時間ですよオオオオ!」
カイムがそう叫ぶと魔物達は一斉に立ち上がりだした。
そして進軍の準備を始める。
ゴブリンたちの幾人かはヴァルトヴォルフへ跨る。
トートヴルムたちは完全に地中にその姿を隠し、オークたちは装備を身に着け、隊列を整える。
たった五匹しかいないグリフォンには《オーガ》というオークの変異種が騎乗した。
そして、アバドンを先頭にその百鬼夜行は進軍を始める。
目標は、ザナウェル。それを手にいれんと欲する悪魔どもの行進。
「さぁてと。楽しい楽しい戦争だ」
アバドンは口元をにやりと歪めるとシュアナスの森をゆっくりと進んでいった。




