託宣
「はぁ?」
と思わず宿のおやじに聞き返した。
ちなみにこのおやじ、ガングレフという名前らしい。知ったのはつい最近だが酒場にくる野郎共からは「ガングレフのおやじ」といって慕われていた。
冒険者時代からこの街に居ついているため顔も広く、街きっての問題児であるイヴとももちろん知り合いだったようだ。
さて、ここで問題が発生した。
今は魔物も多いシーズンということで宿の部屋は埋まってしまっている。
それなのに「カナタって奴と奴隷契約を結んだ。オレもここに泊まる」と言って聞かないイヴが現れたではないか!
宿で暴れられるのはもちろんノーセンキューなガングレフにとって、なにかスマートな解決策が必要だった。
そしてその解決策というのが…
「まぁしょうがねぇと思って同じ部屋で寝泊まりしてくれや。お前さんには寝袋を貸してやるからよ」
といことらしい。
もちろん俺に選択権はないのだが俺の背中で酔っ払ってぐーすか眠っているアイゼスが問題だ。ちなみにブレストプレートを付けているため背中に当たっているものは硬い感触である。…ざ、残念じゃないし。
というのはともかく、俺としては非常に悩みどころだった。
が、酒に強かったらしく一樽空けてもいまだ健在のイヴがさっさと案内しないと暴れるぞと俺を脅したため同じ部屋で寝る運びとなった。
俺この人の下でやっていけるのかしら…
部屋に着くとイヴは速攻でアイゼスが使っていた方のベッドへ倒れこみ、だらしない表情ですぐに寝息を立てだした。
布団だけをかけ、俺が使っていたベッドにアイゼスを横たえる。
寝顔を見ると色々やばそうなので顔を背けながらである。
アイゼスにも布団をかけると、今度はガングレフからもらった寝袋を床に敷いた。しばらく使っていなかったのか、地味にカビっぽい。
だが背に腹は変えられず、それにくるまって眠りにつく。
明日は何をするのか…まぁそろそろクエストかなんかに行くんだろうな。
そんなことを考えつつ、【至上の眠り】と呟く。今が何時かわからなかったが一応、陸と設定して寝ることにした。
…一応ベルフェにモンスター相手によさげな魔法でも聞いておくか。
なんかワクワクしてきたな…
そう思いつつ、鍵をイメージする。そしてそのまま眠りに落ちた。
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パッと目が覚めた。いつものパターンだ。今日は右腕が重いな…どうせベルフェだろうな…と思い目を遣る。
すると飛び込んできたのは…
「エ、エリス様!?」
目が覚めるほどの赤だった。というか思いっきり俺の腕に抱き付いている。
キョロキョロとあたりを見回すとベルフェは俺の記憶から抽出したらしいパソコンの前でもぞもぞとしていた。「趣味は…寝ることと…発明……ガクッ」とか言ってたからな。寝てるかパソコンをいじってるかのどっちかだろう。
「ふぁ…おはよう。どうだい?こっちの生活は?」
ベルフェと違って寝覚めがいいらしく、早速状況を訪ねてくる。まぁ神や天使、悪魔にとって睡眠はただの娯楽でしかないそうだが。
「はい。結構慣れたましたね」
「それはよかった」
といってエリス様は笑顔となる。
「うんうん、結構。今日はこれからの予定をざっと言おうかなーって思ってさ。ちょうどアイゼスとイヴがカナタのご主人様になったでしょ?ここまでは予定通りなんだよね」
「そうだったんですか」
てっきりイヴは予想外のことかと思った。だけど当然か。エリス様って女神だもんな。うん。
「それで今後なんだけどね、カナタはザナウェルを守ってほしいんだ」
「守る?」
なにかが攻めて攻めてくるんだろうか?
「そう。危機が来るからそれを退けてほしい。今エストレア帝国が戦力を削られるのは避けたいからね」
なるほど。エストレア帝国というのはザナウェルが所属している国とアイゼスに聞いた。
「具体的な内容は?」
情報は多いに越したことはない。そう思って聞いてみたのだが…
エリス様は首を横に振った。
「それは無理だよ。僕たち神は地上に住む者たちに未来を必要以上に具体的に言うことができないんだ。とにかく、今はまだ街で冒険者のランクを上げてくれればいい」
「そうですか…わかりました。ランクを上げるんですね?」
今度はこくりと頷く。
「そうだね。最低Dランクかな。まぁカナタ達のクエストの道中にチョイ強な敵を一匹ぐらいおいとく。後はイヴを唆してうまくやってね。ふわぁ…じゃあ僕は寝るから…おやすみ」
話したいことは話したいらしく、まるでベルフェのようにすぐに寝てしまった。
顔を見ると、心なしか一か月前より顔色が悪い気がする。
「…で、なに…?今日は…呼ぶつもりだったけど…カナタもこっちに来たがってた…」
「うわっ!」
びっくりした…いきなりベルフェが耳元で話しかけてきたのだ。気配もなしに。
つーかここって俺の概念世界なんだよな?いわば俺の妄想の中みたいなもんなんだよな?なのになんでこんな好き勝手に…
なんて思ったが諦めた。エリス様たちに常識は通じない。
「…はぁ…いや、対モンスター用でいい魔法があったらと思って」
「対…モンスター……」
そうつぶやくとベルフェはどこからともなく魔術書を取り出し、パラパラとめくり始める。
「うーん…【二の刃】かな…剣戟を…飛ばす魔法」
「いいな。それを教えてくれ」
そうしていつも通り軽くレクチャーを受ける。
「…イメージは…自分が振った鎌の剣筋が…そのまま相手に飛んでいくように…」
そして実践。
それを見た後に何度か練習していく。今回はメメントモリを使って、ドアの外に向けて素振りをするみたいな形になった。
部屋である以上ドアはついているのだがその先は真っ暗で何も見えない。
どうなってんだろうか…と思いつつ…
「【二の刃】」
と魔法を撃っていく。
最初はふにゃふにゃとして途中で消えてしまったが、だんだんとコツをつかみ始めた。
ようはメメントモリの刃を広げるイメージだ。
「うん…もう…大丈夫そう……」
と言ってパソコンの前に戻ろうとしていたベルフェの足がピタリと止まった。
「そういえば…【武器支配】を使えば空中でジャベリンを使うこともできるから…」
「空中で…?」
どういうことだろう?
「…面倒だけど…一回やったげる」
おお…ベルフェがいつもよりはやる気だ…
やっぱエリス様がいるから張り切ってるんだろうか?本人寝てるけど。
「【ストレージ】」
まず手始めにベルフェは自分のストレージから大小、素材に至るまで様々な盾を出してきた。
「【武器支配】」
そしてそれらを一気に魔法で持ち上げる。大体二十枚ぐらいだろうか?それらが一糸乱れず、ベルフェの周りに円を作った。
そしてそれらは例外なく、黒一色に染まっていた。
そういえば《アラクノフォビア》とかいう鎧に【武器支配】を使ったときも鎧が緑っぽい色から黒に変わっていたな…
「…黒く染まっているのは…自分の魔力で盾を覆っているから…」
おっと心を読まれたようだ。というかここ自体心の中だから大抵のことはベルフェにお見通しされるのだが。
「そして…この魔力は【シェイド】と同じようなモノ…だから…」
そこまでいうとベルフェは手を前にかざした。
部屋の壁もそれに合わせて消失する。おお!盾がベルフェの前にきれいに二列で整列した。
「…【ジャベリン】」
そういうと俺が使うと同じく、漆黒の槍が盾から突き出した。俺が使うときと違うのは…
「【投擲】」
そうベルフェが唱えると一斉に槍が矢のように射出されるところだ。
それはまっすぐと部屋の外へ消えていく。
「…まぁこんな…使い方もできる…呪文は…適当に。なくても…いいはず。【ストレージ】」
盾が一斉にベルフェの【ストレージ】によって収納された。
こんな使い方もあると言われたが俺はまだあんなに多くの武器を扱えない気がする。精々二ケタにいかないぐらいだろうか、、イケると確信できるのは。
「…まぁ私が言いたいのは…魔法なんて……使い方次第ということだから…」
そういうとベルフェはベッドに倒れこみ、すぐに寝息が聞こえだした。
なるほど使い方か…
まぁとりあえずは【二の刃】とやらで魔物を相手取ろう…
ふぅ…俺も眠たくなってきた。
ベルフェやエリス様の邪魔にならないような場所で丸くなる。ベッド以外で寝ると帰れないかもしれないのでベッドの上だが。
するといつもの如くすぐに睡魔が襲ってきた。




